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02 オモシロイ人材を集め・活かす Diversity
事例1 アリゾナ州⽴⼤学
Decision Center for a Desert City
アリゾナ大学の Decision Center for a Desert City は、砂漠地域の水の供給や気候
の変動にかかわる研究において、研究者、住⺠、⾃治体が⼀緒になって知の共⽣産を⾏っ
ているレジデント型研究の事例です。レジデント型研究とは、専門的な研究能⼒を持つ⼈
材がその地域の住⺠として参加関与しながら研究を⾏う研究⼿法。アリゾナ⼤学の例では、
大学が地域と連携して地域主導の研究者コミュニティを作り上げ、水供給問題の大型調
査やシミュレーション、教育、⾏政、住⺠との定期的ワークショップ、情報収集、社会科学的
手法を用いた意思決定を実践。地域の環境にかかわる利害の異なる意思決定者やステー
クホルダーが協働して研究に携わることで、生み出された知を地域内で共有し、地域の活
性化のために使いこなす⽅法を共に模索していく試みが⾏われています。
(https://dcdc.asu.edu/)
学びたいポイント
• 大学と自治体がタッグを組んで、地域的な課題の解決を目指す
地域の環境問題に関連したテーマは、⾃治体とその地域住⺠が研究の中⼼に
加わることで調査研究が効率的に⾏われるだけでなく、新しい知識を参加する
住⺠や⾏政が意思決定に直接使うことができて応⽤へのスピードも速い。
• レジデント型研究という⼿法の可能性:研究者⾃⾝が地域の住⺠になる!
研究者自身がその地域の内側にいる当事者でありながら、現象を観察し課題
を解決する側の研究者でもあるという手法によって、研究課題への高いモチベー
ションが維持され、かつ外側にいる者とは異なった視点から研究に参加関与でき
る。
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02 オモシロイ人材を集め・活かす Diversity
事例3 Deaf Studies Digital Journal
研究発表といえば英語―、その凝り固まった考え方は、研究から言語マイノリティをはじき出
し、多様性を締め出す原因になっていることも。Deaf Studies Digital Journal は、
Gallaudet University が開始した世界初の手話によるピアレビュージャーナルです。研究
発表を⼿話動画によって出版するだけでなく、英語の研究を⼿話に起こす活動も⾏ってい
ます。⼿話話者、英語話者の間で聾唖に関する研究成果を共有する試みを通じて、これ
まで従来のテキストによる英語コミュニケーションに偏っていた研究発表の機会を当事者に開
いた画期的な事例です。
http://dsdj.gallaudet.edu/
学びたいポイント
• 「外国語」にとどまらない、手話コミュニケーションを採用
研究⼈材の多様性を確保するためには、マイノリティがストレスなく議論に参加で
きる環境を整えることが必要。聾唖研究の発表に、当事者が理解できる⼿話を
採用しないのは考えてみればおかしな話。同様にして、視覚障がい者を考慮し
た点字や⾳声による論⽂など、同様の視点でさまざまな分野で同じ実践が可能。
• 研究発表を⽂章でなく動画で⾏う表現形態
マルチメディアを駆使することで、これまでにできなかった研究発表の表現と
コミュニケーションが可能に。
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02 オモシロイ人材を集め・活かす Diversity
事例4 ニコニコ学会β
「学会」は堅苦しい。でも「学会β」ならやわらかい。「研究」は難しそう。でも「研究してみた」
だったらできそうな気がする。「論⽂」は書けなそう。でも動画だったら簡単かも・・・。―ニ
コニコ学会βは、動画メディアを通じて研究への敷居を下げ、誰でも自由に研究に参加し、
発表できる仕組みを創ったユーザー参加型研究プラットフォームの事例です。研究成果には
多様な価値があり、多様な参加の仕⽅があることを模索した試みです。ニコニコ⽣放送を利
⽤したオフラインの活動とオンラインのシンポジウムをミックスし、独⾃の市⺠研究を楽しむ⽂
