いの

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分のいののレビュー・感想・評価

4.2
少しずつ夏の終わりを感じることもあって、静かな夜 なんだか無性にこの映画を観たくなった。初鑑賞時は映画館で。わたしにとっては、トム・ハーディを知った映画でもあります。


上映時間86分。映画内で経過する時間も86分(多分)。映像として出てくるのはトム・ハーディただひとり。夜の高速道路。灯りがガラスに反射する。


わたしは初鑑賞時になにも知らないで観てとにかくおもしろかったし、映画のなかで初めて知って驚いたりふむふむしたりするのが好きなので、本当はものすごく語りたいのですが(彼は今なぜ運転していてどこに向かうのか?などについては)語るのを控えたいと思います。


「愛されようと 憎まれようと やるべきことはやる」
車内で仕事関係者や家族など、たくさんの人と会話するのだけど、その会話から、彼がここまでものすごく誠実に仕事をしていた様子が浮かび上がってくる。移民の労働者からの信頼もあついということもわかってくる。最後まで仕事を全うしようとしていることも伝わってくる。ねぎらいや賞賛など誰からも得られなくても、それでもやるべきことをやる仕事人のはなしは大好物なので、この映画もどうしたってきらいになることはできません(でも今作を、そのカテゴリーには全く当てはまらないと思う方もいらっしゃると思います)


なぜ向かうのか、どこに向かうのか。そのことについて、彼を批判する人はもちろんいるだろうし罵倒したくなる人もいるだろうし、自業自得じゃねぇかと批判する人の方が多いことも理解できます。でもやっぱりわたしは(中略)、むしろ彼に向かわれている側の人にひとことだけは申し上げたい気持ちがないわけでもないけど(以下、略)


それにしても、トム・ハーディの演技の巧さよ。86分をひとりで魅せる。振り幅のある感情もみせるし、ほんのささいな気配で揺れ動く様子もみせる。電話越しに仲間を鼓舞し、家族に対して様々な思いを抱え、ちょっといっちゃってるヤバい様子もみせつつ、いつの間にか涙をこぼしている場面で観ているわたしも涙を流してしまう。夜のハイウェイ。孤独の気配が濃厚ななかで、それでもそのなかであたたかさや希望の灯りがあると感じるしそう感じたいし、終幕したその後について思いを馳せたくなるような余韻もある。


声の出演者は、オリヴィア・コールマンやアンドリュー・スコットなど。初鑑賞時には存じ上げなかったキャストも今ならわかります。トムハの息子役のひとりとしてトムホが出演。これはアメリカ映画ではなくて、やっぱりイギリス映画って感じがする。
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