エンジニアがエンジニアとして生き残るためには、ビジネス的な観点が必要だ。ビジネスのプロである経済評論家の山崎元さんがエンジニアに必要な考え方をアドバイスする本連載。今回のテーマは、社内外とのコミュニケーションに欠かせない「国語力」。「部長は帰っていない」はここに「いる」のか「いない」のか? 句読点一つで意味が変わるので、日本語はやっかいだ。
エンジニアに必要なビジネス的考え方を経済評論家の山崎元さんがアドバイスする本連載、前回はエンジニアにも必要な出世のコツを四箇条で紹介した。今回は、相手に伝わりやすい文章の書き方を説明する。言葉を省略し過ぎて痛い目に遭わないように、心して読んでほしい。
エンジニアにも国語力が必要だと言われると、エンジニア読者はどうお感じになるだろうか。「そうだ!」とうなずかれる方が多いのではないだろうか。
情報と通信の技術が発達して、ビジネスに伴うコミュニケーションが増えたことによって、情報を「どう受け取り」「どう伝えるか」の両方が仕事のパフォーマンスに、より大きく影響するようになった。
ワードプロセッサーやPCといった、ソフトウエアや機器が発達し、職場は「ペーパーレス」になるのではないかとの推測もあった。しかし体裁の良い文書を効率的に作れるようになって、むしろ書類が増えた職場が多いのではないだろうか。加えて、大量の電子メールが行き交っている。
仕事のコミュニケーションには、大きく分けて「職場内でのコミュニケーション」と顧客や取引先など「外部とのコミュニケーション」の二種類がある。前者だけを見ても、インターネットと電子メールの発達によって、文章で用件を伝えなければならないケースが飛躍的に増え、必然的に文章のコミュニケーションの上手、下手がビジネスパーソンの評価に大いに影響するようになった。もちろん、取引先との正確な意思伝達や、顧客への効果的な情報提供ができるか否かは、ビジネスのパフォーマンスに大いに影響する。
調査、開発、サポート、営業いずれの機能に関わるとしても、的確な文章表現力につながる国語力は重要だ。
ところで、筆者の印象にすぎないかもしれないが、数学者や物理学者の書いたエッセーには、文章の背後にある論理が明晰(めいせき)で内容が分かりやすいだけでなく、文章として優れたものが傾向として多い。
エンジニア読者の中には、学生時代に「国語は苦手科目だった」という方がおられるかもしれないが、日ごろから論理と定義に敏感な理数系人材は、むしろ良い文章家になり得る素質を秘めていると思う。
文章によるコミュニケーションで大切なのは、第一に「正確であること」で、第二に「読み手に合っていること」だ。
意味が誤解なく伝わるように文章を書くことは、そう簡単ではない。
例えば、「部長は帰っていなかった」という文は、これ単独では部長がその場に「いる」のか「いない」のかが曖昧だ。
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