シャープ(株)は17日、都内のホテルで、新技術搭載の高精彩TFT液晶ディスプレイ『ワンダーピクス』シリーズを発表した。
●アモルファスSiでの限界に迫る高精細を実現
ちょっと液晶テクノロジーに詳しい人なら、“液晶のシャープ”が、LTPS(低温Poly-Si)技術を製品に採用せず、未だにa-Si(アモルファスSi)のままでいることに疑問を感じたことがあるかもしれない。LTPSは、TFT液晶の要となる画素トランジスタの性能を向上させ、その結果画素に占めるトランジスタの面積を相対的に小さくできるため、高精細な液晶ディスプレイを製造できる。また、外部からの入力を画素トランジスタに送り込む“ドライバ回路”も基板上に直接造り込むことができ、部品点数や接続点数を大幅に削減できるというメリットもある。ただし、ガラス基板上にLTPSを形成する段階が難しいとされ、特に大型パネルの製造が非常に困難だ。
一方、a-Siでは、せいぜい画素密度100ppi(Pixel Per Inch)程度が実用上の限界とされてきた。しかし、展示会レベルではIBMやNECなどが200ppiクラスの超高精細なディスプレイをサンプル展示しており、電子ブックや、業務用モニタとしての活用に期待が集まっていた。
前置きが長くなってしまったが、シャープは未だ確立されていないLTPS技術に頼らず、独自にa-Siの開発を進め、今回ついにLTPSに劣らぬ表示性能の液晶パネルを実現したのだ。
今回発表されたのは、5種類の製品と、2種類の開発品だ。ノートPC向けの製品は、13.3~15型でSXGA+(1400×1050画素)を実現し、デスクトップPCのディスプレイ用製品では15型と20型でそれぞれUXGA(1600×1200画素)を実現した。スペック一覧に示すように、ほかの表示性能でも見劣りするところはなく、むしろ非常に高い水準を維持しているといえる。
今回発表となったラインナップ。左から順に28型QSXGA、20型UXGA、15型UXGA、13.3型SXGA+、6.4型XGA |
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製品スペック一覧 |
20型(上)と、15型(下)のUXGAパネル。写真の表示をみてわかるように、輝度、コントラストともに高いレベルにある |
13.3型SXGA+パネル。A4クラスのノートPCでは一般的なサイズだ。なお、いわゆる『SXGA』は1280×1024画素、つまり縦横比は5:4だ。通常のPC画面は3:2なので、ここでいう『SXGA+』では、比率を合致させるために一回り大きな1400×1050画素となっている |
●液晶ディスプレイの最先端を行く開発品は、独自の高開口率技術“UHA”で実現
また、開発品として発表された2種類は、いずれも製品化されれば液晶ディスプレイの記録を塗り替えるものとなる。まず28型QSXGAだが、これはもちろんサイズと画素数でトップとなる。QSXGAは、Quad SXGAの意味で、SXGAの4倍の画素をもつ。画素数は約524万(×RGB)で、普通のデジカメでも太刀打ちできないほどだ。すでに本年1月に『28型ワイド液晶ディスプレイTV』が発売されているが、同じ対角28インチでも横長なので、面積では今回の試作品が上回る。画素数も、このTV製品では1280×768で約295万画素なので、大幅に向上している。画面の大きさ、解像度ともに圧倒的なこのディスプレイは、印刷業界や医療関係、航空管制などの業務用モニター用途に向けて、年末頃を目標に製品化を進めているという。
28型QSXGAディスプレイ試作品の画面。アイコンやダイアログの大きさから、その広大さを理解してもらえるだろうか |
Excelのワークシートを新規作成したところ、35列、104行まで表示された。イルカのOfficeアシスタント「カイル」君が、妙に小さく見える |
次に、202ppiという記録的な精細度を実現した6.4型XGAパネルは、電子書籍などの用途が主な目的だという。こちらの製品化は、2001年の春頃になるだろうとしている。
202ppiともなると、肉眼では画素を識別するのが困難だ |
筆者の200LXと比較してみた。横幅はほぼ同じで、高さはほぼ倍だが、画素数では200LXの640×200に対し、この試作ディスプレイは1024×768で、6倍以上(しかもカラーではRGB各画素があるので、さらに3倍)だ |
今回発表された『ワンダーピクス』シリーズの液晶パネルは、シャープの超高開口率技術“UHA(Ultra
High Aperture)”によって実現した。開口率は、同社の従来技術と比較して、約20パーセント向上したという。開口率が向上すれば、同じ画面輝度を達成するためのバックライト光量を下げることができ、あるいは同じバックライト光量で同じ画面輝度を維持したまま、より高精細なディスプレイができるというわけだ。
今回は技術的な詳細を聞くことはできなかったが、高開口率化の基本は、光を通さない電極線やトランジスタの面積を小さくし、それによって相対的に光の通る部分を大きくするという手法だ。今回は、電極線をより細くするために、抵抗率の低いAlを採用している。また、各電極に対して信号を送る『ドライバIC』をパネルに接続するのだが、これも実装技術の向上で対応できたという。
●最新鋭の工場で生産開始
今回の製品、試作品は、8月から本格稼働開始する三重第2工場で生産される。同工場は、韓国や台湾のメーカーが低コストのパネルを生産する中で、世界的な価格競争に負けないよう、コスト競争力を強化しているという。工程内で、製造途中の製品が停滞する『工程内在庫』を従来の1/3にするなどの工夫を凝らしており、「品質でもコストでも負けない」(常務取締役 液晶開発本部長 枅川(ひじきがわ)正也氏)という、最新鋭の工場だ。なお、液晶パネルの需給バランスは、数年単位で大きな変動があり、半導体の“シリコンサイクル”になぞらえて“クリスタルサイクル”と呼ばれている。2001年にかけて、その底(供給過剰)に向かうとされているが、「クリスタルサイクルはノートPC向けでの話。シャープが開拓しようとしている液晶TVの世界では、これからデジタル放送が開始されるなど、追い風の状況だ。今後、他社の参入で競争が激化してくるだろうが、品質とコスト競争力ではどこにも負けない」(同氏)と、“液晶のシャープ”らしい自信のほどを見せている。
常務取締役 液晶開発本部長 枅川(ひじきがわ)正也氏 |