ネットデマと戦う:ギズモード湯木進悟編

この記事の位置付け:

ネットにおけるデマ流通がなぜ増えているのか、どのように止められるのかを考察するとともに、デマ発信源の例として有名ブログ「ギズモード」ライターの湯木進悟氏を挙げ、その問題点を列挙することで、ネットにおけるデマ問題への関心を高める。

なぜネットでデマが生まれるか:

ブログをはじめとするソーシャルメディアの普及により、今日では多くの人が簡単に情報を発信、流通できるようになった。おかげで個人の面白い話やタメになる情報を簡単に入手できるようになったし、コミュニケーションも容易になった。基本的には喜ばしいことだ。しかし良いことばかりではない。ソーシャルメディアには、多くの人が簡単にデマを発信できる、そして多くの人がその流通に加担できるという側面もある。実際、ネットで生まれ、ソーシャルメディアで拡散されるデマがこのところ相次いでいる。

デマの流通がさかんになったのは、ただネット人口が増え、ネットに流通する情報そのものが増えたからだけではない。たとえばTwitterはデマの流通にうってつけのメディアで、Twitter人気がさまざまなデマの拡散に貢献していることは否めないだろう。一度に140文字しか発言できないというTwitterの特長は、ユーザがキャッチーな(しかし間違った)表現を優先する傾向を生み出し、これはデマの温床となる。デマTweetはまずその情報発信者をフォローした人達に届けられるため、ブログのように公平な場で開示されるよりも鵜呑みにされやすく、的確なツッコミが入ったときは手遅れという例も少なくない。またURLは短縮されてしまうため、情報元を把握しづらく、情報元が確認されないままに拡散される危険性がある。そして非公式RTの連鎖は、伝言ゲームによる表現の歪みを生み出す。

もちろん、デマというものはソーシャルメディア、ネットメディアの登場以前からあった。今日でも、真偽の不確かな情報や、まるっきり間違った情報を積極的に発信することで、デマの拡散に貢献している新聞紙や雑誌は少なくない。しかし新聞や雑誌については、私たちはなにがどの程度のクオリティを保っているかについて、おおよその共通理解を持っている。しかしネットメディアではこの共通理解がまだ不確かであるため、何度もデマを繰り返しているにも関わらず、まだそのように認識されていないものが多い。

ネットデマとどう戦えば良いか:

私はこのようなデマの対処法として、ブラックリストの作成を提唱している。SPAMと同様に、デマの根源となるメディアをリストアップし、それらの情報をTwitterから、はてなブックマークから、Facebookから遮断することで、デマとの接触を未然に防ぐのである。実際、そのような機能を備えたTwitterクライアントも存在する。この方法が効果的なのは、SPAMが一部の企業によって大量に生成されているように、ネットのデマも一部の人間が生み出しているからである。考えてみれば、デマを何度も生み出すには、それなりの影響力(ページビュー、フォロワー数)が必要なのだ。しかしブラックリストでは、自らをデマから防ぐことはできても、デマの流通そのものを防ぐことはできない。将来的にブラックリストをユーザ間で共有していく仕組みがあれば良いが、多くのネットユーザーがそのような仕組みを利用できるまでにはまだ時間がかかるだろう。

もちろんネットがデマで溢れようと惑わされない俺は問題ない、というスタンスをとることもできる。しかしデマの流通を見過しては、(大袈裟に言えば)社会が誤った認識に至る可能性がある。誤った認識が社会常識となってから間違いを訴えても遅い。私自身、できればもっと前向きなことを考えたい(泣き言を言えば、こんな記事を書いたところでなにも私にメリットはない)。しかし現実にデマが流通していて、それを止めたいと望む以上、デマの例をひとつひとつ挙げて、その悪質さを示すしかないのである。

残念ながら世の中にはデマでもなんでもいいからPVを稼ぎたい人、騒ぎたいだけの人、「釣り」で楽しんでいる人もいて、そういう人達にとってデマの指摘は無粋なことだろう。もしかすると、なにが事実なんてどうでもいい、なんでも事実を知りたがるのは「事実厨」のやること……と言われるかもしれない。それでも私はデマを容認するでも黙認するでもなく、もちろん拡散するでもなく、抵抗していくことで、より良いネットメディア環境が育っていくと信じたい。


