「女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)」を「イヴァンカ基金」とマスコミが報じ、それを鵜呑みにした福島みずほ議員の“勘違いTwitter”が炎上していた頃、「どうにかしてよ!」という悲鳴と共に、ある数字が拡散していた。
114――。
NTTの「お話中調べ」でもなければ、「4649(ヨロシク!)」もとい「114(いいよ!)」でもない。「144国中114位」!
はい、そうです。世界経済フォーラム(WEF)が発表した、世界各国の男女平等の度合いを示す2017年版「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は144カ国のうち「堂々の114位!」(バックデータは表のリンクを参照、PDFファイルです)。
昨年の111位からさらに順位を落とし、過去最低となってしまったのだ。
ちなみにトップ5の常連国はいずれも議員・閣僚などにクオータ制(一定比率を女性に割り当てる制度)をとっていて、ルワンダの女性議員数の割合は世界トップだ。
順位 | 国 |
---|---|
1 | アイスランド |
2 | ノルウェー |
3 | フィンランド |
4 | ルワンダ |
5 | スウェーデン |
11 | フランス |
12 | ドイツ |
14 | デンマーク |
15 | イギリス |
32 | オランダ |
49 | 米国 |
114 | 日本 |
118 | 韓国 |
144 | イエメン |
出所:The Global Gender Gap Report 2017 |
144カ国中114位……。
いったいこの数字のどこが、「アベノミクスはウーマノミクス」で、「ウーマノミクスは人口の半分を占める女性が持つ重要性を認めています(by イヴァンカさん)」なのだろうか?
いっそのこと「144カ国中144位」と、落ちるとこまで落ちた方が語呂がいいし、居酒屋のネタにもなるし、ビリという響きは案外とかっこよかったりもする。“ビリ”って、狙ってとるのは案外難しいしね。
男女で考えるとハレーションが起きるので
とまぁ、そんなことを考えてしまうほど日本の男女格差は悲惨な状態になっているのである。
にもかかわらず、マスコミは「144カ国中114位」より、「アベノミクスはウーマノミクス」を“もてなした”。
おっとっと。はい、分かってますよ。
「格差が嫌なら自分達で起業しろ」
「平等なんて、数字で表すものじゃない」
「日本人て、白人が決めたランキングを病的に信奉しすぎ」
「評価基準がオカシイから気にする必要はない」
「気に入らないなら自分達で女性の役員数を増やしては?」
「ていうか、安倍首相がなにをやっても気に入らないんだろう?」
……etc etc。
ワンワンワンの111位だった昨年、コラム(こちら)を書いたときにこうコメントする人たちの多さに、この手の問題、すなわち男女格差問題、いや「“日本の”男女格差問題」の根深さに辟易したけど、首相の好き嫌いはさておいても、さすがに10年以上ほぼビリまっしぐら状態はやばいと思いますよ。
年 | 日本の順位 | 対象国数 |
---|---|---|
2017 | 114 | 144 |
2016 | 111 | 144 |
2015 | 101 | 145 |
2014 | 104 | 142 |
2013 | 105 | 136 |
2012 | 101 | 135 |
2011 | 98 | 135 |
2010 | 94 | 134 |
2009 | 91 | 134 |
2008 | 98 | 130 |
2007 | 91 | 128 |
ただ、否定的なコメントをする人の9割以上は「男女」という言葉に過剰に反応し、「男女格差をなくせ!」とか「男女平等にしろ!」と、正面から言えば言うほど「不当に責められた」と感じて、反射的に「ノー!」と拒絶する傾向が強い(あくまでも個人的感想です)。
ならば、「男、女」とは違う角度から問題提起する必要があるのかもしれない。
つまり、「性」で考えるからめんどくさくなる。
「労働」で考えればわかりやすい。
というわけで今回は「男とか女じゃなく、労働でどう?」という切り口で、このテーマをアレコレ考えてみようと思う。
まず、一般的には「労働」とは有償労働をさすが、国を成長させ、社会を支え、人を守る労働は、「市場労働とケア労働」の2つに分けることができる。
・市場労働(market work)=商品として売買される労働力としての「有償の労働」。
・ケア労働(care work)=家事、育児、介護、ボランティア活動などの「無償の労働」
ケアという言葉は「ケアの論理」に代表される米国の倫理学者・心理学者のキャロル・ギリガンの道徳理論に由来するが、ここでの「ケア労働」とは、単純に私たち社会が成立するうえでの無償の労働と捉える。
生きていくためには「お金」が必要なので、私たちは「市場労働」をする。
生きていくためにはご飯を作って食べ、部屋を掃除する。子供や高齢者にはその力がないので、他者(親や子など)がご飯を作ったり、掃除をしたりといった「ケア労働」をする。
男であるとか女だとかとは関係なく、どちらも、私たちが生きていくためには必要不可欠な労働であることを、否定する人はいないはずだ。
目的は「市場労働への参加」か?
