パイオニアは2008年3月、「プラズマが今期の新製品を持ってプラズマパネルの自社生産から撤退する」という衝撃の発表を行なった。 民生向けプラズマテレビでは最も早くから製品化を実現してきたパイオニアの苦渋の決断はファンにとっても辛い。現在の薄型ディスプレイパネルの市場シェアにおいてプラズマは液晶の7分の1以下であり、プラズマ一本のパイオニアは本当に苦しかったのだろう。 とはいえ、プラズマの画質において、パイオニアは常に、本当の意味での“パイオニア”(先駆者)であった。今回発売されたKRP-600Mは、その最後の世代の自社生産パネルを採用。10年以上の長きにわたったパイオニアのプラズマディスプレイ技術開発の集大成となる製品だ。
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■設置性チェック。テレビでなくディスプレイ
まず最初に言っておこう。KRP-600Mはテレビ製品ではなくディスプレイモニタ製品になる。よってテレビチューナは実装されておらず、単体ではテレビの視聴は出来ない。民生向けにも販売されるので業務用モニタ製品というわけではないが、購入検討の際には「テレビではない」ことを留意しておく必要がある。感覚としてはプロジェクタ製品のような、ホームシアターシステムなどに組み合わせる映像表示機器というとらえ方がいいだろう。 商品セットにはスピーカーも含まれていない。ただし、純正オプションとして「KRP-S02」(オープンプライス)が設定されている。KRP-S02を取り付けたときにはテレビ製品で言うところのサイドスピーカー状態になる。 商品セットにはスタンドも同梱されていない。これは設置環境に合わせて適切な設置金具を選べるようにあえて同梱されていないのだ。ちなみに、パイオニアは、プラズマテレビ製品でもスタンドを同梱させていない。 純正オプションとして設定されているKRP-600M用スタンドとしては、テーブルトップ型「KRP-TS01」(51,000円)、壁掛け設置金具「KRP-WM01」(42,000円)、AVラックとスタンドを一体化させたAVローボードラック「B-7000」(248,000円)がある。今回、「KRP-TS01」を使用した。組み立ては非常に簡単だが、しっかりしていた。なお、スイーベル機構はない。 画面サイズが60V型ということもあって、かなり巨大だ。寸法的には1,465×64×876mm(幅×奥行き×高さ)。スピーカーのKRP-S02を取り付けると、左右に約+10cmずつせり出す。チューナを内蔵せずに接続端子も下出しとしたことで、厚みが64mmと薄い点は特記しておきたい。
なお、壁掛け設置金具KRP-WM01を組み合わせて取り付けた場合、壁からのせり出しはわずか89mm。KRP-600Mを壁掛け設置し、プロジェクタ使用時には電動巻き上げ型スクリーンがKRP-600Mの前に降りてくるような、ホームシアター構築も可能なはずだ。 本体重量は49.9kg。今回の設置では成人男性2人で2階に階段を登って、何とか運搬したが、これまで運んだ映像機器の中で最も重かった。できれば3人で運びたいところだ。 額縁は左右で約7cm、上下で6.5cmとそれなりに太め。高級感を演出するため額縁には光沢コーティングなされているため、相対する位置に窓や照明があると強く映り込む。しかし、表示面の映り込みはかなり低減されており、暗いシーンでも映像が表示されていれば、ほとんど映り込みは気にならない。これは立派だ。 消費電力は487W。42V型液晶のシャープ「AQUOS LC-42GX5」(235W)の倍以上だが、KRP-600Mにはチューナ等が搭載されていないこともあり、42V型プラズマのパナソニック「TH-42PZ800」(492W)とほぼ同程度になっている。 プラズマディスプレイというと気になるのが動作音だが、これはまずまずといったところ。皆無ではないが、意識しなければほとんど分からない。今回の評価では、視聴位置を1.5mと比較的近めとしたが、KRP-600Mとほぼ同位置に設置したPLAYSTATION 3(CECHB00)の冷却ファンの方の音の方が大きく聞こえたほどだった。なお、背面上部には対角12cmほどの電動ファンが4つ実装されているが、今回の視聴(室温26~28度前後)では回転することはなかった。
