2期目の習近平が「次の5年」で変えられること、変えられないこと

北朝鮮、経済、そして人事は?

10月18日、中国共産党の第19回党大会が始まった。いよいよ習近平政権の2期目の幕が開く。注目の人事で、習近平は思い通りの布陣ができるのだろうか。2期目の5年間は思い通りに運営できるのだろうか。

5年前の中国は「学級崩壊」だったのに…

5年前、習近平の1期目はひどい状況から出発した。前任の胡錦濤が江沢民の掣肘(せいちゅう)をうけて弱い指導者のままだったせいで、政治局常務委員会は各委員が分担する分野を独立王国のように牛耳る「学級崩壊」に似た状況だった。

その代表人物で司法公安を牛耳っていた周永康は、薄煕来と結んで習近平に対する謀反まで企んでいた。一党独裁の中国共産党ではあり得ない異常事態……。筆者は当時の習近平を「ノーアウト満塁でマウンドに送られたリリーフエース」に喩えたことがある。

5年前の習近平は中国の権力センターである政治局常務委員会に、盟友の王岐山以外には自前の派閥も子飼いの部下もいなかった。ただ、「こんな状況では共産党が潰れる」という危機感だけは、(謀反人たちを除く)体制内の派閥、勢力に広く共有されていた。

その共有された危機感のうえに、「西側」の概念で言えば「救国大連立政権」のように始まったのが習近平政権1期目だったと言える。自派閥を持たなかった習近平が謀反に加担した「大虎」を一網打尽の如く摘発できたのは、この危機感の共有があってこその成果だった。

あれからまだ4、5年。思えば遠くに来たものだ。習近平が「党中央の核心」称号を手に入れてこの1年あまりは、「習近平の権力集中」ばかりが語られるようになった。政敵の一掃を可能にした「救国大連立」精神は、舞台袖に退いた。習近平は派閥の育成に余念がなくなり、地方指導者や省庁トップにかつての部下・腹心を次々と抜擢し、次世代指導者の一人と目されてきた重慶市書記の孫政才を追い落とした。

制服組のトップ2人(軍事委副主席だった徐才厚と郭伯雄)を葬って以降は、人民解放軍で従来の中央4総部 (総参謀部、総政治部、総後勤部、総装備部)を解体し、7つの地方軍区制を廃止して、組織のタテ・ヨコのマトリックスを換骨奪胎する大改革を始めた。

その過程で伏魔殿の如くであった軍の利権にメスが入っている。これまで必要性は言われても誰も手の付けられなかった大改革だ。

過去5年間を振り返って、習近平が強い指導者になったことを雄弁に物語る出来事は、この「反腐敗」と「軍制改革」だろう。

では、外交や経済など施政全般を見渡したとき、習近平は党や政府を意のままに動かせるほど強い指導者になったか……。肯定材料、否定材料の両方がある。

ついに「北朝鮮タブー」へ踏み込む

外交面では大技とまでは言えないが、権力強化をうかがわせる出来事があった。そう言うと「一帯一路のことか」と思う人がいそうだが、そうではない。ああいう反対者の少ない「前向き」政策は、そもそも政権の鼎の軽重が問われるような仕事ではない。そういう意味で重視すべきは、むしろ反対や抵抗の強い仕事をどれだけこなせたかだ。

ある問題や政策について、決定を行い執行するときには、それが体制内部のコンセンサス(ときには「民意」)のとの距離が近いか、その変化の方向とベクトルが合っているかを測ることが重要だ。

体制のコンセンサスや「民意」に沿った決定・執行を行えば、政権のパワーを強化できるが、そればかりやっていると、悪しきポピュリズムになってしまう。ときには体制のコンセンサスや民意に反する決定・執行ができてこそ強い政権だと言えるが、これもやりすぎると、政権のパワーを落とす元になる。

何をしたいのか、それをすると政権のパワーは増すのか減るのか、その見極めとバランスを図るのが政権運営というものだろう。

このような視点から注目したい1期目習近平政権の外交仕事は、北朝鮮政策だ。9月4日付けの拙稿で述べたとおり、中国の北朝鮮に対する政策は、習近平の下で大きく動きつつある。これまで「友好国」であり、「緩衝地帯という安全保障上の資産」だった北朝鮮が、最近は「非友好国(「仮想敵国」と言う人までいる)」、「安全保障上の負債・リスク」へと変化しつつあるのだ。

これまで昔のナラティブ(話法)が維持されてきたのは、朝鮮戦争に従軍した老兵士たちや、彼らを擁する解放軍、党内保守派が抵抗したからだ。20万とも50万とも言われる朝鮮戦争での戦死者が、命をささげた北朝鮮を、否定的に語ることはタブーだったというべきだろう(戦前の日本と同じように、「英霊」タブーが北朝鮮政策を縛ってきたと言える)。

しかし、習近平はこの伝統的なナラティブを大きく変えようとしている。「民意」が北朝鮮をますます嫌うようになったことは、習近平にとって「追い風」要因だが、軍の絡むタブーに手を付ける軌道修正は、弱い指導者にはできないことだ。

「そうは言っても、けっきょく北朝鮮の暴走を抑えられていないではないか」という反論はあろうが、「党大会が済むまでは安定第一」という事情は今月で変わる。仮に北朝鮮が挑発を止めない場合、2期目の習近平はどう対処するだろうか。

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