宮本拓氏(25)を取材。DMM社長の片桐孝憲氏から直々にオファーを受け、グループ入りしたピックアップ(PicApp)の代表だ。2017年1月、当時2名だったメンバーは、1年足らずで51名に。とくに高く評価されているのが、宮本拓氏の「デジタルネイティブ世代にウケるプロダクト」がつくれる才能。彼の発想、そのウラ側とは?
2017年1月、株式会社DMM.com(以下、DMM)にジョインしたピックアップ株式会社(以下、ピックアップ)。
2014年にリリースした画像保存アプリ「POOL」は250万ダウンロードを超えるヒットプロダクトとなった。現在は、チャットストーリーアプリ「DMM TELLER」、女性同士のライブ配信アプリ「CHIPS」を展開。さらに新会社では仮想通貨に関する、新規プロダクトを開発している。
グループ入り当時、代表とCTOの2名だったメンバーは、2017年12月現在 51名に急増。いま最も勢いのあるスタートアップのひとつだ。
そのピックアップのCEOを務めるのが宮本拓 氏。25歳。
実際、取材を訪れ、話を聞いてみると宮本氏は”野心溢れる起業家”といった印象ではなく、和やかで人当たりが良く、親しみやすい人物という印象。彼がユニークなのはCAMPFIREの家入一真 氏とBASEの鶴岡裕太 氏にアプリ開発者として育てられたという過去。今も昔も彼には「放っておけない魅力」があるのかもしれない。
とくに彼が得意としているのが「デジタルネイティブ世代の日常に自然に溶け込む」プロダクトの開発。その世代とPCの利用に慣れている世代では、インターネットに対する価値観が異なる。ゆえに彼らの心理を理解するのは至難の技。
なぜデジタルネイティブ世代の間でヒットするプロダクトを生み出せるのか?そのウラ側に迫った。
[プロフィール] 宮本拓
ピックアップ株式会社 代表取締役社長/ネクストカレンシー株式会社 取締役
1992年熊本県熊本市生まれ。大学在学中に上京し、BASE株式会社でiOSアプリの開発を行ない、2013年Appleベストデベロッパーを受賞。日本で初めてAppleのプレスリリースで取り上げられる。2014年にピックアップ株式会社を創業。同年にリリースしたアルバムアプリ「POOL」は現在250万ダウンロード。2017年1月にDMMにジョイン。
― DMMグループ入りのきっかけは宮本さんたちが開発した「POOL」というアプリだと伺いました。アプリを起動するだけで画像の同期が始まる……。 機能も少なくなかなか攻めていると思うのですが、なぜこのカタチになったのか気になります。
当時好きだった女の子から「iPhoneの容量が足りなくて困っているんだけど、どうしたらいい?」とメッセージがきて、それが一番はじめのきっかけですね。
スマホネイティブ世代って、PCの頃からあった概念みたいなものを理解できないし、そもそも、理解する機会なんてないです。
はじめは『Dropbox』とかクラウドストレージを使うことを薦めたんですけど、「なにそれ?わかんない」って言われました(笑)僕にとっては当たり前だと思ってたんですけど、「ギガ?」「クラウド?」「結局、写真は何枚入るの?」って。プロダクトを作っていると、アプリやWEBサービスに対しての考え方や視点が玄人になってくる。この出来事はかなりの衝撃でした。
同時に「スマホを持つ多くの人が抱えている問題なんだろうな」と思ったんです。ここが狙い目かもしれないと感じて、そんな人たちの課題解決をするプロダクトを作ることを決めました。次の日にはBASEを辞めると伝えて、「POOL」を作り始めたんです。
ただ問題があって……。女子大生の課題を等身大で理解できる人が僕の周りにはいなかったんです(笑)POOLの企画についてインターネット界隈の人たちに意見を聞いたら、全員から「当たんないよ」「いけてない」ってダメ出しされた。
いただいたアドバイスを無視できず、意見を採用していったら……。「なんとなくインターネット界隈の人にウケそう」な、本来届けたかったユーザーのことは全く考えられていないプロトタイプができあがったんですね。女子大生に試してもらったら案の定、「どうやって使うの?」ってダメ出しされました。
そこからはユーザーヒアリングを重ねて、10前後あった機能を1個に絞っていきました。写真を保存できて「容量空ける」ボタンがひとつあるだけ。相変わらずインターネット界隈の人たちにはウケが悪かったのですが、とりあえずリリースしてみたんです。
そしたら、マーケティングもほとんどやってなかったんですが、口コミで勝手に広がっていって…。想像以上にダウンロードされていきました。リリースから3年たった今も、オーガニックで月間8万ダウンロードくらいされていて、累計で約250万ダウンロードに育っています。
― そしてDMMにジョイン。さらに「チャットストーリー」「ライブ配信」「仮想通貨」とこの1年でガンガン仕掛けていますよね。どのように事業を決めているのでしょうか?
