世田谷区 森昭雄日大教授講演会「テレビゲームと子どもの脳」
このページは、2006年3月6日(月)10:00〜12:00、世田谷区民会館大ホールで開催された講演会「テレビゲームと子どもの脳」(講師:森昭雄
日本大学文理学部教授)の講演内容のメモ書きを時系列にそって簡単にまとめたものである。森教授が講演中にどのような発言をされていたのかについての参考にしていただけると幸いである。なお、読みやすくするために、こちらで勝手に小見出しを付している。
録音が禁止されていた関係上、正確でない部分も多々あると思われるがその点についてはご容赦願いたい。編者は、脳神経学等にはまったく不案内なので、聞き間違いや勘違いもあるやもしれない。特に、講演会の後半部は、講演者が非常に駆け足でスライドの説明に終始したため、メモが追いついていない。本講演会に参加された他の方からのご指摘を乞う次第である。
*)なお、個人的な感想については、こちらを参照。
世田谷保健福祉センター健康づくり課長挨拶
- この講演会開催に当たり、いろいろな方々からご意見いただいた。貴重なご意見ありがとうございます。
- 本講演会は精神保健福祉講座としてこれまで開催されてきたものの一環であり、区民の皆さんと一緒に考える場と考えている。
- 子どもは早い時期(小学生は62.8%はインターネットを利用している)から情報機器に触っている。そういう状況を不安に感じているお母さんが多いことを母子保健活動を通じて感じている。また、その一方でITスキルを身につけさせたいお母さんもいらっしゃる。
- 自分もゲームにはまったことがある。家にはゲーム機が合わせて7台ある。
- 現時点での情報を提供するのも区の役割と考えており、子どもの心の健康づくりについて考えていくきっかけとしてとらえてほしい。
- 講師については、これまでの実績(世田谷区・他自治体・学校現場)からお願いした。
- 講演会のご静聴をお願いしたい。
講演本編
前置き
- 脳に及ぼす影響の研究は遅れている。
- 私は動物の神経と脳の研究をしてきた。日大文理学部では動物実験できないので、脳波の研究を始めた。お年寄りの認知証の研究をしてきた。その中で大学生の中で認知症と同じような現象(特に前頭前野の状態とβ波の状態)が見られてきた。
- 現実的に子どもたちがおかしくなっている。笑わない。キレやすい。
どんな生徒になりたい?『産経新聞』2006年3月2日付
[編注]日米中韓の生徒の比較調査のスライド表示
- 「リーダーシップが強い」という項目で日本の数値が低い。これはやる気の無さを示している。
- 「勉強がよくできる」という項目で日本の数値が低い。これもやる気がなさを示している。
- 「未知のものに挑戦する」という項目で日本の数値が低い。これもその気がないことを示している。
- 一方、日本の子どもは携帯への興味が高い。
[編注]ただし、プレゼン資料には携帯については他国の数値は掲載されていない
『ゲーム脳の恐怖』
- 地方に講演に出かけても土日子どもの姿を見かけない。
- 公園で子どもを見かけてたとしてもゲーム機で遊んでいる。
- 運動をしない。部屋に籠もってゲームをしている。
- 「ゲーム脳の恐怖」は韓国版と中国版も発行されている。
[編注]『読売新聞』、『毎日新聞』の本の紹介記事のスライド表示
[編注]『夕刊フジ』「17歳ゲーム脳恐怖寝屋川3人死傷」の一面大見出しのスライド表示
- 昔から少年犯罪は起こっていたが、簡単に人を殺すことはこれまでなかったことだと思う。
- 17歳の犯人は「ゲームだと一発だと死ぬのに」と発言。普段からキレやすい性格だった。
- 古い皮質は本能行動と直結としている。動物脳とも。「本能・情動・やる気」
- 新しい皮質=大脳皮質は高次機能であり、古い皮質を抑制。「将来に対する夢」
- 脳幹(生命の中枢)は動物的感覚、脳全体の活動性を高める
- 視覚野、聴覚野は早くから発達する。連合野はネットワークで後天的に発達。前頭前野は後天的に発達。
- 厚さは2.5〜3mm 6層。2層・3層…学習に重要な働き。
- 情報は1秒間に数十mのスピードで進む。使えば使うほどネットワークは強化される(一種の学習)。
- 『サンデー毎日』で久保田競京大名誉教授による誹謗中傷があった。お歳をめされたのではないか? ゲーム協会とゲーム会社と関係があるかしれないが、私に2編しか論文がないのはウソ。私は一流の雑誌に発表している。
- 朝から晩までしゃべらないと、感覚性言語野を使わない。ネットワークが働かない。ディスカッションをすることが大切。
- 前頭前野はいろんな情報が統合され、決定される。
- 1840年代、事故で前頭前野を損傷してしまった人の症例。知能指数は落ちていない。歩くこともできる。ところが、性格がかわってしまった。働く意欲がなくなる。突然キレる。顔は幼児っぽい顔に変容した。