化を形成しています。http://niconicogakkai.jp/info/about
学びたいポイント
• 学問は研究者の聖域である、という固定観念を取っ払う理念
研究は選ばれた特別な⼈々のための特権であるという固定観念を払拭して、研
究を本業にしていない⼀般市⺠でも潜在的に科学や学問に興味がある⼈々が
趣味のレベルから楽しんで参加できる新しい研究のあり方を提示。
• メディアミックスで参加者をひきつける
動画による研究発表の推奨、ネットでの生放送、合宿、シンポジウムなど、オン
ライン、オフラインのチャネルを駆使した手法で参加者をひきつけている。一般市
⺠向けにマーケティングすることによって、純粋なコンテンツの面白さだけで人の関
心が集まる、本来の学会のあるべき姿を体現。
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02 オモシロイ人材を集め・活かす Diversity
事例5 バイオハッカージャパン
大企業・研究機関に頼らず⾃宅でバイオ研究を志す「バイオハッカー」のためのウェブサイト。
⽣物学研究や遺伝⼦検査、たんぱく質構造の解析などを⾃宅で⾃費で⾏うガレージサイエ
ンティストたちが情報共有できる新しい事例。 「IT・電子技術が歩んできたように遺伝子・
バイオ技術も企業や⼤学の研究室を⾶び出し⾃宅で取り扱える時代が来るはずです。かつ
て、有名 IT 企業が⾃宅のガレージから始まったように、個⼈が⾃宅でバイオテクノロジーの
革命を起こす日はもうすぐです。」とサイトにあるように、実際バイオハッカーの中から⼤発⾒の
事例もある。http://biohacker.jp/
学びたいポイント
• 大企業・研究機関に頼らない DIY バイオという考え方
バイオ研究の資材等に必要な費⽤の低下を利⽤して、⼤学・研究機関や企業
で⾃分の興味関⼼にあったポストが⾒つけられない博⼠が⼯夫さえすれば⾃宅
で自分のやりたい研究を続けられるという、研究者としての新しい生き方を提示。
• 「⾃⽴した研究者像」を支えるクラウドファンド等による資⾦調達
企業や公的な研究費に頼らなくても、自分のポケットマネーを投じることで可能
な DIY バイオ。しかしクラウドファンドにより⼀般市⺠からの寄付を得られる仕組
みを整えたり、市⺠が⾃由に使えるようラボを開放することで、⾃宅・⾃費では限
界があった研究の可能性を延ばすこともでき、低予算で国内の研究人口を増や
すことができる。
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02 オモシロイ人材を集め・活かす Diversity
事例6 HTML5 Japan Cup(ハッカソン)
IT の分野では、多様性を技術開発に生かすハッカソンと呼ばれる活動が盛んです。ハッカソ
ン(hackathon)とは、ソフトウエア開発においてプログラマー、グラフィックデザイナー、ユー
ザーインターフェースデザイナー達が一同に会し、技術とアイデアを競い合い集中的な共同作
業をする開発イベント。「24 時間でひとつのサービスを作り上げ、壇上で聴衆にプレゼンする」
という形態で、多様な技術者が協働してサービスやプロダクトを開発し、世に出すまでを極め
て短期間で⾏うお祭り的なイベントです。「いいね!」ボタンの開発などで有名。日本でも
HTML5 Japan Cup という Web 技術者を対象とした Web サイトやアプリのアワードが開
催されています。「つながる、学べる、盛り上がる」という活動指針を掲げ、日本の Web 技
術者を増やし、育てること、企業と技術者がイベントを通じてつながりあい、気楽に交流でき
る機会をつくることを目的としています。
http://html5jcup.herokuapp.com/
学びたいポイント
短期間で多様性の中からイノベーションを起こす体験づくり
その場で出会った異業種混合の⼈々が集まり、ひとつのサービスを共に作り上げ発表するま
でのプロセスを参加者が体験できる。ただのアイディア共有ではなく最後まで作り上げるところ
がポイント。この仕組みは⼤学内外での異分野・異業種交流会に転⽤できる。
イノベーションのシーズを発掘する手っ取り早い方法
イノベーションは待っていれば起きるかもしれないし、起きないかもしれない。イベントとして定
