オンラインコミュニティの有害行為を抑制する効果的な方法
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サマリー:オンラインコミュニティは、有害な行動の温床になっているケースが珍しくない。筆者らがあるオンラインコミュニティの18年分のデータを調べたところ、オンラインコミュニティで有害行為が発生する過程と原因に関して... もっと見る、5つの誤解が広まっていることがわかった。本稿では、この一つひとつの誤解の問題点を指摘し、学術的な研究成果をもとに、プラットフォームの管理者やモデレーターが有害行為を和らげるために取ることのできる戦略を紹介する。 閉じる

オンラインコミュニティが有害行動の温床に

 オンラインコミュニティは、大勢の人たちの集いの場と自称する場合が多いが、実際には有害な行動の温床になっているケースが珍しくない。露骨なハラスメント、ヘイトスピーチ、トローリング(ネット上のいやがらせ行為)、ドクシング(他人の個人情報の無断公開)がまかり通っている場合もあれば、他のユーザーを侮辱したり、排除したりする投稿がなされるなど、もっとさりげない──しかし、しばしば極めて有害な──行為が目立つ場合もある。

 このような問題は、「レディット」や「ディスコード」「4chan」(フォーチャン)といった有力なオンライン掲示板の類いばかりでなく、特定のブランド(たとえば人気ゲームの「コール・オブ・デューティー」など)のユーザー向けコミュニティでも起こっている。

 データを見ると、驚かずにはいられない。最近のある調査報告書によると、米国のティーンエージャーのおよそ3人に1人は、オンライン上でいじめを受けた経験があり、およそ15%は自分がいじめる側に回った経験があるという。また、他のいくつかの報告書によると、すべてのインターネットユーザーの40%は、何らかのオンラインハラスメントを受けたことがあり、女性の5人に1人は、女性嫌悪的なオンライン上のいやがらせを受けている。

 なぜこのようにオンライン上に有害行為が蔓延しているのか。その種の行為を抑制するために、プラットフォームの管理者は何ができるのか。

 この点を明らかにしたいと考えて、筆者らはあるオンラインコミュニティの18年分のデータを調べてみた。そのコミュニティは、英国のエレクトロニック・ダンス・ミュージック愛好家のコミュニティで、18年の間に、2万人を超すメンバーが合計700万件を上回る投稿を行っていた。筆者らはこのデータを補強するために、7人のメンバーに掘り下げた聞き取り調査を行い、15件のオフラインイベントを実際に観察し、さらに既存の研究を包括的にレビューした。

 この研究から導き出せたのは、オンラインコミュニティで有害行為が発生する過程と原因に関して、5つの誤解が広まっているということだった。本稿では、この一つひとつの誤解の問題点を指摘し、学術的な研究成果をもとに、プラットフォームの管理者やモデレーター(投稿内容の監視・監督を行う担当者)が有害行為を和らげるために取ることのできる戦略を紹介する。

1. メンバーは有害行為を受けてもコミュニティを去らない

 まず、よく見られる誤解の一つに、オンラインコミュニティで有害行為の被害に遭ったユーザーは、そのコミュニティをやめるはず、というものがある。ユーザーは帰属意識と信頼関係と親密な人間関係を得たいと思ってオンラインコミュニティに参加し、期待していたものが得られなくなれば去っていく、というわけだ。

 オンラインコミュニティへの参加はあくまでも任意なので、ユーザーはたいてい、楽しむために参加している。それに、このようなバーチャル空間には、手軽に参入したり退出したりすることができる。そのため、不快な思いをしたり、ハラスメントの被害に遭ったりした人は、コミュニティを利用しなくなるだろうと考えるのは、いたって自然な発想に思えるかもしれない。