ネットデマ発信源の具体例:

そろそろ具体例が必要だろう。というわけでここでは悪質なデマを繰り返す例として、ITブログメディア「ギズモード」のライターである湯木進悟氏を取り上げる。ほかにもデマを繰り返すメディアはあるが、氏を取り上げたのには幾つか理由がある。

  • 記事の題材の大半がITで、私の専門であること:
    武田邦彦氏のことはNATROM氏に任せたい。
  • 記事の多くで社会的なテーマについて言及しているのに、大勢の人がデマと気付いていないこと:
    エイプリルフールのジョークにツッコミを入れるようなことはしないが、氏のデマはそのような些細なものではない。そしてはてなブックマークなどの反応を見る限り、氏のデマを大勢が信じている。
  • メディアとしての規模が大きく、価値が認められていること:
    サーチナやガジェット通信の価値についてはわざわざ取り上げるまでもない……と思いたい。
  • 「ギズモード」には他のライターによる良質な記事もあるのに、氏のひどい記事もあるという状況が異質なこと:
    良い翻訳者もいるのに、彼らが同僚になにも言わないのは不思議だ。
  • 氏の記事は大半が「ギズモード」英語版の翻訳記事であり、原文との比較で検証が容易であること:
    もちろん原文が正しいとは限らないが、氏の記事のひどさはそうしたレベルを超越している。
  • 氏の記事に明白な問題があること:
    たとえばTechCrunch JAPANの岩谷訳は時折かなりひどいが、おおむね事実誤認にまでは至らないので、かろうじて趣味の問題と言えなくもない。これに対して、氏の記事は圧倒的にひどい。

私は氏と面識はないし、個人的な恨みもない(デマを拡散しているということを除けば)。私自身も誤訳をすることはあるので、誤訳ひとつにそう目くじらを立てるつもりもない。リンチするつもりもなければ、金輪際執筆をやめろと言うつもりもない。ギズモードには知人もいるし、有益な記事もあるので、ネガティブキャンペーンをしたいとも思わない。ただ、あまりにひどい記事に対しては、私に出来るのはこうして指摘することだけなのだ。それに、同姓同名の別人でなければ、マイコミジャーナル時代、氏ははるかにまともな記事を書いていた。なんとか今後はまともな記事を書くよう祈るばかりである。

以下は問題のある記事の紹介と、問題点の指摘であり、本記事はこれでおしまいである。途中で飽きても良いように、ひどい順に並べた。これらの記事をどの程度の問題と考えるか、それにどう対応すべきかという点については、読者の感想にお任せする。氏によるデマ記事がほかにもあれば掲載するのでコメントをTwitterなどでいただきたい。また認知されていないデマメディアがあれば、このようにまとめ記事を作っていただけると参考になる。

デマ例)自由過ぎるAndroidがユーザーに敬遠され始めてる? 悲劇のガラケー化する懸念まで噴出中…
問題点:
Androidに様々なバンドルソフト(本文ではブロートウェア)が導入されていることを懸念する記事。その指摘自体はおかしくないが「おまけに多くのアプリが、最初の試用期間のみ無料であるものの、一定期間が過ぎると勝手に有料に切り替わって、利用料金を請求される羽目になるというイワクつきだったりもするんですよね」などと原文にないことを平気で付け加えている。具体例はない。引用されている専門家のコメントもまったく翻訳の体を成しておらず、好意的に言っても捏造である。

この記事はちゃんとした訳との比較も行われている。実はこの比較記事を書いたのは私だ。氏のコメント捏造や事実誤認をまるでイタコのようだと感じた私は、これを「イタコ訳」と表現し、おかげさまでそれなりの認知を得た。比較記事をおもしろおかしく書いたのは、正直に言えば、ここまで書けば問題は改善されるだろうと思っていたからである。しかし実際には、同氏の記事は「翻訳」ではなく「英語版に基いた独自記事」という体裁をとるようになっただけで、イタコ的な執筆は続いている。

