なべ

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のなべのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
1.0
 書き始めたら悪口が止まらなくなるとわかっていたから、レビューしないで放っておいた映画。そもそもレビューするほどの価値はないし、水木しげるへの礼を欠いた作風に終始イラッとしながら観てた。
 本作を褒める人は原作者の名誉を著しく傷つけているのだと理解しなければならない(こんな話、水木は微塵も描いてないからな)。

 別に熱烈な水木しげるファンではないが、まだアニメがモノクロだった時代からゲゲゲの鬼太郎を見てた身としては、これは違うだろ!と憤らずにはいられない。昨今の猫娘の変容っぷりや、イケメン過ぎる鬼太郎の話じゃないよ。水木ワールドってもっと飄々としていてシュールな持ち味が身上なのだよ。人の世界を滑稽だと笑い、毒づくような。

 まず、横溝正史風因習村設定に異議あり。一人の(それも偉大な)漫画家の世界観を映画にするにあたり、別の作家の世界観を持ってくるって何? それ失礼を通り越して無礼だから。これほど原作者を侮辱する映像化をぼくは知らない。あ、「セクシー田中さん」の例がつい最近あったか…。
 「水木ワールドと横溝ワールドがこんなに親和性があるとは!」みたいなあほなレビューを見かけるけど、マジで反省してほしい。日本酒を飲んで「ワインみたい」って、お酒を下げる褒め方をする愚か者みたいなこと書いてると気づいて!
 ほかにも水木しげるなら絶対に描かない黒髪の少女紗代と水木のよろめきドラマとか、違うちがう、水木しげるはそんな風に物語を描かないから。おまえら、ちゃんと漫画読んでないだろ。
 そうかと思えば、「総員玉砕せよ!」の引用で、「はい水木イズム注入完了。あとは好き放題やってよし」ってな厚顔無恥な図々しさも見受けられ、さすがにこんなバレバレな手口に騙される奴なんてと思っていたら…いた。てかみんな騙されてる。マジかー。あれで水木の反戦思想をわかった気になるんだ。原点を知らないって恐ろしいな。
 こんなに手軽に過去作品を探せる世の中にあって、ちーっとも検索しないんだな。オリジナルを知らないで、粗悪なリミックスを見ておもしろがるなんて、水木しげるの亡骸にしょんべん引っ掛けてるみたいな行為だからな。

 そもそも幽霊族の血と人の身体で血液製剤Mをつくるってところも、水木ワールドじゃなくてマトリックス。いや、庵野の実写版キューティーハニーのジルタワーか。
 自らの器を産ませるために孫を陵辱するって血縁のタブーはいかにも横溝正史的。
 鬼太郎とは関係のないオリジナル怪奇ミステリーとして作られた作品ならなんのモンクもないさ。でもね、それでは客が呼べないからと、無理やり妖怪と絡めて鬼太郎誕生の前日譚とするって、この思考ヤバくない? 商売の仕方がエグ過ぎるわ。水木しげるは死んでるから、モンクは言えまい。好き放題やっちゃうよってか? うへぇ、よくもこんな下品な映画をつくりやがったな。
 え、ドラえもんやクレしんの劇場版も同じじゃんって。あれはもうちょっと原作者へのリスペクトやつくり手としての誠実さがあるよ。核となるアイデアは映画版独自のものであっても、物語を推進するキャラのパーソナリティはちゃんと守られているからね。
 最後の狂骨のまあ唐突なこと。ツギハギついでに貼られた感が拭えない。鬼太郎ワールドの妖怪とも違うしね。京極堂あたりがヒントか。いずれにせよ、最後くらい妖怪らしい妖怪入れとかないと体裁が悪いか、みたいな粗いノリが透けて見える。
 とまあこんな具合にざっと書いたけど、悪口しか出てこないや。悪口というか本当のことなんだけどね。
 鬼太郎誕生の話ちっとも出てこないじゃんっと憤怒に打ち震えていたら、なんとエンドロールで墓場鬼太郎の駆け足紹介。しかも辻褄合わせのために水木は記憶を失うとか。呆れてものも言えない。こんな与太話を鬼太郎の歴史に組み込むことは断じてあってはならない。
 ゲゲ郎と水木の友情? 相棒と呼びかけたから? 薄い。薄っぺらいよ。あいにくこれを友情と呼ぶやっすい世界にぼくは住んでない。
 巷ではリピーターまでいるらしいが、きっと水木しげるとは関係のないところで盛り上がっているのだろう。
 あまりに賛のレビューが多すぎて、否もここに書き記しとく。
なべ

なべ