モバイルOS「Sailfish OS」を開発するフィンランドのJollaが一時的なリストラを発表した。ベンチャー企業の資金面での難しさを露呈したものとなったが、端末登場から2年が経過したJollaから出された「代替OSは簡単ではない」という文言は印象的だった。iOSとAndroidの独占に挑戦するのはJollaだけではない。Mozilla(Firefox OS)、Canonical(Ubuntu)などがあるが、AndroidとiOSの2極集中は進む一方だ。
Sailfish OSのライセンス事業が難航するJolla
Jollaが11月末に発表した財務危機は、クラウドファンディング形式で資金調達したタブレットの部品調達などのアクシデントが契機となり、主要な投資家が投資ラウンドから手を引いたということのようだ(関連記事)。
同社は今年2月末のMobile World CongressでSailfish OSの最新版を発表し、今後OSライセンスを強化していくとしていたが、今回の件は、資金が底をつきつつあること、Sailfish OSのライセンスをはじめ事業が軌道に載っていないことなどがうかがえる。現在の状況は“一時的”としているが、スタッフが半減すれば、開発や営業にさらなる支障が出そうだ。
共同創業者兼会長のAntii Saarino氏の公開書簡では、「大手や小規模の両方を含む潜在顧客と話をしている」とのことだが、これはMWCのときと同じだ。MWCから現在まで、ライセンス面で明らかになっている進展はインドのIntex Technologiesとの提携のみ。大きな発表はなく、7月にJollaはライセンスフォーカスにあたっての組織改編を発表している。
Sailfish OSを担ぐデバイスメーカーそして通信キャリアが少ない中、まだ小さなコミュニティーに頼りながらJollaを広げていくのは簡単ではない。通信キャリアとの関係、それにマーケティングがものをいうモバイル業界で、体力のないベンチャー企業が戦うことの厳しさを表していると感じた。
Jolla、そしてこの後に触れるUbuntuがフォーカスしていたのが中国市場だ。しかし中国市場は、Xiaomiなどの国産ベンダーが台頭し、Samsung優位だった勢力図をあっという間に塗り変えてしまった。国外メーカーではAppleが一人勝ちといってよい強さを見せている。両社にしてみれば計算が狂ったのかもしれない。
Ubuntuはロシア上陸、Mozillaはローエンドからシフト
では、UbuntuのCanonical、Firefox OSのMozillaはどうだろうか。
Canonicalの動きとしては、Ubuntu Phoneプロジェクトを立ち上げたCristian Parrino氏が9月にUbuntuを退社している点が気になる。Parrino氏は起業経験があり、辞める理由はグリーンテック分野の新会社立ち上げのようだが、Parrino氏の描いていた戦略(アーリーアダプター主導によるコミュニティー作り、その後マス普及)は道半ばどころか、これからというところだった。
その後Canonicalは11月、Ubuntuベースのスマートフォンをロシアで提供することを発表した。Ubuntuベースのスマートフォンを製造するスペインBQの「BQ Aquaris E4.5 Ubuntu Edition」「BQ Aquaris E5 HD Ubuntu Edition」をロシアで提供するもので、Scopesにはロシアユーザー向けに「VKontakte」(ロシアのソーシャルネットワークサービス)、「Yandex」(検索サービス)、「Mail.Ru」(ウェブメール)などを含むという。
一方のMozillaも重要人物が抜けている。6月にMozillaを去ったCTOのAndreas Gal氏だ。Gal氏はFirefox OSの取り組みを共同で立ち上げたと言われている。その前にはバイスプレジデントを務めたLi Gong氏が辞めている。Firefox OS関連で表向きの顔として話すことも多かった人物だ(関連記事)。
Mozillaは同時期より、単なる安価なスマートフォンから、ユーザー体験にフォーカスするIgniteイニシアティブを進めている。これまでのフォーカスだったローエンドから上位へのシフトとみてよいだろう。MozillaのCEO、Chris Beard氏はIgniteイニシアティブを告げる社内メールで、2014年のMWCで発表した25ドルスマートフォンの効果があまりなかったとも記している(関連記事)。
Mozillaの最近のニュースといえば、11月半ばにFirefox OS 2.5 Developer ReviewをAndroid端末上で動作するアプリケーションパッケージとしてリリースしている。Androidユーザーが容易にFirefox OSを試せるようにというもので、効果が注目される(関連記事)。
Firefox OSのローンチパートナーであるスペインの通信キャリアTelefonicaは、「CyanogenMod」ベースのスマートフォンを欧州で発表した。迷惑電話を防ぐ「Truecaller」などのプライバシーやセキュリティー、音楽、生産性などの機能を加えたもので、メーカーはスペインBQ、スペインでは209ユーロで販売する。同社は南米ではFirefox OSを押しているが、欧州での安価ラインとしてCyanogenModラインを位置づけているようだ。
(次ページでは、「“その他”のモバイルOSは合計してもシェアは縮小」」)
この連載の記事
-
第342回
スマホ
AR/VRの長すぎる黎明期 「Apple Vision Pro」登場から6ヵ月、2024年Q1は市場はマイナス成長 -
第341回
スマホ
世界で広がる学校でスマホを禁止する動き スマホを使わない時間を子供が持つことに意味がある? -
第340回
スマホ
対米関係悪化後も米国のトップ大学や研究機関に支援を続けるファーウェイの巧みな戦略 -
第339回
スマホ
ビールのハイネケンが“退屈”な折りたたみケータイを提供 Z世代のレトロブームでケータイが人気になる!? -
第338回
スマホ
ファーウェイはクラウドとスマホが好調で大幅利益増と中国国内で復活の状況 -
第337回
スマホ
米司法省、アップルを独禁法違反の疑いで提訴 その中身を整理する -
第336回
スマホ
Nokiaブランドのスマホは今後も出される! バービーとのコラボケータイ、モジュール型などに拡大するHMD -
第335回
スマホ
ファーウェイスマホが中国で好調、次期HarmonyOSではAndroid互換がなくなる!? -
第334回
スマホ
Nokiaのスマホはどうなる!? HMD Globalが自社ブランドのスマホを展開か -
第333回
スマホ
アップルがApp Storeで外部決済サービスを利用可能に ただし手数料は27% -
第332回
スマホ
米国で特許侵害クロ判定で一時は米国で販売停止のApple Watch、修正は認められるか? - この連載の一覧へ