ところが、先のジェンダーギャップ指数を含め世間に流布されている男女格差にまつわる指数では「市場労働」を軸にしたものが多い。最近では「家事時間」を男女で比較するものもあるが、先のケア労働は“家事や育児”だけを指しているわけじゃない。
従って、労働市場における市場労働(有償の労働)は男性が、家庭におけるケア労働(無償の労働)は女性が、という前提で考える必要はない。というか、そう考えたらおかしい。
男であれ女であれ、市場労働とケア労働にアクセスする権利があり、前者は「労働権」、後者には「父母権」「保育権」がある。「子が親を介護する権利」、「社会活動としてボランティアする権利」なども含まれる。
その上で、社会政策の国際比較を行って福祉国家の類型化を試みたスウェーデンの社会政策学者セインズベリーの研究をべースに、「市場労働とケア労働を国の政策としてどう考えているのか?」を横軸に、「社会におけるジェンダー役割」を縦軸に表を作成してみよう。すると、次のページのようになる(著者による)。
市場労働=ケア労働 | 市場労働者のケア労働を評価 | 市場労働のみ評価 | |
---|---|---|---|
福祉国家・普遍主義 | 福祉国家・組合主義 | 市場指向・自由主義 | |
共働き型 | アイスランド | オランダ | 米国 |
フィンランド | |||
スウェーデン | |||
デンマーク | |||
弱い男性稼得者型 | ノルウェー | フランス | 韓国 |
イギリス | |||
強固な男性稼得者型 | ドイツ | 日本 |
(横軸)
市場労働=ケア労働:2つの労働の価値を認め、無償労働者にも社会福祉政策が取られている国/
市場労働者のケア労働を評価:市場労働者もケア労働に従事する権利を認め、日、週の短時間労働および長期休暇を徹底することを企業の義務としている国/
市場労働のみ評価:ケア労働に国が積極的に介入せず、保育サービスは基本的に市場に任せている国
(縦軸)
「男性稼得型(Male breadwinnermodel)」とは性別分業が維持される社会で、男性は扶養者としての賃金労働者で、女性は被扶養者として恩恵を享受する「男は仕事、女は家庭」モデル。
これに対して「共働き型(dual earner model)」は個人がそれぞれ労働者。
自分(河合)の主観だが、この分類で、共同生活を営む男女の稼得役割の比率(男性:女性)を、ざっくりと数字にしてみると…
・共働き「1:1」
・弱い男性稼得者型「1:0.5」
・強固な男性稼得者型「1:0」
というところだろうか。
ご覧の通り、「市場労働=ケア労働」の国は、アイスランド(1位)、フィンランド(3位)、スウェーデン(5位)、デンマーク(14位)、ノルウェー(2位)と、ジェンダーギャップ指数の上位国(男女間の差が少ない)である。
「市場労働者のケア労働を評価」のオランダ(32位)、フランス(11位)、イギリス(15位)、ドイツ(12位)も軒並み上位国。
市場労働のみ評価する国は順位が低い
一方、「市場労働のみ評価」の米国は45位と一般的なイメージより低く、韓国(118位)、日本(114位)は最下位グループ常連国である。
ドイツが日本と同じ「強固な男性稼得者型」に分類されていることに違和感を覚える人がいるかもしれないので説明を加えておこう。ドイツは今でこそ「共働き先進国」に分類されるが、元来、女性の母親としての役割を強調する組合主義的福祉国家を代表する国で、実際ドイツの女性は「時短勤務」している割合が高く、時短ワークしている女性のEU平均は約3割なのに対し、ドイツは約6割と圧倒的に多い。
ただ、繰り返しになるが、ドイツでは短い労働時間が徹底的に厳守されているので、男性でもケア労働にアクセスする権利が保護されている。
平たくいえば「会社で仕事ばっかりやってないで、さっさと家帰って家事とか育児しないと一人前じゃないぞ!」という空気が熟成されているのだ。
以上のことから考えると日本の長時間労働がいかに「ケア労働」を軽視しているかがわかるはずだ。
「誰でもできる仕事だから保育士の給料は低い」(by 堀江貴文さん)
なんてのも、「国を成長させ、社会を支えるのは市場労働だけ」という理屈から出るコメントである。
そう考えると、今の政策は「市場労働」に女性を参加させるために、たとえば「保育サービスを充実させよう」としているだけなのだ。
要するに男性が主な働き手だった「市場労働」に、女性が同化することが目的となってしまっている。
「ケア労働も、国の成長、社会を支えるための必要不可欠な労働だ」と考えるならば、男性を女性のライフスタイルに近づける施策を重視することになる。育児休暇を女性並みの取得率とし、時短勤務も男性にも認め、育児だけでなく、介護休暇や介護時短勤務も充実させる必要がある。
「人材」は意図的に育てることができる