■ 接続性チェック ~Sビデオ端子無し。PC入力は充実。HDMIは2系統
接続端子は背面パネルにしかなく側面には無し。端子は下向きに取り付けられているので、ケーブル類を接続するときは下から上に向かって差し込むことになり、抜き差しは正直やりにくい。 チューナなしということで、接続端子の充実を期待していたが、KRP-600Mの背面は意外にシンプルで一般的な薄型テレビ程度の端子しかない。入力系統は全部6系統だ。 アナログビデオ入力はコンポジットビデオ端子が1系統、コンポーネントビデオ端子(RCA)が1系統。これがそれぞれ入力1、入力2として管理される。 注意すべきはSビデオ端子もD端子がないという点だ。D端子はコンポーネントで代用できるが、S端子に変わるものはない。最近の映像機器であれば問題はないが、古めのゲーム機やS-VHSビデオデッキなどを接続しようとしている人にとっては問題になるだろう。 PC入力はディスプレイモニタ製品らしく充実しており、アナログRGB入力用としてD-Sub15ピン端子、デジタルRGB入力用としてDVI-D端子が、それぞれ入力3、入力4として1系統ずつ備わっている。 DVI入力はもちろんのこと、アナログRGB入力においても1,920×1,080ドットのドットバイドット表示が行なえた。筆者のテスト環境(NVIDIA GeForce GTX280)ではアナログRGB入力時には1,680×1,050ドットと誤認されたが「初期設定(入力)」メニューの[入力3(D-Sub15)]項目の「信号フォーマット」を手動で「1,920×1,080」としたら1,920×1,080ドットとしてドットバイドット表示できた。
また、PC入力はDVI-HDMI変換ケーブルを用いても1,920×1,080ドットでドットバイドット表示が行なえた。ただし、「初期設定(入力)」メニューでHDMI入力の「信号種別」を「PC」と明示設定しておく必要がある。 デジタルビデオ入力としてはHDMI入力を2系統装備する。これが入力5、入力6として管理される。HDMIバージョンは1.3aで、Deep Colorにも対応、パイオニア製AV関連機器とのHDMIによる連動制御「KURO LINK」にも対応している。 最近はテレビ製品でも3~4系統のHDMI端子を備えているのに、ディスプレイモニタ製品としての本機がHDMI 2系統しかないというのはもの足りない。 今回の評価で分かったことでPLAYSTATION 3(PS3)ユーザーに促したい注意がある。 PS3の映像はメインメニューやゲーム画面などは「信号種別」を「PC」設定としても映るが、市販のBlu-rayビデオソフトは「ビデオ」としないと映らない。「ビデオ」設定とするとPS3とちゃんと36ビットDeep Color接続出来るので「PC」設定にしておく意味はあまりない。PS3と接続する入力系統は「信号種別」を「ビデオ」設定としておこう。
音声入力端子はアナログのステレオ入力が2系統ある。1系統はRCA、もう1系統はステレオミニだ。それぞれの音声入力は、「初期設定(入力)」メニューにて、入力1~6の任意の映像入力系統と対応づけられる。映像入力は6系統なので、このうちの2つの入力系統にしか音声を関連づけられない。 なお、このアナログ音声入力をHDMI入力系統と関連づけた場合は、HDMI音声は無視されてアナログ音声が優先される。 この他、リモート制御のためにRS-232C端子とLAN(100BASE-TX)端子を備えている。LAN端子接続したときはKRP-600MがWebサーバーとして機能し、Webブラウザ上でKRP-600Mを制御できる。ほぼリモコンと同じ制御が行なえるが、パラメータの一覧性や編集のしやすさは、PCからの方が格段に楽だ。 実際に試してみたが、Internet Explorerのポップアップ機能を有効にしておかないとメニューが開かなかった。マニュアルにそうした注意も記載されていないのでユーザーは注意して欲しい。