期開催することで、異分野・異業種の⼈々を持つ知識と経験、アイディアをつなげてネットワ
ークを形成することができ、将来のイノベーションのシーズをリストアップできる。
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04 社会との協働を通じて信頼と支持を獲得する Trust
事例1 FD カフェ、キャリアプランニングカフェ
同じ大学・研究機関に所属していても、研究者どうしは横のつながりが乏しいこともしばしば。
分野が違う隣の研究室の⼈とはほとんど交流がないなんてケースは珍しくありません。しかし
研究倫理に関する実践など、異分野に共通する問題への対応には、組織内での現場レベ
ルの横のつながりを持つことが効果的です。FD(Faculty Development)活動は、大
学教員の能⼒向上のための活動であり、FD カフェとは大学、学部が主催し、研究者、教
員同士が効果的な授業方法や学生の支援、研究など、大学での教育研究活動に関する
ことを自由に語り合い共有できる場として、複数の大学で実践されています。また、キャリアプ
ランニングカフェもまた、⼤学内で若⼿教員が研究と教育、事務仕事のバランスを保ち、キャ
リアアップしていく方法をピアや経験者と語り合う場として実践されています。
http://www.tlsc.osaka-u.ac.jp/guide
学びたいポイント
現場レベルでの悩みを相談できる場を作ることで、ベストプラクティスを共有
研究者が同じ教育・研究活動やキャリアプランをピアや経験者と相談できるカフェ形式のイベ
ントは、研究倫理の問題を「こういうときはどうしたらよかったのか?」という事例レベルで語り
合い、ベストプラクティスを共有しあうことができる絶好の場。研究室、学部、大学、学会単
位でこうした横のつながりを作ることが、ボトムアップなインテグリティの仕組みを作るうえで効
果的。SNS などを通じて事例を共有しあうオンラインのネットワーク作りも効果が⾼い。
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04 社会との協働を通じて信頼と支持を獲得する Trust
事 例 2 STAP New Data (Knoepfler
Lab Stem Cell Blog)
新規性の高い研究ばかりがもてはやされる今ですが、STAP細胞研究不正ではネット上で
の匿名の研究者たちによる不正発⾒報告や、世界中のラボによる再現実験・追試の報告
が不正の認定を早めたことで、科学における再現実験と追試の重要性に注目が集まってい
ます。STAP New Data は 2014 年にSTAP細胞研究不正が発覚した際に
Knoepfler Lab の Stem Cell Blog 内に設置されたクラウドソースページの事例です。再
現実験を試みた研究者がクラウドで結果を投稿し、ポジティブな結果には緑、ネガティブな
結果には赤でマークすることで、世界中の追試研究データが短期間で集まりました。この試
みは、同分野の研究者が不正の可能性のある研究結果の追試にかける費⽤と時間的負
担を避けるために効果的です。
http://www.ipscell.com/stap-new-data/
学びたいポイント
再現実験・追試を登録するシステムで、世界的な研究ロスを未然に防ぐ
STAP New Data は一研究室がはじめた実践ですが、注目される研究結果に対する追
試・再現実験の結果をグローバルで登録でき、閲覧できるクラウド型のレポジトリが存在すれ
ば、無駄な追試に各研究室が時間と費⽤を対やすリスクを妨げることができ、不正や誤認
のある研究結果が自然と駆逐されるシステムを作ることもできる。
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04 社会との協働を通じて信頼と支持を獲得する Trust
事例3 ⾼⽊仁三郎市⺠科学基⾦
科学と市⺠の信頼をつなぐコネクターの担い⼿の⼀⼈に、科学を専門的に理解しながら、あ
くまで社会の⼀員として科学を公正な目で批評できる市⺠科学者がいます。⾼⽊仁三郎
市⺠科学基⾦は、市⺠科学者、⾼⽊仁三郎の遺志により創設された市⺠科学者の育成、
