状況がどう変わっても自分の声の代わりとして使い続ける
―― ボーカロイドブームのはじまった2007年の夏からそろそろ3年ですが。その間に、何が一番変わったと思いますか?
小林 自分ひとりでやれる状況ができたことだと思います。作って、発表して、運用するという。今までの音楽産業は大きなヒットで大勢の人を食わせていたわけですが、それは成り立たなくなるということです。ただ、音楽で食べさせることはできなくても、音楽で食えるようにはなる。
―― ああ、確かにそうですね。ネットやテクノロジーは最終的に個に向かっていく傾向はあります。
小林 インターネットの黎明期に想像していたものが、ここ数年で実現した感じですね。インターネットが映像や音のメディアとして機能するようになり、CDが売れなくなって、データでやり取りするようになった。それは10年前に僕らが想像していたことです。
―― でも独りでやるのはツラくないですか?
小林 イバラの道でしんどいんですけど。ただ一人で完結できて良いことは、まず自分が納得できること。音楽産業の構造が変わる時期と、ボカロが重なってるのが象徴的だと思います。それは結局、一人でやっていけるということだし。ネットでコラボレーションが自由にできるようになったことも、本当にすごいと思いますけど。
―― それに合わせて利益分配システムも変える必要があって、さっきの権利関係の話にもなってくるわけですよね。一方で製品としてのボーカロイドは、さほど進化しなかったように思うんですが。
小林 声質がちょっと違うものが増えているという状況ですよね。それがVOCALOID 3※が出てどう変わるか。そもそも未完成なものと納得して使っているところはあります。あれが使い易くなって、リアルな表現ができるようになると、現状のボカロシーンとは違うものになっていく可能性はありますね。
※ VOCALOID 3 : ボーカロイドソフトのもとになっている音声エンジン「VOCALOIDエンジン」の最新バージョン。「初音ミク」はVOCALOID 2で作られている
―― ボカロファンは「ミクの声が好き」というように、声質に魅力を感じている部分もあるわけですよ。それが楽器として進化して自由にコントロールできるようになれば、聴き手が持っているシンガーの集合イメージは成り立たなくなる方向ですよね。
小林 そうですね。でも必ず技術は進んでいくし、リアルな方向に向かう。その舵取りはできないと思いますね。いずれにしても今のままではあり得ないと思っています。熱狂的なファンがいて、ジャンルの一つとして成り立ってはいますけど、今のままではメインストリームの音楽にはならないし。
―― そういう意味では今、絶妙なバランスの上に成り立っているわけですね。
小林 ボカロがかすがいになって成り立っているシーンは、そういう意味でも面白いですよね。でも僕は自分の声の代わりとして考えているので、どうなってもその立ち位置は変わらないし、合成音声は一生使いつづけていくと思っています。
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