りょう

新聞記者のりょうのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
4.8
 この作品に実名で登場するひとたちと一緒に仕事をしたことがあるので、あまり中立的に観たわけではありませんが、邦画でここまでの作品にできたことは、左派とか右派とか関係なしに評価すべきだと思います。最初に観た2020年ころは、まだこの界隈の仕事をしていませんでしたが、ほとんど一緒の印象でした。
 この物語はあくまでフィクションです。実際のできごとをモチーフにしていますが、政治的なコンテンツを苦手とする日本人むけに、物語の構造をわかりやすくする必要もあったはずです。仮にこれがマスコミや野党によるプロパガンダであったとしても、それを批判するのは“あっち側”のひとたちです。
 プロパガンダが批判されるべきは、それによって他者の権利が不当に侵害される場面です。個人と国家という極めて不均衡なパワーバランスのなかで、圧倒的な権力をもった政府という組織は、その権利が侵害される“他者”として想定されていません。あまりに理不尽で名誉棄損になるような誹謗・中傷などがあったとしても、その強大な権力を利用して反論すればいいだけのことです。国民から徴収した“税金”でつくられた組織・機構があるのだから…。
 それすらも通用しない社会だから、マスコミが委縮する構造的な問題が解消されないし、それをフェアに告発しようとすれば、ジャーナリズムそのものが権力に忖度することになりかねません。個人が国家を相手にするときにフェアとかアンフェアとかを議論していたら、ずっと足踏みすることになってしまいます。
 主人公の日本語がたどたどしいとか、内閣情報調査室の照明が暗すぎるとか、ノンフィクション風なのに事実と違うとか…、そういうレベルの批判ばかりなので、もっと本質的な視点や論点があれば、もう少し考察してみたいと思いました。
 主演のシム・ウンギョンは、この役柄に日本の俳優やプロダクションが躊躇してしまい、誰もキャスティングできなかったためにオファーされたそうです。いくら帰国子女の役柄でも日本語の違和感は否めませんが、それを払拭する顔面の表現力には圧倒されるところがありました。
 とりわけ右派からの批判が激しい作品ですが、結局はバッドエンドでしかなく、矜持のあるひとの犠牲がループするような場面で暗転します。5年経っても社会の構造に変化を感じられず、ちょっと絶望感もありますが、最後の2人のセリフとできごとを想像して、それをどう解釈するのか…とても思考を刺激されるラストシーンです。「それでもたたかいつづける」という前向きなメッセージとともに…。
りょう

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