■ 操作性チェック ~自照式の学習リモコンが付属
ずしりと重いリモコンはパイオニアのテレビシリーズとは異なった専用デザイン。 テレビではなく、プラズマディスプレイモニタ製品と言うことで、暗い部屋で使うことを想定しているため、全ボタンが赤く発光する自照式となっている。これはなかなかに便利。 ただ、画調切換操作(AV SELECTION)をはじめとしたいくつかのボタンは、ボタン上になんのプリントもない白ボタンであるため、せっかく光ってもなんの機能操作ボタンなのか分からない。略記でもアイコンでもいいから何かプリントして欲しかったところだ。 また、実際に使ってみて感じたのはリモコンの反応範囲が狭いと言うこと。画面が大きいせいもあるが、明確に画面右下の赤外線受光部にリモコンを向けないと反応しない。これには改善の余地があると感じる。 発光ボタンはリモコン最上段右。そして最上段左は電源ボタン。電源オンからHDMI入力の映像が実際に表示されるまでの所要時間は約7.0秒。
前述したように入力系統は全6系統。ディスプレイモニタ製品らしく、入力切換は[1]~[6]の数字キーで対応する入力系統にダイレクトに切り換えることが出来るようになっている。HDMI→コンポーネントビデオの切り替え所要時間は約3.0秒、コンポーネントビデオ→DVIでは約2.0秒と、最近の機種にしては切り替え速度はやや遅め。ただし、希望の入力系統にダイレクトに切り換えられるのでストレスは少ない。 画調切り替えは、前述したように無地の[AV SELECTION]ボタンを押すことで順送り式に切り替えできる。切り替え所要時間は約1.0秒で、これまたあまり速くはない。 画面アスペクト比は[SCREEN SIZE]ボタンで順送り式に変更可能。変更所要時間はほぼゼロ秒で操作した瞬間的に切り替わる。 画面アスペクトモードはディスプレイモニタ製品と言うことで過剰なまでの充実ぶりだ。具体的には以下のようなモードが実装されていた。
アスペクト比14:9関連のモードは英国の放送局やビデオプログラムで用いられることがあるモードで日本国内ユーザーにはほとんど無関係なモードとなりそうだが、海外ソフトを視聴する際には役立つこともあるかもしれない。 さらに1080i、1080pの映像が入力されたときにだけ、特別なアスペクトモードが選択できる。
「ドットバイドット」表示時に画面最外周にノイズや無意味なゴミが映る場合などには「フル1」「フル2」を利用してクリップアウト表示(オーバースキャン表示)しよう。とはいえ、余計なスケーリング処理が入らない分、ドットバイドット表示が最も高画質となるため、普段のフルHD映像視聴には「ドットバイドット」を用いるべきだ。 KRP-600Mはテレビではないがかなり充実した2画面機能が搭載されており、その操作もリモコン上に専用キーを実装するなどして気合いが入っている。2画面機能の起動はリモコン上の[SPLIT]ボタンで一発起動できる。[SPLIT]ボタンを連続で押すことで順送り式にサイドバイサイド(2分割表示)、ピクチャーインピクチャー(親子画面)の表示モードが切り換えられる。 [SUB INPUT]ボタンを押すことで、2分割表示時の右画面側、親子画面の子画面側の入力を順送り式に切り換えられるのもなかなかに便利。親子画面の子画面側の表示位置も[PiP SHIFT]ボタンで上下左右の隅に順送り式に位置を変更できる。[SWAP]ボタンを押せば左右、親子の関係を一発で入れ替え可能。 通常表示状態で[FREEZE]ボタンを押すと、その時点での映像がキャプチャされて、そのキャプチャ画面がサイドバイサイド表示される機能も備わっている。