- 「ゲーム脳の恐怖」は新潟大学、和洋女子大、富山大学でも入試で使われている。
前頭前野の比較(人間・猿・猫・ラット)
- 人間は大きい。理性・道徳心・将来に関する計画・一時的な記憶。動物的な行動へのブレーキ。前頭前野が欠けていると必ず脅迫犯罪を犯す。人を殺すことが悪いと思わない少年の存在は前頭前野が発達していないから。
- 猫は前頭前野が猫の額ほど。反省する猫はいない。鼠は「点」くらい。猿は猿まねで心から反省するわけではない。反省するのは唯一人間だけ。
- 前頭前野は、不適切な行動を抑制。長期的な利益を選択。将来を頭に浮かべて計画。
乳児とTV
- 小児科学会「2歳まではTV・ビデオを見させない」ことを提言。乳児にTVを見させていると、脳の神経回路をくみ上げ成長しない。TVを消すと落ち着きがなくなる。
- 幼児に母親が話しかけると、脳の神経回路をくみ上げて成長する。
- 目線を合わせて話しかけないと、目線を合わせないものと乳児はすりこみされる。
- IQ200の少年。8ヶ月から親が本を沢山読んで聞かせた→聞く耳をもつ。
- 17野(視覚野)→ものの形として認識→言語化 という流れがある。
脳の活動
- ハイテクな脳波計で脳の活動を検知している。
- ビジュアル脳(小学生・中学生時ほとんどゲームをしてない)タイプはしゃべる。
- 読書してるときは、脳は非常に働く。携帯メールをしているときは働かない。まんがを読んでも働かない。歴史まんかのようにものを覚えるようなものは働く。パソコンは最初は働くが、時間が経つと働かなくなるから、40分〜50分で一回休むべき。
- ゲーム(小学1年生からずっとゲーム)脳タイプ。読書をしてもブローカイ野が働かない。前頭前野に情報がいきにくい。無言。ゲームにはまっている人は無口な人が多い。
- 初めて蛍を見たりすると脳が働く。自然とふれあうべき。アニメーションは働かない。毎日同じものを見ているのは要注意。
漢字と脳
[編注]「漢字に弱い中学生。成績上位ほど読書好き」(『日経新聞』)のスライド表示。
- 漢字が書けなくなる原因は、長時間のパソコン、ケータイでのメール打ち込み、コンピュータゲームで会話時間が減少し、言語能力が低下しているから。
- 西洋人にはパソコンは大いにいい。日本人は確実に漢字を忘れる。
β波の低下
- 100個母集団を取ると統計的に問題ない。
- 認知症の患者はβ波が低下してα波と重なる。
- ゲーム中はβ波が低下する。ゲームすると血流も低下する。これは日立の機械で測定した。
- 浜松フォトロンの社長も使っているイラストだ。
- 久保田京大名誉教授の『ゲームは脳を磨く』は、何を根拠にこういうことを平気で言っているのか? ゲーム会社と何らかの関係あるから私のことを批判している。
刷り込み
- 脳の発達3歳までで70%がきまる。10歳で95%。
- 韓国で200時間や86時間や56時間でゲームやりつつづけて死んだ例もある。これは、前頭前野の働きが悪くて抑制がきかないから。
- 鴨の刷り込み行動:最初に目に映ったものに反応する。
- 縦縞環境で育った猫は、横縞に応答しない。
- 視覚情報が入る時期にを遮断すると、ものが見えなくなる。人間の赤ちゃんも同じ。
[編注]ウィーゼル博士(ノーベル生理学医学賞受賞)と講演者のツーショット写真のスライド表示
最後半戦
[編注]後半非常に駆け足になってしまったので、メモしきれませんでした。
- 鼠の実験で、刺激の乏しい環境(一匹)に置くと、脳の重さは軽い。大脳皮質のニューロン樹状突起少ない。一方、刺激が豊富環境(たくさん)に置くと、脳の重さは重い。大脳皮質のニューロン樹状突起多い。
- ケータイメールは前頭前野の活動を低下させる。β波がメール入力時低下する。
- 朝から晩までメールをしている女子高生は朝ご飯・前の日の晩ご飯覚えていない。認知症と一緒。
- チャットも要注意。ベータ波が低下する。
- 5つの言葉を憶えてもらう実験…ゲーム脳だとワーキングメモリがダメになる。
- 文系の一年生は憶えられる個数が正規分布になるが、パソコン中学生はほとんど憶えられない。
- 狼に育てられた少年は、15歳でやって歩けるようになった。結局憶えた言葉が40語たらずだった。
- ゲーム15分。読書して感想文を手書きで書かせるれば大丈夫。
- 恐怖は扁桃体に焼き付けられて一生消えない。過激なゲームはやらせない方がよい。
- こういう脳の動きの視覚化は、世界で私しかやっていない。
- 音楽を聴くと活性化する。ベートーベンやモーツアルト聞かせると活性化する。
- 手塚治虫が『火の鳥』を描くとき、ドクター中松が考えるときはベートーベンを聴いている。
質問用紙に基づく質疑応答
【Q】ゲーム脳にさせないためにはどうすればよいのか?
