日産を支えた最大の部品メーカーの危機! 再建に躓いた投資ファンド「KKR」の実力

なぜ倒産 運命の分かれ道 ④

帝国データバンク 情報統括部

時代の変化に応じてビジネスモデルを変えられなかった企業は、円安、資源高、人件費の高騰などに見舞われ、たちまち資金繰りに窮することになり、様々な形での倒産が急増している。

60年にわたって「倒産」の現実を取材・分析しつづけてきた日本最高のエキスパート集団が、2021~2024年の最新の倒産事例をレポートした『なぜ倒産 運命の分かれ道』から連載形式で紹介する。

軍需から民需へ

世界的な自動車部品サプライヤーのマレリ株式会社は、グループ5社で2022年3月から事業再生ADRを進めていた。しかし、ADRによる経営再建はかなわず、マレリホールディングス株式会社のみ法的整理のもと債務カットを受けて事業継続することとなった。

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グループ中核の事業会社であるマレリ株式会社(旧・カルソニックカンセイ株式会社)の起源は、長尾源太郎氏が始めた軍需工場だ。海軍指定工場として、特殊ディーゼル機械用ラジエーターの製造を手がけ、1938年(昭和13年)8月に日本ラジエーター製造株式会社として法人改組した。終戦後に自動車用ラジエーター製造へ転換、54年には日産自動車の系列に入り、通称「ニチラ」(日ラ)と呼ばれた。62年に東証2部上場、73年に東証1部へ指定替えとなり、78年3月期には年売上高約741億8900万円を計上していた。

設立50周年の88年、商号をカルソニック株式会社へ変更。 2000年には日産自動車系の株式会社カンセイ(旧・関東精器株式会社)と合併し、カルソニックカンセイ株式会社(以下、CK)が誕生。2005年、日産自動車の子会社となり、同社の北米事業の好調に伴いカーエアコンや熱交換器(ラジエーター)など部品の納入が拡大し、2016年3月期の連結年売上高は1兆円を突破。日産自動車が約42%出資する、グループ企業としては最大の部品メーカーとなった。

日産系列から離脱、KKR傘下へ

ルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン氏のもと、三菱自動車との提携が始まっていた日産自動車が、CKとCK関連会社を米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却(2017年3月)したことは、自動車業界にとって驚きのニュースだった。自動運転や電気自動車(EV)など次世代技術への投資を見据えて行われたM&Aで、マレリホールディングスは上場廃止。独立系ティア1サプライヤーとして、日産自動車以外の取引先開拓も急務となった。

そこで、手始めにイタリアのフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)でEV製品に強い自動車部品部門「マニエッティ・マレリ」を買収(2019年)し、CKと統合させて商号をマレリ株式会社へ変更(2019年10月)。直近でも、中国市場の足がかりとして中国の空調大手・上海海立(ハイリ)集団と合弁会社を設立(2021年1月)し、事業の統合や組織再編に取り組んだ。マレリはアジア、米州、欧州、アフリカに約170の施設や研究開発センターを有す世界的な独立系自動車関連サプライヤーになった。

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