「いつでも会いにいけるようにした」。女子生徒の自転車に衛星利用測位システム(GPS)発信器を取り付けて行動を見張ったなどとして、ストーカー規制法違反容疑で会社員の男(45)が逮捕された。発信器はわずか3センチ四方の大きさで、専門店からインターネット上の手続きのみで入手したものだった。匿名性の高さや利用料金の安さなどから、GPS発信器がストーカー行為に悪用される例は後を絶たず、捜査関係者は「有効な犯罪ツールという認識が広まりつつある」と警戒している。(三宅令)
先回りする男
なぜ行き先が分かるのだろう-
女子生徒は昨年5月ごろから、自分の行動範囲に見覚えのある男が待ち伏せしていることに気づいた。アルバイト先、買い物先、学校帰り。見張られているような感覚で気持ちが悪い。「もう来ないでください」。あるとき男に伝えたが、その後も男は行く先々に出没した。
男は、埼玉県三芳町藤久保の会社員、三浦邦匡(くにただ)容疑者(45)。
女子生徒はその約3カ月前の同年2月ごろ、ツイッター上で三浦容疑者と知り合っていた。三浦容疑者は音楽ライブのチケットを転売していたといい、女子生徒は複数回購入。用心のために現金の受け渡しはライブ会場の近くで行い、自分の住所や氏名などは明かしていなかった。
「かわいい子だったので好きになってしまった」。三浦容疑者は、女子生徒が移動に利用していた自転車に目をつけた。サドルの裏側に密かに黒いビニールテープでGPS発信器を取り付けた。
白い箱形で、縦3センチ、横3センチ、厚さ1センチ。女子生徒は気づかずに利用を続け、発見したのは今年3月下旬になってからだった。
ネットで検索、手軽に入手
女子生徒から届け出を受けた警視庁巣鴨署は、発信器が三浦容疑者が東京・秋葉原などのGPSレンタルサービス業者と利用契約を結んだものであることを突き止め、同月31日、ストーカー規制法違反容疑で三浦容疑者を逮捕した。
三浦容疑者は調べに対し、「彼女にいつでも会いに行けるように取り付けた」などと容疑を認めた。
捜査関係者によると、三浦容疑者は業者をインターネット上で検索して発見。三浦容疑者が支払った費用は不明だが、利用する期間によって料金が設定されているのが一般的で、相場は1週間で数千円~数万円程度だという。
捜査関係者は「直接顔を合わせて取引する必要がなく、匿名性が高い。発信器自体の価格も安くなり、小型化が進んだことで、より悪用しやすくなっている」と指摘する。
人気があるのは、バッテリーが長持ちして充電のための回収が少なくて済むもの。専用アプリをスマートフォンに入れることで、リアルタイムで被害者がどこにいるか地図上で把握できるものもあるという。
悪用横行も規制なし
GPS発信器を悪用したストーカー被害は、後を絶たない。
23年2月には、新宿区などで元信者の女性に付きまとったとして、宗教団体関係者の男が逮捕された。男はGPS機能がある携帯電話を女性の親族の車に取り付けていた。
北海道函館市では25年8月、元交際相手の女性の車にGPS機能付きの携帯電話を付けて行動を把握していたとして、建設業の男が逮捕されている。26年11月には川崎市で、元交際相手の女性の車にGPS発信器を磁石で取り付けた会社員の男が逮捕された。
人工衛星を通じて位置情報が確認できるGPSは、高齢者や子供の見守りなどのほか、微細な変化を感知することによる地震や火山の予知などにも使われている。本来の目的と外れた用途が横行している格好だが、ストーカー事件などを担当する警視庁人身安全関連事案総合対策本部によると、契約そのものに違法性はなく、法律で取り締まることはできないという。
GPS発信器は盗聴器のような電波が出ないため、外部からの探知が難しい面もある。捜査関係者は「性善説には限界があるのかもしれない。もし自分がストーカーにあっていると気付いたら、警察への相談とともに日常的に使うものの周りを一度注意深く確認してほしい」と話した。