テレビの2画面機能は使いこなすのにリモコンと格闘しなければならないことが多いが、KRP-600Mの場合は、かなり直感的かつ自由度が高く操作できて小気味よい。 かなり充実した2画面機能をもつKRP-600Mではあるが、制約もある。 まず、左右画面や親子画面の大小比率か変えられない。これは[SCREEN SIZE]ボタンを押して切り換えられるようにするのが直感的だと思うのだが、どうだろうか。 そして2画面表示出来る組み合わせに関しても若干の制限がある。実際に使ってみたところ、DVIとHDMI、HDMI同士、アナログRGBとコンポーネントビデオといった組み合わせでは2画面表示が行なえなかった。それ以外の組み合わせはOKで、DVIとD-Sub 15ピンのPC 2画面同時表示機能も行なえた。また、マニュアルには記載されていないが、2画面表示時、十字キーの左右キーでどちらの音声をスピーカーから出力するかを選べるようになっていた。 リモコン関係では最後にもう一つ、特記事項がある。さすが上級機のリモコン、学習機能が搭載されているのだ。 [SELECT]ボタンを押すことで操作対象機器をMONITOR(KRP-600M)→STB→BDP(ブルーレイプレーヤー)→VCRと切り換えることができ、他メーカー製品でもメジャー機であればKRP-600Mのリモコンで操作ができてしまう。マニュアルに記載されているプリセットコードをあらかじめ登録することで、KRP-600Mのリモコン上の再生制御ボタン、テンキー、チャンネル操作ボタンを使って他のAV関連機器を直接操作できる。 さらに、[EDIT/LEARN]ボタンを押す事で、他のAV関連機器のリモコンのボタン操作の赤外線信号をKRP-600Mのリモコンの任意のキーに登録することもできる。実際に他社製のテレビ、プロジェクタのリモコンの電源オン/オフコマンドをKRP-600Mのリモコンに学習させてみたが、ちゃんと電源オン/オフ操作が行なえた。エアコンのリモコンを学習させてみたが、これは駄目だった。
本機はパイオニア製品で、HDMIを使ってシステム連動できるKURO LINK機能にも対応する。KURO LINKにまつわる操作はリモコン上の[KURO LINK]ボタンを押すことで専用メニューが一発で呼び出せるようになっている。録画制御からサウンドシステムの切り替えなどもKRP-600M側のリモコンから行なえる。KURO LINK関連で注意したいのは「HD AVコンバーター」の設定。ここを「する」として有効にしておくとKURO LINK連動設定させたHDMI入力の映像しか表示できなくなってしまう。 ユーザー自身が柔軟な画質設定が可能というのも、KRP-M600の特徴。リビング、標準、映画などの映像モードに加え、新たにユーザーに自由なカスタマイズを促す「ディレクターモード」も追加している。 画質の調整項目は「コントラスト」、「明るさ」、「色の濃さ」、「色あい」、「シャープネス」といった基本画調パラメータの他、「色温度」「ガンマ」が用意されている。色温度はプリセットとして「低」、「中低」、「中」、「高中」、「高」の5段階が用意されており、さらに手動で各RGBのオフセットとゲインを調整できる。まるでプロジェクタ並みの調整自由度だ。 「プロ設定」項目については、これまでの映像機器製品では見たこともないほどの設定項目数で、上級ユーザーやマニアにとってはまさに調整メニューの“満漢全席”といった風情だ。これについては、後述のインプレッションを参照して欲しい。 ユーザーメモリはPDP-5000EXと同じ方式。「ダイナミック」と「リビング」を除いた、全てのプリセット画調モードと、「標準」画調で初期化された「AVメモリー」に対して行なった調整結果は保持される仕組みとなっている。各プリセット画調モードは入力系統ごとに別管理となっているので、たとえばHDMI入力で「標準」画調モードを調整してもコンポーネントビデオ入力の「標準」画調モードにはなんの影響もない。また、調整結果は「画質の調整」メニューの「初期状態に戻す」を実行することで工場出荷状態に戻すことができる。 調整機能で遊んでいて便利だったのは、調整前と調整後の状態を[★]ボタンを押すたびにトグルスイッチ的に切り換えて確認できるところ。 パラメータをスライダー操作していると、その調整結果が段階的に変化するので人間の視覚では変化がわかりにくく、つい大げさに調整してしまうことが多々ある。この機能があれば、調整状態を維持したまま、調整前の状態と交互に瞬間的に呼び出して比較しながら見られるのだ。この操作系は素晴らしく使いやすいので、他のメーカーの映像機器にも採用して欲しい。
