プレゼンや営業、自己PRをする時、私たちはちょっとした「おまけ」をつけた方が効果が高まると考える。しかし、それは逆効果だ。心理学者の実験によって「プレゼンター(提供者)のパラドックス」という、驚くべき落とし穴が示された。


 面接で、あなたの上司になる可能性がある人から「どういう資格を持っていますか」と尋ねられたとしよう。この時あなたの唯一の目的は、「よい印象を与えること」。だから自分の実績を並べ立てる。ハーバード大学やイェール大学で取得した学位、立派なインターン経験、重要なソフトウェアや統計分析の深い知識。さらにあなたはこう付け加える。「ああ、それから、大学で1年ほどスペイン語を勉強しました」。実質的にはささやかな経験にすぎないが、この企業はラテンアメリカで手広く事業を行っているので、スペイン語もまったくできないより少しはできたほうがいいだろう、とあなたは考える。

 はたして、そうだろうか?

 実は違うのだ。あなたはこの時、心理学者たちが最近発見した「プレゼンターのパラドックス(Presenter’s Paradox)」という罠にはまってしまっている。これは自分自身や会社、製品などを売り込む時、直感に従うと驚くほどまずい結果を招きかねないことを示す一例である。

 問題を簡単に言えばこうなる。自分の数ある実績(あるいは一連のサービスや製品)を並べ立ててプレゼンテーションを行う時、私たちは受け手がその1つひとつを足し算してくれると想定している。印象・感心の度合いにおいて、ハーバードで学んだことや立派なインターン経験、統計学のオタク的な知識はそれぞれ10点で、スペイン語を2学期間学んだことは2点だとしよう。これを足し算すれば、10+10+10+2=32点の印象を与えられることになる。スペイン語の能力がわずかであっても、全体に加算されるなら言っておいたほうがいい、多いことはよいことだから――こう考える。

 しかし実際は、単に多いだけでは面接官(またはクライアントや消費者)によい印象を与えられない。受け手は、こちらの提供物が与える印象を足し算しているのではなく、「平均」している。受け手が注目するのは個々の要素ではなく、1つのパッケージとして全体像を捉えているのだ。

 あなたの話は、聞き手にとっては(10+10+10+2)÷4のパッケージであって、印象の得点は32÷4、つまり「8点」ということになる。スペイン語について触れなければ、あなたのパッケージは(10+10+10)÷3となり、「10点」の印象を与えることができたはずだ。わずかなスペイン語の能力に触れるのは、何も言わないよりましだと論理的には思えるだろうが、むしろ志望者としての魅力を削いでしまうのだ。

 他と比べて劣ったものを付け加えてしまうと、「多いことはよいこと」ではなくなる。非常に好ましいものや有益なものは、それほどでもないものと同列にされることで、受け手にとっての魅力が低下したりインパクトが薄れたりしてしまう。