ゴールデンウィークを利用して、熊本の生活インフラの状況を取材した。

 5月1日、西部ガスが熊本市内に設けた現地復旧対策本部を訪れると、一時は約4600人もいた都市ガスの復旧部隊が大幅に減っていた。前日に同県内の都市ガスの復旧がおおよそ完了したからだ。

 地震の影響で最大約10万5000戸で供給を停止したが、全国各地から都市ガス各社が応援に駆けつけ、当初は5月8日としていた復旧見通しを前倒しさせた。

 震源地に近い益城町など一部の地域を除き、熊本の生活インフラの復旧が進んできた。電気の復旧は比較的早く、遅れていた水道もようやく復旧が進みつつある。

 地震の発生当初は、かなり不足していた食料品も4月末頃からはそろいだした。ある流通事業者は「当初は緊急対応で関東から水を持ってきたりしていたが、4月末頃からコンビニでもおおよその食料品がそろった」と話す。

 4月末には九州新幹線が全面再開し、多くの乗客を乗せていた。ただ熊本市内の宿泊施設は限られており、ゴールデンウィークの夕方は、熊本から博多間の自由席は満席に近かった。

 九州を通る高速道路も復旧した。震災後は一部不通だったため、熊本市内に入る国道などに多くの車両が流れ込み、幹線道路は大渋滞だったが、開通後は渋滞が緩和された。

熊本駅に近い市街地でもゴミが山積みになっていた
熊本駅に近い市街地でもゴミが山積みになっていた

 こうした復旧が進む中で、目立って遅れをとっているのがゴミ問題だ。

 熊本県内をクルマで走ると、至る所でゴミが山積みになっているのを目にする。

 熊本駅からほど近い歩道ではゴミが20~30メートル近くに渡って積まれていた。マンションの一階は所定の置き場からゴミがあふれ、壁づたいにゴミが積まれている。こうしたマンションは珍しくない。

 熊本市内の70歳代の住民は、「いろんなゴミが混ざっていて、異臭がしてくる」と顔をしかめる。

 熊本地震で大量のゴミが発生したが、地域によってゴミの質が異なる。震源地に近い益城町などの地域では、倒壊した家屋の廃材などが多い。

 熊本市は災害ゴミが増えたため、5月上旬まで生活ゴミの収集については燃えるゴミだけにしぼり、資源ゴミの収集を中止していた。それでも市内では雑多なゴミが出ている。

 熊本市内では家屋自体の損壊は少ないものの、家財道具が倒れた家が多い。そのため棚や食器、家電、寝具などのゴミが目立つ。

便乗ゴミなのか否かは判別できない

 街にあふれるゴミは、震災によって発生したものなのか、生活ゴミなのか。熊本市廃棄物計画課の担当者は「生活ゴミを災害ゴミとして廃棄する“便乗ゴミ”かは区別がつかないので、収集せざるを得ない」と話す。

 実際、熊本市で発生するゴミが急増している。通常の年間埋め立て量に対して震災後だけで4年分のゴミが発生した。

 ゴミの急増に対して、熊本市は収集体制を強化してきた。市外の市町村や民間の廃棄物処理事業者の応援を受けている。熊本市は通常160台体制で収集しているが、福岡市や鹿児島市など市外から100台体制で応援に来ていて、収集能力は高まっている。ピーク時に比べて少しずつ市内に山積みされているゴミの量は減ってきている。

 しかし熊本市廃棄物計画課の担当者は「避難所などから自宅に戻って家を片付けた際にまたゴミがたくさん出る可能性があり、市内のゴミが片付くメドは立っていない」と先行きを読めないでいる。

 こうした状況に追い打ちをかけたのがゴミ焼却工場の被災だ。熊本市は2つのゴミ焼却工場があり、その1つの東部環境工場の冷却装置が破損し、停止していた。

熊本市の東部環境工場は焼却炉の冷却装置が損傷し、4月末まで停止していた
熊本市の東部環境工場は焼却炉の冷却装置が損傷し、4月末まで停止していた

 5月1日、熊本市の東部環境工場を訪れた。工場の隣にある関連施設の屋根が倒壊し、地震の激しさを物語っていた。

 クルマで工場の入り口に進むと、職員から「災害ゴミの搬入ですか」と呼びかけられる。自家用車で災害ゴミを持ち込む住民が多いためだ。

 工場では焼却炉メーカーである日立造船の社員と協力し、冷却装置の補修を進めていた。

 森崎忠教工場長は「2炉あるうちの1炉の復旧を進めている。一刻も早く再稼働したいが、全く初めての経験で、再稼働できるか分からない」と話した。

 応急措置で再稼働できなければ、全面改修が必要になり、時間と費用がかかるという。

 ただその後、応急措置は上手くいったようだ。日量300トンの処理能力がある焼却炉が稼働し、工場内のピットにたまったゴミを燃やしている。

東部環境工場の森崎忠教工場長などが焼却炉の再稼働の準備を進めていた
東部環境工場の森崎忠教工場長などが焼却炉の再稼働の準備を進めていた

 収集されたゴミは工場内に入りきらず、近隣の仮置き場にも山積みになっている。周囲を回ると異臭が漂ってきた。

被害の少ない地域でもゴミが山積みに

 ゴミ問題については、熊本地震への対応で今後の検討課題が見えてきた。

 周辺の市町村から多くの収集車が応援に来ていた。環境省の災害廃棄物対策室の小岩真之対策官は、「応援はこれまでの災害の中でも早かった」と言う。

 一方で、一時的にかなりのゴミが町中にあふれたのも確かだ。

 避難所でも段ボールやペットボトルなど山積みになり、衛生上の問題が発生していた。そこである支援者は、救援物資を運んだトラックの帰り便で段ボールやペットボトルなどを積んで、地元に帰った。

 しかし、廃棄物処理行政を司る環境省はこうした行為に難色を示している。廃棄物処理法の問題があるからだ。

 まずは対象物が、ゴミなのか資源物かで扱いが異なる。仮にゴミだった場合、許可を受けた廃棄物処理事業者しかゴミを収集運搬することはできない。救援物資を積んだトラックが帰り便で段ボールやペットボトルなどを持ち帰るのは、廃棄物処理法上はグレーゾーンと言える。

 今後はこうした緊急事態において、柔軟にゴミを収集運搬できるように政策を整備する必要がありそうだ。

 また、今回のゴミ問題で象徴的のは、熊本市の被害の少ない地域でもゴミが片付けられていない点だ。熊本市は市町村合併を繰り返して拡大しており、市がゴミ処理を一元管理しているため、特定の地域を優遇することは難しいのだ。

 今回は直下型の地震で、少し離れた場所でも被害の状況が全く異なっている。そのため、同じ熊本市内でもいつも通りの生活をしている人と、避難所暮らしを強いられるような非日常を過ごす人が混在している。

 緊急事態においてはゴミ処理は後回しかもしれないが、平時には家の周囲に滞留したままのゴミが気になって仕方がない。市町村合併で拡大してきた熊本市では、そのギャップは特に大きいように感じた。

 被災地から遠く離れていたり、土地勘がないと被災地への印象が画一的になりがちだ。

 だが、実際には同じ市町村に暮らしていても多様な生活があり、多様なニーズがある。ゴミ問題から震災対応の1つの断面が見えた。

熊本市内で倒壊した家屋。隣接する家屋は無傷だった。家屋の構造や耐震性などで被害に大きな差が出ている
熊本市内で倒壊した家屋。隣接する家屋は無傷だった。家屋の構造や耐震性などで被害に大きな差が出ている
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