■画質チェック KRP-600Mは昨年モデルのPDP-5010HD/PDP-6010HDから一世代新しくなった最新パネルを採用している。このパネルは、パイオニアの自社生産としては最後のパネルとなるものだ。 プラズマパネルは各画素が微細な蛍光灯に喩えられる。画素内でプラズマ放電させ、この時に発生した紫外線が蛍光体を励起して発光する。画素が自ら光る、自発光方式であり、これがプラズマパネルの利点であった。しかし、その構造ゆえに画素の微細化が困難で、たとえ微細化したとしても画素開口率が低下することで輝度が下がり、表示映像が暗くなる。高出力なバックライトを組み合わせれば容易に輝度が稼げる液晶とは裏腹に、プラズマは自発光の長所が仇となって、フルHD解像度パネルの投入が液晶に対して約2年も遅れた。 だが、パイオニアは「高純度クリスタル層」(クリスタル・エミッシブ・レイヤー)の技術革新によってブレークスルーを果たす。画素セル内の表示面内側に形成させた薄膜層である高純度クリスタル層は、プラズマ放電に励起されて自らが電子を放出する特性があることから、画素セル内の放電速度を従来比の3倍にも高速化。これにより、発光効率が向上し、画素の高精細化をしても必要十分な輝度が得られるようになった。
さらに放電速度の高速化は副次的に黒表示時の「予備放電」を抑制することをも可能とし、暗部の沈み込みや暗色の再現性向上も実現した。 この「予備放電」とは、簡単に言えば次の放電のための“助走的”な放電のこと。「火種」と喩えられるように、次の放電を高速に行なうためのものだ。「プラズマは自発光で黒のときは光らない」と説明されるが、実際にはこの予備放電が起こっているので、これが黒画素をうっすらと輝かせてしまう。これがコントラストを下げていた。 プラズマパネルは、フルHDパネルでは画素開口率の低下で液晶ほどの高輝度が稼げない。そのため、プラズマパネルでハイコントラストを得るためには黒側の輝度を下げていく方法しかなかったのだ。黒側の輝度を下げる、直接的な方策が、「予備放電を小さくすること」だ。 2006年に高純度クリスタル層ベースの最初のフルHDプラズマパネルを採用したディスプレイモニタがPDP-5000EXとして発売されてから、ハイコントラスト性能向上のために予備放電の抑制への取り組みが行なわれてきた。昨年モデルのPDP-5010HD/PDP-6010HDは、予備放電をその前年のPDP-5000EXの約1/5に低下させ、暗所コントラスト2万:1を実現させた。 今年のKRP-600Mは、昨年モデルPDP-5010HD/PDP-6010HDのさらに1/5に低下させることに成功したという。パイオニアは、KRP-600Mのコントラスト値を公開していないが、計算上はコントラスト比10万:1を実現できていることになる。これは平均的な液晶テレビのコントラスト値の100倍に相当する驚くべき値だ。 実際に、その映像を今回評価してみたが、まさにブランド名「KURO」の名に恥じないほど黒が黒い。 部屋を暗室状態にして、黒と白のテストパターンを表示させると、黒が完全に部屋の暗さに沈み込んでしまっているという状況。市販されている製品では、プロジェクタも含めて、ここまでの黒を出せている映像機器を見たことがない。 そして、明らかに昨年モデルよりも黒が一層と黒い。 今回使用したのは60V型モデルだったこともあり、画素開口率が大きいためか、絶対輝度も前回評価したPDP-5010HDよりは明るく感じられる。蛍光灯照明下でも、液晶と並べなければ「暗い」という印象は持たないはずだ。 映像中のハイライト部にも鋭い光量が感じられ、ハイダイナミックレンジな映像表現が出来ている。屋外の表現でも、陽光のきらめきにリアリティが感じられるほど明部にもパワーが感じられる。 とはいえ、映画鑑賞などの真剣に映像を見るときには日中ならばカーテンを引きたいし、夜ならば暗室に近い環境で見たい。逆にそうしないと、環境光に埋もれて、KRP-600Mでしか見られない漆黒付近の暗部表現のうまみを楽しめない。
