2022.10.13

ヒトの意識をコンピュータへ移植することはできるか?

「意識のアップロード」の存在意義
意識を宿す脳は、すこしばかり手のこんだ電気回路にすぎない。であれば、脳の電気回路としての振る舞いを機械に再現することで、そこにも意識が宿るに違いない。多くの神経科学者はそう考えている。
問題は、ヒトの意識のコンピュータへの移植、いわゆる「意識のアップロード」である。仮にそれがかなえば、ヒトが仮想現実のなかで生き続けることも、アバターをとおして現世に舞い降りることも可能になる。どちらを選択しても、生体要素が一切排除されるため、死が強制されることもない。
はたして意識のアップロードは原理的に可能か? その技術的目処は立っているのか? まずは、その意味合いと存在意義に迫る連載第一弾をお届けしたい。

SFの世界が科学に!

photo by GettyImages

自らを被検体に、意識のアップロードをくり返す開発エンジニアのポール。アップロードのたびに彼の意識は二分され、ひとつは身体にのこり、もうひとつはコンピュータが担う仮想現実に召喚される。数えること五度目の実験、幸運にも、過去四回とも身体の側に残りつづけた主人公のポールだったが……。

肌触りのよいシーツの上で夢からさめると、朝日が窓から差し込んでいる。一体、いつどうやって眠りについたのか。底知れぬ不安が頭をよぎる。ゆっくりと、しかしやがて、ある想いに行き着く。ついに仮想現実に囚われ、実験用モルモットに成り果てたのだと。

覚悟はできていたつもりだったが、まったく甘かった。彼は愕然とし、絶望し、かつて同様に囚われた分身たちが皆そうしてきたように、自殺レバーへと向かう。それは、仮想世界において装備が義務付けられているものだ。だが、そのレバーを引いた刹那、それは根元から折れてしまう。外界に居座るもうひとりのポールを呼び出し問いただすと、「次々と自殺されてしまっては実験にならない」と、彼がプログラムを書き換え、レバーを無効にしたことが告げられる……。

怒涛の展開で幕をあけるグレッグ・イーガンのSF小説『順列都市』が世に出てから早十八年、ようやく科学の世界でも意識のアップロードが語られるようになった。

仮に意識のアップロードが現実のものになったら、あなたはアップロードされたいと思うだろうか? もちろん、ポールのような人柱としてではなく、一お客さんとして。

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