第274回 元をたどれば三洋電機の半導体工場、「JSファンダリ」として独立?頭脳放談

onsemiの新潟県小千谷市にある半導体工場を買収し、「JSファンダリ」が設立された。パワー半導体やアナログ半導体などのファウンドリ事業を始めるという。もともとこの工場は三洋電機の半導体工場として設立されたもの。なぜ、JSファンダリとして独立することになったのか、背景を探ってみた。

» 2023年03月20日 05時00分 公開

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JSファンダリのWebページ

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 既に2023年も3月になっているというのに、2022年末の企業買収の話が、いまさらのようにニュースに取り上げられていた。「JSファンダリ」という日本発の半導体ファウンドリ会社が新規設立されて、新潟県小千谷市にある「onsemi(オンセミ)」の半導体工場を買収、パワー半導体やアナログ半導体などのファウンドリ事業を始めるという。

 北海道への進出が決まったらしい「Rapidus(ラピダス)」の5兆円のファウンドリ投資が話題をさらう裏側で、地味なファウンドリが始動していたのだ。ただ、どちらも「日本半導体を何とかせにゃならん」と考えた政策的な動きがチラチラと見える話である。

onsemiの歴史

 まずは半導体工場を売却した側の「onsemi」をざっと復習してみよう。onsemiは、昔は「ON Semiconductor」が正式名称で、通称が「onsemi」だったのだが、今では「onsemi」の方が正式名称になっている。米国アリゾナ州に本社を置く半導体会社である。

 PCなどを追いかけていても、同社の名前をあまり聞かないのは「ねじくぎ」みたいな地味な半導体製品が主力製品であるからだ。「ねじくぎ」に華やかなスポットライトが当たることは少ないが、それらは何を作るのにも必要な部品でもある。地味な分野ながらonsemiは、業界大手といっていいだろう。最近では車載向けの半導体、パワー系のデバイスに力を入れてきたらしい。

 アリゾナ州フェニックス近郊、スコッツデールのあたりには、古くからIntelやMotorolaといった半導体大手が進出していた。onsemiの前身は、Motorolaの半導体部門の一部であり、Motorolaの中でもディスクリートとか標準ロジックとか地味な半導体製品を引き受ける形で発足した会社だ。

 蛇足だが、マイクロプロセッサなどMotorolaでも華やかな半導体製品の方は、Freescaleという名で独立した。しかし、Freescaleはとっくに欧州の「NXP」に買収されて、その名は消えている。

 onsemiは、地味な分野の中で急速に台頭した。その過程で他社(これまた地味な会社が多いのだが)を買収して大きくなっている。有名どころでは、Fairchild Semiconductor International(フェアチャイルドセミコンダクター)を買収している。

 Fairchildは、業界人ならみんな知っている、シリコンバレーの半導体企業の根っこにあった会社だ。そこから多くの企業がスピンアウトして、成功している。例えば、Intelもその1つだ。

 定番のオペアンプ(アナログIC)や電源ICといったものの多くが、Fairchildのオリジナルである。その業界の老舗中の老舗であるFairchildをonsemiは買収している。onsemiには、古い定番商品のラインアップもあり、これはMotorola、これはFairchildという型番が現れるのはそういう理由による。

onsemiの小千谷工場は三洋電機の半導体工場を買収したもの

 onsemiは、日本でも工場買収をしている。新潟県小千谷市にある三洋電機の半導体工場を買収したのもその一環だろう。三洋の小千谷の工場は、主として三洋電機の家電製品を支えるための各種半導体製品を製造していたのだと思う。外販もしていたのだろうがその比率は分からない。

 1980年代くらいから日本の大手電機各社は自社内に半導体製造部門を持つことが多かった。小千谷の工場も、三洋製の冷蔵庫からラジカセみたいなものに至る各種製品に半導体を供給していたのだと思われる。

 小千谷の工場が不運だったのは、工場自体が新潟県中越地震でダメージを受けたこともあったが、その後三洋電機本体がガタガタになって、後にパナソニックに買収される憂き目をみたことだろう。経緯は不明だが、三洋電機の解体過程の中で小千谷市工場の買収に手を挙げたのがアリゾナに本拠を置くonsemiであったのだ。