「どの市場が伸びていくか」と「デジタルネイティブ世代がその市場に対してどういう動きをしていくか」を見ています。スマホを主に使っている10代、20代にまで市場が拡大するのであれば、彼らに求められるカタチでサービス提供していこう、と。
だから、狙っていく層として、現時点ではまだユーザーになりえていない人も当然いるんですよね。潜在的ニーズを持っている人たちに、先回りしてどうアプローチしていくかを考えています。
たとえば、チャットストーリーの「DMM TELLER」は、今までは長文で構成されていた小説やストーリーを「短文・ぶつ切り」の文章として表示することで、長文に慣れていないユーザーが情報と出会う、新たな場所になっていくはずです。
アメリカで行なわれた実験では、人気小説の最初の1,000文字を書き出したものをティーンに読ませたところ、参加者の1/3しか最後まで読むことができませんでした。しかし、短文のチャットに置き換えた場合、ほとんどの参加者が最後まで読めたそうです。
DMM TELLERのような短文フォーマットは小説だけでなく、商品レビューやイベントレポートなど、あらゆる活字に対応できる。若者はもちろん、もっと世代幅広く利用されるものになっていくと考えています。
― なるほど。もうひとつ、事業ドメイン決める時、最終的に重要なことは何だと思いますか?
そのプロダクト責任者の人が熱量を持ってやれるか。ここが一番大切なことかもしれません。じつはいろいろな事業アイデアはあるんですけど、適任者がいなければムリにやるということはしていません。やってる事業の領域が多岐にわたるのも、「誰がやるか」が大切だと考えているからなんですよね。やり抜ける人ってやっぱり目の輝きが違う。コミュニケーションしていくなかで「この人なら一緒にやれる」っていう感覚があって。
DMM TELLERのPMを担当している大久保の場合、「若年層の読書離れ」と言われている問題への意識が強かったんです。好きな本の面白さ、面白いコンテンツをどうすれば若者が読んでくれるのか。入社する以前から、2人で何度も議論していました。
もちろん他の事業を担当しても仕事なので淡々としてこなせるとは思いますよ。でも、その事業に心からフルコミットしたいと思っている人なら、パフォーマンスは100倍ぐらい違うと思っています。彼ならやってくれるだろうと、決めました。
― 最後に宮本さん個人として、どこを目指していくのか。考えられていることについて伺わせてください。
ぼくが働く上で、何がモチベーションになっているのかなって思ったとき、身近な友人に喜んでもらうのが好きなんですよね。ただ、それを仕事としてやるからには、やっぱりそれだけではなく、事業ドメイン決めて、多くの人に広げていかないといけない。「数千万人、数億人に使われるサービスを作っていきたい」というのはずっと思っていて、周りにも言ってきたこと。
とはいえいきなり大きなサービスを出すのではなく、満足してくれるひとりを増やしていくことで、1万、10万、100万、1000万人……とユーザー規模を育てるほうが、つくる側としてもリアルなイメージを持ちながらやっていける感じがします。それに、このやり方なら、ぼくは確実に刺さるサービスが作れます。
ぼくが東京に来た理由って、めちゃくちゃありきたりですが『ソーシャルネットワーク』を観たからなんですよね。あれを見て、友人とかキャンパス内とか、身近な友人からじわじわと世界に広がっていく感覚がたまらないんですよ。
会社のビジョンにも『From Friend To World』を掲げていて。身近な問題解決を最初にやり、それを優秀なチームで世界に届けたいと考えています。なので、まずは1人でも友人が使ってくれて「これ、いいね」って言われたら、僕は頑張れる。
僕がプロダクトをつくる原体験にある「身近な人を助けたい」みたいな想いが、伝わればいいなって思います。
文 = 大塚康平
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