デマ例)トリケラトプスが教科書から消える?
問題点:
トリケラトプスとトロサウルスは実は同じ生き物だった、という記事。これは原文(英語版)の「トリケラトプスは存在しない:実は他の恐竜の子供だった」というタイトルがすでに悪い。英語版が参照しているBoing-Boingのタイトルは「ふたつの恐竜がひとつになるとき」であり、さらにその参照元であるNew Scientistのタイトルは「変身ザウルス(Morphosaurs):形を変える恐竜はどのように我々を欺いたか」である。知性のキャズムを見るようだ。氏は「えっ、お馴染みのトリケラトプスという名前も消えちゃうのかな?」などと適当なコメントでお茶を濁しているが、クエスチョンマークを付けるだけまだマシだろうか。

この記事にもツッコミを入れたブログや、批判まとめが存在するが、残念ながら誤解のほうが早く広まっている。

デマ例)アップル、今度はAndroidに全面戦争…そもそもAndroidのベースを作ったのはアップルで、特許侵害に当たると提訴!
問題点:
Androidのアイデア(具体的には「リアルタイムAPI」と呼ばれる特許)は、Androidの父と呼ばれる現GoogleのAndy Rubinがアップルで働いていたときに思いついたものだ、というアップルの主張に関する記事である。十分にセンセーショナルな内容だが、氏はこの主張が長く続くアップルとHTCの訴訟のあいだで出てきたものという背景を知らないか無視しているため、この主張は「アップルが米国際貿易委員会(ITC)に提出した訴状」で「すぐさま米国内でAndroidを搭載する全製品の販売差し止めを行なうように要求」するという内容だと書いてしまっている。繰り返しになるが、実際は継続している訴訟の話であり、タイトルからして間違っている。

もしアップルがAndroid製品すべての差し止めを求めるなら、当然ながら新しい裁判が必要になるだろうが、そのようなことは今のところ起きていない。英語版記事では煽りつつも慎重に「将来的に米国でAndroidの販売差し止めの根拠として利用されるに十分だ」と書いている。大違いだ。このインパクトのある記事は2ちゃんねる経由でゲハ系ブログに引用され、悲惨なほどのデマ拡大を招いている。

デマ例)iPhoneやiPodで音楽を聴かなくなってる? 楽曲ダウンロードが失速中…
問題点:iOSアプリがiTunesの楽曲よりも早いペースでダウンロードされている、という記事である。リンク先のグラフを見れば分かるとおり、楽曲ダウンロード数も堅調に伸びている。氏の言う「伸びが鈍化してきている」というのは微妙な表現で、たしかに伸び率は目立って増えていないが、ダウンロード数の伸びが鈍化しているわけではない。いずれにせよ「iPhoneやiPodで音楽を聴かなくなってる?」の質問の答えはノーであり、「時代を追うごとに音楽を聴くスタイルが変わってきたという指摘もありますけど、そもそもお金を払ってまで音楽を購入して聴く人自体が減ってきちゃったってことなんでしょうか?」といった考察はまったく無価値である。

デマ例)ソニー、CES終了後に大発表か! 重大な事業見直しを明らかに
問題点:ソニーが業務改革を行うというらしいというTIMEの記事に氏が「えっ、もしやプレステ撤退?」と根拠不明のコメントを付け加えたせいで、mixiニュースが「プレステ撤退? SONY重大発表へ」と伝え、伝言ゲーム的に「ソニーPS撤退」ネタが広がった。

デマ例)ケータイ各社の度肝を抜いたアップル! 携帯電話キャリアに縛られない新サービス「iMessage」は寝耳に水の大反響…
問題点:iOS5で搭載されるiMessageの記事。元ネタは業界有名人John GruberのDaring Fireballで「詳しい筋によれば、アップルのキャリアパートナーはiMessageについて、キーノートで発表されたときにはじめて知ったということだ」というだけである。いわゆる業界うわさ情報になるが、氏にかかれば、これはいきなり断定文になる。「iPhoneを提供しているケータイ各社は必死の対応に追われているみたいですよ」がどこから得た情報なのかは謎だ。まあ、このレベルを上げればキリがない。

