村上ファンド事件、1審判決の「おかしさ」に目をつぶった大新聞

「村上バッシング」に迎合した感情的な判決に社説も追随

読売新聞 2007年7月20日朝刊

「断罪された『利益至上主義』」(読売新聞)

「断罪されたウソ言う株主」(朝日新聞)

「監視を強化し不正の根絶を」(毎日新聞)

「『モノ言う株主』の仮面外された」(日本経済新聞)

 以上は、主要各紙が2007年7月20日付朝刊の社説で使った見出しだ。前日、通称「村上ファンド」元代表、村上世彰が東京地裁で懲役2年などの実刑を言い渡された。

 ニッポン放送株をめぐるインサイダー取引の罪に問われたのだ。それを受け、各紙とも彼の不正行為を改めて糾弾したわけだ。

 それよりも1年余り前に村上が東京地検特捜部に逮捕・起訴された時の新聞報道がよみがえったかのようだった。ためしに、当時の社説の見出しを引用してみると、次のようになる。

「"プロ"を狂わせた市場原理主義」(6月6日付読売)

「堕落した『挑戦者』」(6月12日付朝日)

-AD-

「ホリエモンも手玉にとっていた」(6月24日付読売)

「もう一度、会見しては」(6月25日付朝日)

 1審判決時と逮捕・起訴時と比べると、主要紙の社説は見出しだけでなく、内容でも基本的に同じだった。

 無理もない。逮捕・起訴時には大新聞は村上ファンド側にほとんど取材せずに、検察側の主張を大々的に報じていた。一方、東京地裁は検察側のストーリーを全面的に採用し、有罪判決を下した。つまり、1審判決をそのまま報じると、逮捕・起訴時とあまり変わらない内容になってしまうのだ。

朝日新聞 2007年7月20日 朝刊

 1審判決には見過ごせない問題点がいくつかあった。しかし大新聞は、一部を除いてそれをほとんど報じなかった。ここでは3点挙げておこう。

 第1に、裁判官は「買収の実現可能性がゼロでなければインサイダー情報になる」との判断を示した。ここでのインサイダー情報とは、ライブドアによるニッポン放送買収のことだ。

 村上はニッポン放送買収というインサイダー情報を得ながら同放送株を買い進めたとして、インサイダー事件としては異例の実刑判決を下されたのだ。

 正確には裁判官はインサイダー情報について「実現可能性がまったくない場合は除かれるが、可能性があれば足り、その高低は問題とはならない」と述べたのだが、これには多くの市場関係者が絶句した。ファンドマネジャーは日常的に投資先企業を訪問し、M&A(企業の合併・買収)も含めて経営戦略について聞く。そこで得た情報がすべてインサイダー情報になりかねないのだ。

 クレディ・スイス証券でM&A責任者の立場にある大楠泰治は1審判決を振り返り、「M&Aの実態を知らない素人の判断」と一蹴する。当時、M&Aに詳しいビジネス弁護士の間では「東京地裁が無罪判決を出したら、検察に恥をかかせてしまう。だからインサイダー情報のハードルを大幅に引き下げざるを得なかったのでは」との声も聞かれた。

関連記事