大阪に初の世界文化遺産を-。そんな願いが込められた堺、羽曳野、藤井寺の3市にまたがる巨大古墳群「百舌鳥(もず)・古市古墳群」が、平成29年の世界文化遺産登録を目指し、国内推薦に挑む。ライバルを押しのけて国内推薦を勝ち取るには、日本の歴史を象徴する古墳への住民の理解と協力、世界遺産登録に向けた大阪を挙げた盛り上がりが不可欠。周辺環境との共存など課題も抱える中、今夏の国内推薦決定に向けて地元では着々と準備が進んでいる。
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世界遺産登録は年1件の国内推薦を争って、地元公共団体が「普遍的価値の証明」「万全の保護措置」などを「推薦書原案」にまとめ、文化庁に提出。文化審議会が7月ごろに国内推薦を決め、閣議決定を経てユネスコ(国連教育科学文化機関)に正式推薦される。
百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録に取り組むのは、府と堺、羽曳野、藤井寺の3市。前年の選考もれを教訓に26年はあえて原案提出を見送り、27年の国内推薦、29年登録に照準を合わせ準備してきた。
最大の課題となったのは「保護措置」。百舌鳥・古市古墳群は古墳のすぐ近くにまで住宅などが建つが、世界遺産は遺産本体の厳重な保護に加え、周辺に「緩衝地帯」が必要だからだ。
堺市の場合、古墳近くは都市計画で建物の高さを制限しているが、その周辺に「古墳の大きさが感じられる眺望を確保するための地域」を設定。28年度から住宅地内では高さを31メートル(10階建て相当)以下とし、外壁の色や屋外広告物なども京都に準じた厳しさで規制することにした。
緩衝地帯が設けられる堺区など4区の10小学校区では説明会を開催。市世界文化遺産推進室の宮前誠室長は「住民生活に直接影響することなので、専門家の意見を聞き、慎重かつ丁寧に理解と協力を求めてきた」と話す。
古墳に親しんでもらいながら古墳を守る「保存管理計画」についても、宮内庁などと繰り返し協議を重ねてきた。古墳は立ち入りが原則制限されるが、世界遺産には公開の指針がある。
このため、仁徳天皇陵に近い収塚古墳では、帆立貝形の古墳が体感できるよう墳丘に生い茂る木々の一部を剪定したり原形を再現したりして数年以内に立ち入りを可能にするという。
近くの大阪女子大学跡地には、古墳群の説明などを行うガイダンス施設の整備計画もあり、世界遺産登録に向けた環境整備を着実に進めている。
一方、世界遺産の国内推薦は競争が激しく、楽観できないのも事実だ。
関係者の間では、「百舌鳥・古市古墳群」に、「北海道・北東北の縄文遺跡群」「宗像・沖ノ島と関連遺産群」「金を中心とする佐渡鉱山の遺跡群」を加えた4遺産が「ネクスト・フォー」と呼ばれ、今年の国内推薦が有力視されているという。