反ESG時代、企業に求められるリーダーシップとは何か
Basil Pind/Stocksy
サマリー:2024年は企業のサステナビリティにとって厳しい年となった。気候変動、生物多様性の損失、不平等という3つの課題が悪化の一途をたどっており、観測史上最高気温の記録や野生生物の大幅な減少が報告されている。また... もっと見る、格差拡大や多様性への反発が進む中で、「反ESG運動」が広がり、企業は政治的中立と社会的責任の間で揺れている。本稿では、2024年におけるサステナビリティの重要テーマの状況を振り返る。 閉じる

2024年のサステナビリティの重要テーマを振り返る

 企業のサステナビリティにとって、2024年は厳しい年となった。米国では特にそうだ。前向きな話や希望が持てる理由もあるが、公正な世界と健全な地球への道がより険しくなったことは否めない。実際、筆者が20年以上サステナビリティに携わってきた中で、企業が社会的目標や気候変動対策からの撤退を公言したのは2024年が初めてだった。

 気候変動、生物多様性の損失、不平等という3つの実存的課題は、悪化の一途をたどっている。2024年には、観測史上最高気温が記録され、過去50年間で野生生物の73%が失われたという先例のない国連の推計が発表され、世界の大半で超富裕層とそれ以外の人々の格差が拡大し、多様性への反発が(米国人の過半数がDEIを支持している状況の中で)人種やジェンダーの公平性の向上を妨げている。

「反ESG運動」が勢いを増し、有名企業もその影響を受ける中、企業はいま、「政治に関与しない」ことと、社会的課題の解決に貢献することの両方に対する圧力が不安定に混在する状況に直面している。

 2024年の総括として、サステナビリティの重要テーマを振り返りたい。まずは3つの大きな問題だ。

選挙と政治的混乱が進歩を脅かす

 2024年、世界の半数以上の国で国政選挙が行われ、その結果に激震が走った。現職者が敗れ、米国を含む多くの国で極右ポピュリスト政党が政権を維持、あるいは獲得した。

 これがサステナビリティに関する第一の話題であるのは、極右ポピュリスト政党は通常、気候変動対策に敵対的か、よくても何もしないことを望んでいるからだ(独裁的な政権の中では、中国は特筆すべき例外だ)。社会的持続可能性の課題についても、彼らの経済政策は不平等を悪化させる可能性が高い(たとえば、ドナルド・トランプ次期米大統領が打ち出した関税政策は、物価を上昇させ、最貧困層を最も苦しめるとエコノミストらは指摘している)。

 トランプ次期政権には、気候変動対策ダイバーシティとインクルージョンに関して期待できそうにない。トランプは、エネルギー長官に石油会社のCEOを指名し、パリ協定から米国を再び離脱させると宣言し(エクソンモービルのCEOが残留を訴えているにもかかわらず)、電気自動車へのシフトを妨げようとし、気候変動対策への史上最大規模の投資を実現するジョー・バイデン大統領のインフレ抑制法を廃止すると述べている。さらに、トランプが任命した判事らが環境や社会の進歩を妨げるとの懸念もある。たとえば、連邦最高裁は2024年、40年前の「シェブロン法理」(法律の曖昧な部分については解釈を行政に任せるもの)を覆す判断を下し、環境と公衆衛生の分野で政府が規制を設けることが困難になった。

 このことがビジネスにとって何を意味するかは不透明だが、サステナビリティの課題のほとんどの側面にとって逆風となり、変革を推進する企業の負担が増すだろう。