支援を目的とするユニークな研究基⾦の事例です。現代の科学技術がもたらす問題や脅
威に対して、科学的な考察に裏づけられた批判のできる「市⺠科学者」を育成・⽀援するこ
とを目指し、市⺠の視点から⽀援したい科学研究テーマに対する助成を⾏っています。
http://www.takagifund.org/index.html
学びたいポイント
市⺠が⽀持する研究に助成⾦を付ける仕組み
「市⺠科学にふさわしい研究」、つまり社会との接点を持った研究の取り組みを選んで助成
⾦を付けるファンドであるため、研究者は市⺠を視点にした研究ピッチを意識して提⽰する。
科研費のような「研究のための研究費」だけでなく、社会からの視点も含めた多様な価値観
で助成対象の研究を審査するさまざまなファンドがあってもいいのではないだろうか。
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04 社会との協働を通じて信頼と支持を獲得する Trust
事例5 ACT-UP(治験方法の科学的に妥当
な代替案の提案)
研究者以外の当事者が研究にかかわり、研究⽅法の倫理性、妥当性に意⾒することで、
研究のあり⽅はより当事者や市⺠の視点に近づくことができ、信頼に基いた協⼒や⽀持が
得やすくなります。ACT-UPはエイズ患者の団体が、エイズ研究に直接的な関与をするムー
ブメントの事例。患者として、研究者とは違った評価の視点・基準を持ち、研究デザインにお
ける治験方法の科学的に妥当な代替案の提案をするなどの具体的な活動を⾏っています。
具体的には、たとえば新薬の研究に置いてプラシーボを与えられた統制群患者の生命に与
えるリスクを訴え、かつ効果的に研究ができるための代替案を提⽰するといった例が代表的。
この活動の基盤として、研究をオープン・アクセス化し、「開かれた科学」を具現化している活
動のパワフルな例です。
http://www.actupny.org/
学びたいポイント
当事者が主役となり、研究に対して意⾒を⾔えるオープンサイエンスの流れ
研究の発展によって直接的な利益・不利益をこうむる当事者が、研究者と同じ⼟壌に⽴っ
て発言し、研究のあり方そのものを変えていく動き。研究する側の特権を取り払い、当事者
と研究者が平等に研究倫理と公平性を守る権利を有することを⽰した点が画期的であり、
このような市⺠活動が研究の透明化につながっていく可能性がある。
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提案書作成にかかわった人々
編集に当たっては、イベント参加者とのブレスト、サイトでのコメントを広く集め、それを編集
部が 5 つのテーマに分類し、各テーマリーダーが提案にまとめたものを 10 月のオープンフォー
ラムで発表。さらに具体的な提案や事例を追加で集めるという形をとりました。意⾒収集に
参加された方々、投票も含め、提案書へインプットをいただいた方はのべ 300 人程です。
s
サイエンストークス委員会
「勝手に『第5期科学技術基本計画』みんなで作っちゃいました!」編集部
2014年5 月 「第 5 期科学技術基本計画についてもっと知ろう、もっと語ろう」
2014年7 月 「出張サイエンストークス・バー in 大阪大学中之島センター」
2014年10⽉ 「サイエンストークス・オープンフォーラム 日本の研究をもっと元気に、
面白く。みんなで作る「第 5 期科学技術基本計画」への提言」
研究者アンケート(神経科学者 SNS オフ会での意⾒収集)
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旧バージョン
Ver 1.0 2015.02.04 リリース
http://www.sciencetalks.org/wp-
content/uploads/2015/02/sciencetalks_our_stbp_2015_ver11.pdf
Ver 1.1 2015.02.05 リリース
http://www.sciencetalks.org/wp-
content/uploads/2015/02/ScienceTalks_Proposal_for_5th_ScienceAndT
echnologyBasicPlan_Final_Ver1-1_2015-02-053.pdf