そのためにもっともてっとり早くできるのが「労働時短の短縮」「有給休暇の完全取得」であることはいうまでもない。
1970年代初頭、米国ノースカロライナ州で示唆に富む社会実験が行なわれた。この実験では0歳の子供が5歳まで成長する過程で、「大人が子を手厚くケアする」グループと、しないグループに分け、40年後の学歴や健康などを追跡調査した。
結果は、幼児期のケアの重要性を示すものだった。
「“手厚いケア群”が大学を卒業する確率は、“手厚いケアをしなかった群”より4倍も高く、健康度も高い」ことがわかったのである(Frances A. et al. “Adult Outcomes as aFunction of an Early Childhood Educational Program”)。
類似した実験は他にもあり、1960年代からミシガン州のペリー幼稚園で行なわれた「手厚いケア」群とそうでない群の追跡調査でも、19歳時の高校卒業率、27歳時の持ち家率、40歳時の所得が「手厚いケア」群で高いことがわかった。
日本ではこれらの社会実験を「優秀な子を育てる英才教育」とみる傾向があるが、実際にはそうではない。確かに小学低学年までのIQは高まるが、その後効果は持続していない。
一方、学校を卒業するまで学び続ける力、企業などで働き続ける力、賃金を得る力などの、いわゆる「生きる力」は5歳まで、どれだけ大人に手厚いケアを受けたかで大きく変わる。
子供たちが、この先に待ち受ける困難を乗り越えるたくましさ、市場経済の競争に破れたときの打たれ強さ、健康に暮す力、などの、まさしく「国を成長させ、社会を豊かにする力=人材」になるには、大人たちがケア労働に積極的に勤しむことが必要だ。あるいはこうも言える。社会が意識すれば、「人材(財)」を人為的に育てることが可能なのだ。
最後に、男女格差ランキングでトップを独走中のアイスランドの「女性ストライキ」事件をお話しておく。
1975年10月24日、アイスランドの女性たちはいっせいに「仕事を休んだ」。
秘書も、先生も、保育士も、看護師も、仕事に行くのをやめ、主婦は食事や掃除を放棄し、赤ん坊を夫に預けた。
目的は、いかに女性が社会に貢献しているか、いかに女性の価値が低く見られているかを世に知らせるためだった。
女性たちが仕事にこないと、学校や託児所、銀行、工場、店は閉めるしかなく、父親は子どもを連れて出社し、子供をあやすため父親たちはお菓子や色鉛筆や絵本を職場に持参。焼くだけで食べられ、子供が喜ぶソーセージのお店は大盛況であっという間にソールドアウトになった。
ストでもしなければ思考停止は終わらないのか…
女性ストライキに参加したのは女性成人人口の9割にあたる22万人。
この日を境に、アイスランドでは「女性の仕事」や「家事、育児などのケア労働」の重要性が認識されるようになり、その5年後の世界で初めて女性のヴィグディス・フィンボガドッティル氏が民選大統領に選出。
フィンボガドッティル氏は次々と福祉政策を進め、男女に関係なく「ケア労働」にアクセスできる権利と保障を充実させた。
80パーセントの給与保障付きの育児休暇制度や託児所の整備により、アイスランドは2パーセント台の出生率を維持。高い女性の就業率を確保し、両性の幹部職割合を法的に均等化するクォータ制度の導入により、大手企業の女性役員割合も4割近くまで上昇した。
さらに、2010年に初めて女性のヨハンナ・シグルザルドッティル首相が就任し、同性婚を合法化するなど、すべての人の権利と平等を守る政策を広げている。シグルザルドッティル首相自身、世界で初めて同性婚をした国家指導者となった。
男性も女性も住みやすい社会、ストレートもLGBTも区別しない社会。
その発端となったのが、1975年のストであり、ケア労働の重要性を認知することだった。
男、女で思考を停止させるの、もうやめませんか?
あなたのケア労働は何ですか?
なんとおかげさまで五刷出来!あれよあれよの3万部! ジワジワ話題の「ジジイの壁」
『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)
《今週の名言奇言 (週刊朝日)》斎藤美奈子氏
「ジジイ」とは「自己保身」に長け、組織内で得た権力を「自分のため」に使う人。「ジジイの習性」は「いるよいるよ、そういう人」と思わせるものばかりである。
〈彼らは手にした属性にすがり、集団の名声=自分の価値、役職の価値=自分の価値と勘違いし続けている〉からだ。部下をバカにし、若者をバカにし、女をバカにする。〈〝ジジイたちの壁〟は厚い。ベルリンの壁よりも厚い〉。まったくね。
私もずっと怒ってましたよ、ジジイの壁に。しかし、年を重ねると、自分がそっち側かもという恐怖がわく。私もちょっとヤバいです。
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