今年もまた“デジタルシネマの夏”がやってきた。東京・赤坂見附のキャピトル東急ホテルにおいて29日、開催3年目を迎える“SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2006”の開催内容を説明する記者発表会が開催された。映画祭は埼玉県川口市にあるSKIP(Saitama Kawaguchi Intelligent Park)シティにおいて、7月15~23日までの9日間に渡って行なわれる。主催は、埼玉県/川口市/SKIPシティ国際映画祭実行委員会/特定非営利活動(NPO)法人 さいたま映像ボランティアの会。
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オープニング作品上映作品に選ばれた“花田少年史 ~幽霊と秘密のトンネル~” (C)2006『花田少年史』製作委員会 |
会見には、短編部門審査委員長を務める俳優の高嶋政伸氏を始め、実行委員会会長で埼玉県知事の上田清司氏、実行委員会副会長で川口市長の岡村幸四郎氏、総合プロデューサーの八木信忠氏、映画祭の実質的なディレクションを担当するディレクターの瀧沢裕二氏らが登壇し、華やかに行なわれた。ディレクターの瀧沢氏は、映画業界において重要な技術を提供しているソニーピーシーエル(株)(ソニーPCL)の執行役員でもある。
国際Dシネマ映画祭は、デジタルで撮影・制作されたデジタルシネマ(Dシネマ)をテーマとした国際コンペティション映画祭で、2005年秋から長編部門の公募(今年2月17日締切)を行ない、世界52の国と地域から283作品の応募があり、12作品のノミネートが決定した。また、国内作品を対象とする短編部門は応募総数301作品の中から11作品のノミネートが決定している。
映画祭の目玉とも言えるオープニング作品上映は、一色まこと氏の大ヒット漫画“花田少年史”を原作とした水田伸生監督の“花田少年史~幽霊と秘密のトンネル~”に決定した。2005年の同映画祭は、“踊る大走査線”シリーズで知られる本広克行(もとひろかつゆき)監督の“サマータイムマシンブルース”が上映されて大変な反響があったが、今年もテレビ出身の水田伸生監督の作品が選ばれた。水田監督は日本テレビの“ぼくの魔法使い”“冬の運動会”などの人気ドラマの演出を手がけており、劇場用映画は今回が初監督となる。
| 上田清司埼玉県知事 |
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昨年の同映画祭では、札幌と専用光回線で繋いでHD映像のデジタル配信実験を行なったが、今年はより実践的な内容として、メイン会場の映像ホールならびに多目的ホールに横4096×縦2160ドット/885万画素の超高解像度表示が可能な“4Kデジタルシネマプロジェクター”を設置し、最新の上映環境で全作品がデジタル上映される。この試みそのものは“史上初”といったイベンタリーなものではないが、来場者がノミネート作品の鑑賞を通じて最新技術に触れることができるという仕掛けになっている
| 岡村幸四郎川口市長 |
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会見は前半(第一部)の冒頭で、上田知事が「3年目に入り、ポルトガル(の映画祭)などから提携のお話をいただいており、デジタルシネマ(映画祭)のトップランナーとして、世界中から注目いただけるようになりました」と、国際的なイベントであることを強調した。また、岡村市長からは「昨年より短編部門を国内からの応募に絞ったが、今年はさらに多い301作品の応募をいただきました。(短編部門の)賞金は市民の浄財によるものだが、今年は(総額)2000万(円)を目標にしています」と若手クリエイターにとっては現実的な面でうれしい発言があった。
| タレントの高嶋政伸さんは、2年連続で短編部門の審査委員長を務める |
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前回と同様、今回も短編部門の審査委員長を務める高嶋さんは「応募作品のクオリティーの高さに本当に驚いています。同時にとても楽しみで夜も眠れないぐらいです。今年も心を込めて審査に当たりたいです」と語った。
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プロデューサーの八木信忠氏 |
続いて八木プロデューサーは「桃栗三年柿八年というが、3年目で実がなろうとしています。デジタルシネマはフィルムに追いつこうとした第一期、経済的にフィルムを超えようとした第二期、そして今は、お客さまにどんなものを提供できるかが問われる第三期に当たると思います。サイレントがトーキーに、モノクロがカラーになったように、デジタルがなにをもたらすのかという課題に差し掛かっていると思います」とし、「あと柿八年でどんな実がなるか」と期待を込めて締めくくった。
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さいたまから発信するDシネマの評価は? |
登壇者のフォトセッションを終了し、後半の第二部は瀧沢ディレクターによる概要説明と質疑応答が行なわれた。
瀧沢氏が説明を始める前に、今回のために製作した映画祭のCMが公開された。同氏によれば、作品はSKIPシティができてから映像を始めたという若手クリエイターが制作したとのことだ。瀧沢氏はまず、デジタルシネマを取り巻く情勢から説明した。