 小千谷の工場は当時既に古かったので、最先端のロジックデバイスやメモリなどを作るには不適だが、onsemiが主力とする地味なネジクギ的半導体デバイス群には適合していたのだと思う。

 onsemiによる買収時も、旧三洋系への半導体製品の供給はしばらく継続したはずだ。今回も同じことは繰り返されて、JSファンダリによる買収後もonsemi向けの半導体供給は継続するようだ。急にゼロから半導体会社を作ったとするとかなり長い期間売り上げゼロのままである。その点、こういう現流品のある工場は当面の売り上げが計算できる分、見通しは立てやすいだろう。

 さて、onsemiが小千谷市工場を手放したのは、製造工場を抱え込む負担を減らすためだと説明されている。ぶっちゃけたところを勝手に想像すれば、小千谷では作れないような製品にシフトするつもりなのか、ゆくゆくは他にサプライチェーンを確保するつもりなのかであろう。これもまた全世界的に広がる半導体サプライチェーンの組み換えの余波に思われる。

JSファンダリは何を強みとするのか?

 一方、買収した側のJSファンダリという会社の勝算はどうなっているのか? 予定している事業内容を見てみると、「アナログ・パワー半導体の前処理、裏面処理、EPI積層、チップサイズパッケージ」などと書いてある。

JSファンダリの事業内容 JSファンダリの事業内容

 「前処理」というのは前工程のことだろう。小千谷工場は、6インチの前工程に対応しているようだ。現状の先端プロセスである12インチの直径半分、面積4分の1の小さなウエハである。「アナログ・パワー半導体」であれば、今でも6インチで製造している工場はままあると思うので、小さいことは決定的に不利ではないかもしれない。

 プロセスを見てみると、CMOS、バイポーラ、IGBTと、パワー系のスイッチに使えるトランジスタは一通り製造できる能力はあるようだ。

 また、その後の裏面処理というのは、ウエハを薄く削って磨く処理だろう。場合によっては、欠陥を取り除く工程が含まれることもある。これはウエハの前工程後、組み立てる前に行う作業だ。この作業を単独でも受けます、と意味だろうか。

 一方、EPI積層の方は、前工程の一番前、ウエハ上に薄い膜をエピタキシャル成長させる工程のことだろう。エピタキシャル成長させる膜の材質はプロセスによりいろいろだ。EPIを使うことで、性能の優れたトランジスタを構成できるようなる、お値段は増すけれども。これまたこの工程単独でも受けます、ということか。

 最後のチップサイズパッケージは、通常のパッケージにではなくウエハレベルで「パッケージ」となる材質を形成してから、各チップを切り出すとパッケージされたデバイスになるものだ。裸のダイそのものを出荷して組み立てるのに比べると、いくら小さくてもパッケージなので、ハンドリングはよいはずである。パッケージング(後工程)に分類される技術ではあるが、前工程的なテイストの技術である。なお、前工程は6インチだが、裏面処理とチップサイズパッケージは8インチの処理が可能らしい。そのサイズの設備が入っているということだから、従前からこの手の処理を引き受けてきたのだと思う。

 こうしてみると、「従来onsemi内部で実行してきた工程を、外部からも受託します」ということは、よく理解できる。しかし、何が強みになるのか、いまいちよく分からない。

設備の老朽化が少し心配?

 ファウンドリビジネスの場合、ファウンドリに委託する側に製品の強みがあればよいし、典型的なB2Bなので、製造コストなどは工場と委託側で折り合えばよいので、第三者には分からない。だいたい、製造プロセス、製造レシピ自体、工場側でなく委託側主導ということもありえる。JSファンダリ側は、あくまでも製造能力を売るというスタンスなのかもしれない。

 その辺は外野から見ていても分からないのだが、工場自体に1つの懸念がある。工場設備、クリーンルームの老朽化の問題だ。日本の6インチクラスの半導体工場は1980年代から90年代くらいにかけて建設されたものが多いのではないかと思う。多分、小千谷工場も同時期じゃないだろうか。マンションでも大規模修繕などで問題になることがあるようだが、配管などはかなり経年劣化しているのではないかと想像される。

 onsemi時代にその辺の修繕、改良がなされているのであればまだまだ行けるのであろうが、三洋時代の古い設備などが残っていたら故障が心配される。1工程止まると、納期が大混乱となる半導体工場、そして危ない薬品やガスなど使っている半導体工場だけに。余計なこと心配するなと言われそうだが……。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


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