デマ例)これがiMessageだ! iOSでつながる最強のメッセンジャーに期待…
問題点:もうひとつiMessageについての記事。氏がよくやるテクニックだが「もしやついにiPhoneやiPadも、このレベルのプロフェッショナルユースにだって使えちゃうねって絶賛評価が出てきています!」といった感想が、誰から出てきているのか分からない。少なくとも原文にはない。自分の感想を伝聞系にしているのか、それとも友達にでも聞いたのだろうか。(そもそも「もしやついに…って絶賛評価」ってどういう意味なのだろう)

デマ例)任天堂、iPhoneなど敵でもなんでもないと強気の姿勢!
問題点:はてなブックマークで紹介されていたので追記。任天堂、岩田社長の英字インタビュー日本語訳だが、本人が言ってもないことを平気で書いている。すごく平易な英文なのに……。妄想だったらインタビューの体裁をとらないで欲しい。まさにイタコ訳。

デマ例)デザインじゃない、カギは速度なのだよ! 驚きのLTE高速通信対応の新「iPhone 4S」が9月発売か…
問題点:Twitterで教えてもらった記事。タイトルには次のiPhone(iPhone 4S)が次世代通信技術であるLTEに対応するとあるが、本文を読むと、同じ次世代通信技術ではあるがLTEとは別のHSPA+に対応するとある。英語版も、参照元のAppleInsiderも、その参照元のForbesも、主題は「アップルはLTEに対応させたかったけど、できなかった」なのだが、氏のタイトルではこの根本が反転している。

デマ例)この流出はヤバい…匿名のはずのウィキリークス情報源がダダ洩れの疑い!
問題点:はてなブックマークで紹介されていたので追記。Wikileaksのパスワードが漏れ、これまで細かな部分を削除したうえですこしずつ公開を行っていた米国の外交公電が一気に流出したという話である。問題は「Wikileaksの情報源」ではなく、「Wikileaksに流出していた外交公電の情報源」であり、規模を考えるとはるかに深刻なことなのだが、氏はそれを混同している。そもそもWikileaksに情報を提供するために身元を名乗る必要はないので、情報源として漏れる危険性はない(もっとも、情報を提供したのは米陸軍のブラッドリー・マニング上等兵と言われている)。

参考)本当に風が変わってきたのか…ついに企業でもWindowsではなくMacを選ぶ会社が急増中!
問題点:これはすごく釣りっぽいのだが、原文と参照先のAppleInsiderを見れば確かにそのようなことが書いてあり、翻訳(風)記事としては間違っていない。しかし「Fortune 500に選出されている有名企業の35%が、社内で利用するパソコンの選択肢としてMacを選べるようにしており、実際には多くの社員がMacの購入を進めている」「学生の8割が、新しく購入するパソコンはMacだと答えた」の証言元は、Global Equities Researchなる投資会社のアナリスト、Trip Chowdhry氏で、これらの企業やアナリストについて検索してもChowdhry氏がGlobal Equities Researchの創業者で、いろいろなITの話題にコメントしている以外の情報が出てこない。何を情報源に書くかというのはメディアとして重要なポイントだが、それはここではまあまた別の話だ。

参考)オンラインバンキング利用でハッカーに盗まれたお金は戻ってきません…ややセキュリティーの甘い銀行にも責任なしとの判断が!
問題点:これはタイトル釣りパターン。お金が戻ってこないのはアカウント情報を盗まれた本人のせいというだけである。見たところ本文におかしいところはない。

参考)Androidは自由の天国だと思い込んでる? グーグル、勝手にユーザーのケータイからアプリ削除中
問題点:
GoogleがユーザーのAndroidスマートフォンから悪意のあるアプリを削除した件について書いた記事。Googleなりのセキュリティ対応策について非常に煽ってはいるが、おそろしいことに嘘を書いているわけではないので、氏の翻訳(あるいは創作)にしてはマシである。

参考)核爆発、実は世界中でいっぱい起きちゃってる件
問題点:指摘するのも憂鬱になるが、いかにも釣りっぽいタイトルのせいか、この記事には批判が多かったようで、珍しいことに「一部誤解を招く表現がありましたので、書き換えました。関係者にはお詫び申し上げます」という追記が行われている。なぜ他は訂正しないのだろうか?

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