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第二部の概要説明と質疑応答を行なう、ディレクターの瀧沢裕二氏 |
「例えば、中国は北京オリンピックまで2500館の映画館をデジタル化する、としています。世界的に映写のデジタル化が進んでいます。こうした動きに先駆けてデジタル化されたのがこの映画祭です。このたび、ヨーロッパで初めてデジタルシネマの映画祭として開催される“第1回 リスボンビレッジフェスティバル”と提携することとなりました。また、パリからも提携の打診をいただいております」と、同映画祭が国際的に認められつつあることをアピールした。
リスボンビレッジフェスティバルはポルトガルのリスボン市で6月15日~25日(現地時間)に行なわれ、“ジャパンデー”として国際Dシネマ映画祭で選出された作品が上映される。ここには瀧沢氏が国際審査員として参加することも決まっている。
続いて、各部門の傾向についての説明が行なわれた。長編部門は「283本の応募があり、昨年の194本を大幅に上回りました。また、内容も昨年が戦争などをテーマにしたドキュメンタリーが多かったのが、今年はドラマ、特にエンタテインメントを重視した作品が増えました。これはデジタルシネマにも“人に見せる”“興業を意識したもの”が増えてきたことを示していると言えるでしょう」と状況を説明。応募作品のなかで日本からの応募数を尋ねたところ「40作品ほど」との回答で、いかに海外からの応募が多いかがうかがいしれる。また、撮影フォーマットの傾向について質問したところ、瀧沢氏は「HDCAMが主流になってきています。中近東とアジアからはDVCAMが多いのが特徴です」と答えた。
一方、日本の若手クリエイターを応援する部門として、川口市民によって運営されている“映画祭を応援する市民の会”で構成された審査員が賞を授与するのが、同短編部門だ。短編部門については「“人と人とのコミュニケーション”をテーマにした作品が見られた。昨年も若いクリエイターの活躍が目立ったが、今年も埼玉県内の松山高校の生徒作品がノミネートされました」と、瀧沢氏は応募状況を説明した。
クリエイター同士の交流も映画祭の特徴のひとつだが、今年もシンポジウムが行なわれる。スピーカーについては今後随時発表されるが、テーマとしては八木プロデューサーも語っていたように、デジタルシネマにとっての“最後のトンネル”にあたる“配信と上映”となる。
各部門のノミネート作品は以下の通り(一覧中の監督名は敬称略)。
【長編部門】(国際コンペティション)12作品
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“スイカの皮からの旅立ち”(トルコ) (C)IFR.A.S. |
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“太っちょ泥棒のラブライフ”(スウェーデン) (C)Simon Pramsten |
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“クスクス”(ドイツ・スイス) |
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“オレのために泣くかアルゼンチンよ”(アルゼンチン) (C)Bae Youn Suk |
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“シュニッツェル・パラダイス”(オランダ) (C)Victor Arnolds |
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“ハリヨの夏”(日本) |
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“プレイ”(チリ・フランス・アルゼンチン) (C)Joseph Costa |
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“契約”(中国) |
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“ザ・スコア”(カナダ) (C)Bob Akester |
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“ステージテク<小さな妖精>”(チェコ) |
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“メイキング・ウェーブス”(イギリス) |
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“グッバイ・マイ・ラブ”(中国) |
【短編部門】(国内コンペティション)11作品
- “サクラサクラ”(監督:山口誠)
- “Tough guy! 2005”(監督:岸本真太郎)
- “Catchball With ニコル”(監督:浅野晋康)
- “ミルコとクロコとプー”(監督:佐藤克則)
- “For”(監督:柳川薫平)
- “モダンレコーディングのマッドメン”(監督:中山勇樹)
- “Hello Horizon”(監督:吉川信幸)
- “愛の矢車菊”(監督:樋渡麻実子)
- “キーボー”(監督:藤野健一郎)
- “緑玉紳士”(監督:栗田やすお)
- “花筵(はなむしろ)”(監督:吉村真悟)