↓
【A】幼児は基本的にやらせない。小学生・中学生は毎日15分。読書は3倍。手書きで感想を([編注]会場失笑ともどよめきとも)。土日は30分。血が吹き出るようなゲームはやらせない。
【Q】ゲーム脳であるのを見分けるにはどうすればよいのか?
↓
【A】半ゲーム脳は、しゃべらない、笑わない、忘れ物が頻繁。右脳が低下している。ゲーム脳は、しゃべらない、笑わない、ぼーっとする、切れる。左脳が低下している。
【Q】ゲーム脳から回復させるにはどうすればいいのか?
↓
【A】聞く耳を持たせるようにする。音楽・読書(音読・速読)・感想を書かせる。家族で週末どこかに行く。コミュニケーションの時間を増やす。
【Q】聞く音楽の種類に差はあるのか?
↓
【A】ロックについては調べていないのでよくわからない。前頭前野が働けばよい。
【Q】脳を鍛えるトレーニングソフトや通信教育についての見解は?
↓
【A】大人がするので抑制できるのであれば問題ない。小学生や中学生は抜け出せない。オンラインゲームは要注意。私はさせない。「大人のDSトレーニング」は私だったら使わない。手で字を書かせるのはよいと思うが、頼るのはよくない。それよりは、古本屋で100円の小説を読む方がよい。遊ぶ時間を決めるべき。
【Q】取り上げたらキレてしまう。どのように対応すべきか?
↓
【A】依存症になってしまうと難しい。中学にはいると反抗期にもなる。目的意識を持たせるブレーキ聞かせるようにする。会話を増やす。
【Q】どんな食べ物を食べさせた方がよい?
↓
【A】脳はもの凄いエネルギーを使う。朝ご飯は食べさせるべき。3度の食事をきちんと。
フロアからの質問
【Q】川端裕人さん
- 森教授の見解には反論が多いので、会場の皆さんはゲーム脳について家に帰って検索して調べてほしい。
- 森教授はゲーム脳についての論文を専門雑誌に出していない。科学雑誌に載せないとディスカッションができない。是非、投稿して欲しい。
- 少年の侵した殺人・窃盗はむしろ近年減って減っている。仮にゲーム脳というものがあったとしても、影響はほとんどないのでは?
- 私は子どもにゲームはさせていない。
- 世田谷区で子どもについて教育現場で脳について扱うのは慎重にお願いしたい。
↓
【A】森教授
- ネットで何かを書いている人はゲーム会社と何らかの関係のある人。私は日本人でこどもを愛している。
- 雑誌にリジェクトされたというような事実はない。学会でもしゃべっている。がげでごちょごちょ言っているだけ。
- 京大はゲーム会社から70億もらっている([編注]任天堂山内相談役の寄付のことかと思われる)。ゲーム会社がらみになってしまうと、まともな人もまともなことを言わない。
- アメリカのニューロサイエンスという学会でしゃべっている。ここは、世界的にレベルの高い学会。それをないとあることないことを京大の先生が言っている。
- ゲームをすると、自閉症になるなどと講演でしゃべっていない。あることないこと書かれている。
- 私は日本人として子どもがおかしいのを憂えている。逆にあなたの方がおかしいのではないかと思う。
- 私が関わっている川口の学校では2年間で不登校がゼロになった。子どもたちに向かって「あなたはゲーム脳」などとは言っていない。
- 何が不満で言われているのか、理解に苦しむ。
- 京大の名誉教授でもお金がらみに染まってしまうと言いたいことも言えない。
- 私は科学者ですから言いたいことを言う。
- ネットでそのようなことが言われていると言うあなたこそ日本人として非常に恥ずかしい。
[編注]「あなたこそ日本人として非常に恥ずかしい。」発言を受けて会場より賛同の拍手多数。
[編注]会場より「自閉症については証拠のテープがあるぞ」のヤジ。
世田谷保健福祉センター健康づくり課長締めの挨拶
- 教育委員会との共催については、教育委員会の人間で責任あるものが議会でいないので代わりに説明する。チラシの配布方法に不適切なところがあったところはお詫びする。
- 脳科学については様々な知見がある。文部科学省では悪影響があるかどうか検討中。
- 母子保健行政を行っているものとしては、保護者の役割が重要。子どもをどう育てたいのかについての課題の提起とさせていただきたい。
参考:配布レジメについて
[編注]図及び表を11個収めた裏表2枚4Pのレジメが配布された。その中で以下に11個目の『ゲームとは?』を紹介する。
- ゲームは一時的な満足だけである
- こころを十分癒すことはない
- 他のことに対して興味を持たなくなる
- 終わるとむなしさが残る
- 大切な時間の浪費である
- 未来の夢を現実的なものにできない
- 情がなくなってくる
- 無気力で無口になってくる
- 怒りっぽくなる(キレやすい)
- 勉強に対する集中力はなくなる
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