階調表現能力はどうか。これも凄い。時間積分式階調表現となるプラズマとは思えないほどのアナログ感を実現している。二色混合グラデーション、白黒グラデーションを表示しても疑似輪郭はほぼ皆無。それこそ無段階の階調表現が行なえている。視聴距離50cm未満に近寄ってみると、二色混合グラデーションの中間色付近や、白黒グラデーションの暗部付近で、プラズマパネル特有の高周波の時間方向のざわついたノイズが知覚できるが、1m以上離れた通常の視聴では全く違和感がない。 RGBの各単色の漆黒までのグラデーションを表示してみると、かなりの暗部にも色味が感じられる。たとえば赤ならば、赤20%、黒80%くらいのほとんど黒付近の色にかすかな赤味が感じられるのだ。他社プラズマパネルならば予備放電による黒浮きが、そして液晶パネルならば液晶画素で遮りきれなかった黒浮きが、漆黒付近の色味を上回ってしまうため、暗部は一律して薄いグレーのようになってしまうのだが、KRP-600Mでは、漆黒付近の暗色までを的確に表現できている。これも、現状、KRP-600Mだけが出せる色(映像表現)であり、ユーザーのオーナーシップをかき立てる要素だ。 発色や色再現性はディスプレイモニタということからか、あまり派手さはなく、原信号を過不足なく再現しようとしている意図を感じる。 純色の発色は「プロ設定」で設定できる広色域モードである「1」設定がいい。広色域モードでは純色の赤が非常に鋭くなり、プラズマの赤特有の朱色っぽさが抜け落ち鮮烈になる。広色域モードでは、悪く言えば地味なKRP-600Mの色味が濃い口になるので、一度は活用してもらいたい機能だ。筆者はこれで常用したいとすら感じる。
話を戻すと赤だけでなく緑や青もいい。緑は黄色っぽさのない、伸びのある緑になっていて草木の表現がリアルに見える。青は深みがあり、安価なテレビで見られるような最明部以外の青がすぐ暗く落ち込むこともなく、広いダイナミックレンジが取れている。 人肌表現も良好だ。肌色もいやな黄色味はなく、ハイライト側の白に振られた肌色にも、褐色に近い陰の肌色にも繊細な血の気を感じる。広色域時には微妙な肌の色ディテールが見えてくるので、顔のアップには情報量も多い。暗色の表現力が増したおかげで、他競合機よりも、髪の毛、瞳などのリアリティが感じられる。 画質とは別な「映像の見え方」にも言及しておこう。 あまり一般には取りざたされないプラズマパネルの弱点に、画素のフォーカスがややぼやけて見えるというのがある。これは一般的なプラズマパネルでは表示面側が多層構造になっていて厚みがあるためだ。プラズマは視野角が広いというが、斜めから見たときにはこの表示面側の厚みのせいで画素がぼけて見える。正面から見たときでも、大画面プラズマを比較的近場で見ると、視線が斜めになる画面端にこのボケが気になることがある。パイオニアのプラズマパネルの場合は、表示面側のガラス基板にほぼ直接的にカラーフィルターを適用しており、発光する画素と表示面側ガラスが近いためにこの問題が起きない。 KRP-600Mもこのパイオニア・プラズマの特有のフォーカスがしっかりしたくっきりした見え方になっており、特にドットバイドット表示時のPCの映像やゲーム画面の映像はクリアで美しい。シャープネスを強調したのとはまた違った本当の意味での高解像感が味わえた。 「見え方」関連ではもう一つ、画素形状についても触れておこう。フルHDプラズマ画素は開口率が低いことから画素の仕切が太いといわれることもあったが、KRP-600Mの画素はかなり近寄ってみても、それほどの分離感はない。1mも離れてみれば単色の面表現であっても画素粒状感もほとんど感じない。
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