中小型液晶パネル大手のジャパンディスプレイ(JDI)が産業革新機構から750億円の資金援助を受けることが決まった。有機ELを手がけるJOLEDも子会社化し、液晶と有機ELの双方に注力する。激動の1年だったが、JDIの選択に勝機はあるか。

 苦しみ続けたジャパンディスプレイ(JDI)の2016年は、産業革新機構からの金融支援を受け、何とか乗り切ることとなった。

 JDIは12月21日、筆頭株主でもある革新機構から750億円の支援を得ると発表した。都内で会見したJDIの本間充会長兼CEOは、「ディスプレー産業は大きな変革期にある。安定収益基盤の早期確立と、新しい技術革新に向け資金を有効活用していく」と強調。有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)の開発を手がけるJOLEDを子会社化することも併せて発表した。

ジャパンディスプレイ(JDI)の本間充会長。12月21日、産業革新機構の支援決定を受けて、経営計画について記者会見した(写真:時事)
ジャパンディスプレイ(JDI)の本間充会長。12月21日、産業革新機構の支援決定を受けて、経営計画について記者会見した(写真:時事)

 同社が強みを持つパネル駆動技術「LTPS」を活用し、液晶と有機ELの双方の事業拡大に力を入れていく。スマートフォン(スマホ)だけでなく、車載やノートパソコン、VR(仮想現実)などの顧客開拓も急ぎ、2021年までにスマホ以外の比率を現在の19%から54%まで高めることを目指す。

苦しかったJDIの2016年

 2016年はJDIにとって激動の一年間だった。最大顧客である米アップルの減産から始まり、革新機構によるシャープ液晶事業との統合計画、そして破談。5月以降、資金繰りが悪化し、8月に革新機構に金融支援を要請。同月に稼動予定だった石川県白山市の新工場はスマホ市況の悪化などを背景に稼動を延期した。

 アップルの意向もあり有機ELへの投資もせざるを得なくなり、茂原工場(千葉県)に500億円を投じて有機ELのパイロットラインを導入。10月頃になると液晶の受注が増加し、新工場がようやく稼動。年内に滑り込む形で革新機構からの追加投資を受け、JOLEDの子会社化も決定した。

●JDIの株価推移
●JDIの株価推移
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JDIに接近する中国メーカー

 「ディスプレー産業は未曾有の大転換期に差し掛かっている。JDIは高精細化などの世界最先端の技術で業界をリードしてきた。このポジションを維持するためにも、ここは思い切って開発資金を入れ、“勝てる戦”をしていく」。革新機構の谷山浩一郎常務執行役員は今回の追加投資の狙いをこう話す。しかし、「今回の追加投資をもってJDIやディスプレー産業の発展を仕上げたい」としており、これがJDIへの最後の追加投資になることも示唆した。

 今回の追加投資にいたるには、革新機構側にも焦りがあった。ある幹部によると、「今年の9月頃、資金繰りにあえぐJDIに中国スマホメーカーから出資の打診があった」と明かす。詳細をつめるまでの協議には至っていないが、提示された金額は数千億円。中国メーカー側としては、高精細パネルの調達を確実にするためにJDIを囲い込みたいとの思いがあったようだ。

 しかし、革新機構を筆頭株主とするだけに中国メーカーの出資をそのまま受け入れることはできない。また、最大顧客であるアップルから睨まれることも必至だ。打診はすぐに断ったというが、資本注入がなければ液晶も有機ELの事業も立ち行かなくなってしまう状態に追い込まれていた。とはいえ、公的資金を使うだけに革新機構による資金支援は「成長分野」に限定されている。救済ではなく、「成長投資」と言える要素を作る必要があり、その一つとしてJOLED子会社化に踏み切った。

ようやく実現した日の丸ディスプレー構想

 JOLEDの子会社化は、1年以上前から革新機構が描いていた構図だ。正確に言えば、シャープの液晶部門、JDI、JOLEDの3社を統合し、「日の丸ディスプレー連合」にする構想を立てていた。“爆投資”による量で勝負する中韓勢とは一線を画し、「技術でリードできるディスプレー会社にし、国が成長資金を支援する」(革新機構幹部)形を目指していたのだ。

 しかし、3月末にシャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下入りを決定。シャープ抜きのJDIの成長戦略の中で、いつどのタイミングでJOLEDを合流させるか、革新機構側としても時期を見定めていた。今回の資本投入で、JDIは液晶に加えて、印刷方式と蒸着方式の両方の有機ELパネル技術で勝負していくという「成長戦略」をなんとか打ち出した格好だ。

緊迫感のない現場

ジャパンディスプレイ(JDI)が開発中のスマートフォン向けパネル。狭額縁の液晶パネルをつなげることで、折り畳み型のスマホが実現できる(写真:JDI提供)
ジャパンディスプレイ(JDI)が開発中のスマートフォン向けパネル。狭額縁の液晶パネルをつなげることで、折り畳み型のスマホが実現できる(写真:JDI提供)

 21日の会見でJDIの本間会長は「今回の資金調達を機に財務基盤を安定させ、普通の会社にしていきたい」と力を込めたが、期待通りに全てが進む保障はない。液晶にせよ有機ELにせよ、ディスプレーに携わる限り莫大な投資がかかり続ける。液晶だけでなく蒸着と印刷方式の有機ELも手がけるとなれば、コストはさらに膨らむ。さらに、蒸着方式の有機ELパネルの開発は難航しており、JOLEDが手がける印刷方式の有機ELパネルの需要も現時点では未知数だ。1年前から「脱スマホ依存」を掲げているが、こちらも期待通りに進んでいないように見える。

 現在の産業構造的にパネル供給側が主導権を握ることは難しく、今後もアップルなどの大口顧客の意向に振り回され大幅な戦略変更をせざるを得ない状態が続く。2016年が激動だったように、2017年もディスプレー産業がどの方向へ進んでいくか見通しにくい。「次はない」状態の日の丸ディスプレー連合の成否が明らかとなるのに、そう時間はかからないはず。2017年もまだ予断を許さない状態が続きそうだ。

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