ついに祭りの日がやってきた。
「はやぶさ」が還ってくる。そう聞いただけで2010年6月13日を特別な日と考える人たちがいる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)によるネット中継開始時間までモニタ前に待機しかねない勢いだ。
天文ファンや宇宙開発マニアの枠を越えてファンは大勢いる。動画コンテンツにイラスト、実物大模型から「はやぶさ」コスプレまで、プロジェクトを理解したい、理解したこの気持ちを表現したいという作品があふれている。
「はやぶさ」は凄い。何が凄いって、人が凄い。史上初をいくつ実現したんだ!という野心的なミッション内容だけでなく、前例がないゆえに次々と起きたトラブルを、宇宙機運用技術の粋を尽くして乗り越えたその手腕が凄い。
そして、それに応えた「はやぶさ」も凄い。何かもう意思があって、プロジェクトメンバーの熱意を汲み取っているとしか思えないような挙動の数々。プロジェクト責任者である川口淳一郎教授をして、「はやぶさ自身がこちらからの声、伸ばした手に応えてくれた」と言わしめた。「不具合を起こしたエンジンが2基同時運転で復旧した」とか「リチウムイオン電池に充電できた」と聞いただけで快哉を叫びたくなるなんて、そうあるものではない。
小惑星探査機「はやぶさ」とは?
「はやぶさ MUSES-C」とはISAS(宇宙科学研究所、2003年以降JAXAに統合)が開発、打ち上げを行なった工学実験衛星。1990年の「ひてん MUSES-A」、1997年の「はるか MUSES-B」に続く、MUSES(Mu Space Engineering Spacecraft)シリーズの第三号機である。
ミッションの主目的は下記の5点。そのどれもが野心的、挑戦的であり史上初の偉業をいくつも含むものだ。
「はやぶさ」の主なミッション
■イオンエンジンを使った惑星間飛行
■光学補正を利用した自律誘導航法
■小惑星からの試料採取
■地球スイングバイ
■再突入カプセルを使って地球へ試料を持ち帰る
そもそも小惑星のサンプルを持ち帰る目的は、小惑星が太陽系誕生時の様子を留めていることにある。地球上の鉱物や隕石は、熱や天候による変成があるため、元の状態そのままではない。一方、小惑星は小さく重力も弱いため、熱や圧力の変成が極めて少なく、元の状態を留めている。こうした小惑星から直接試料を採取することができれば、太陽系が形作られた当初の様子に対する調査・理解が進むというわけだ。
地球以外の天体から物質を採取する計画は、NASAによる月探査や彗星の尾からの試料採取に続くものではあるが、動力航行で目的の天体に到達し、着陸・離陸・試料採取を自律的に行ない、さらに地球まで戻ってきて所定の地域にサンプル採取容器を送り届ける、などという偉業を達成できたのは「はやぶさ」が世界初なのだ。
「はやぶさ」プロジェクトの主要メンバーにロングインタビュー敢行
今回、帰還を目前に控えて関係者の皆さんがとてつもなく忙しい中、恐縮しつつも「はやぶさ」プロジェクトの本拠地である神奈川県相模原の宇宙科学研究本部に通って、主要メンバーの方々に「はやぶさ」プロジェクトの「あのとき」についての話を伺った。
ご登場いただくのは、「はやぶさ」ミッションを統括するプロジェクトマネージャ 川口淳一郎教授。ミッションの理学方面を統括し、2006年の「Science」発表論文取りまとめを行なった前サイエンスマネージャ 藤原顕教授。その藤原教授の後を引き継いでプロジェクトサイエンティストの任に当たっている吉川真准教授。イオンエンジンの開発責任者である國中均教授。
さらに、近赤外分光器での観測や「はやぶさ」運用スーパーバイザーを務めた安部正真准教授。サンプラーホーン開発を担当した矢野創准教授。マルチバンド分光カメラ(AMICA)チームの前リーダー齋藤潤氏。そしてJAXA名誉教授の的川泰宣氏の計8名。
今回はプロジェクトのエピソードを時系列順に追いながら、当時の心境、そして記事掲載十数時間後には結果が出ているであろう、地球帰還と再突入に寄せる思いをご紹介したい。
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