三菱UFJ銀行が、全国に張り巡らせたATM網の本格的なスリム化に乗り出した。メガバンク各行はかつてない逆風にさらされており、前代未聞のリストラを進めている。普段あまり意識しないかもしれないが、銀行がどのようなサービスを提供しているのかによって、私たちのライフスタイルは大きく変わる。お金に関する5年後の姿を想像してみた。
1兆円のコストをかけたATM
日本は他の先進諸外国と比較して、現金の流通比率が極めて高いことが知られている。これまでもSuicaや楽天Edyなど各種の電子マネーが登場し、ある程度は普及したものの、やはり少額決済の主流は現金のままとなっている。最近ではQRコードを使った簡便な電子マネーに乗り出す企業が増えているが、現金という最強の決済手段を超えられるのかは何とも言えない。
日本において現金決済がなくならない理由としてよく取り上げられるのが「いつでも現金を引き出すことができるので、わざわざ電子マネーを使う必要がない」というものである。確かにその通りであり、日本ではあらゆる場所にATMがあるので現金の引き出しに困ることはない。
だが、これを日本の利便性の象徴と認識するのは拙速である。
あらゆる場所にATMがあり、現金を容易に引き出せるのは、銀行がコストをかけてこうしたATM網を構築してきたからにほからなない。
日本では約20万台のATMが稼働しており、ATM網の維持にかけるコストは年間1兆円近くにも達する。当然ながらこのコストは、私たちが銀行に支払う手数料の中から捻出されている。現金決済が便利なのは、極めて大きなコストを私たちが銀行に支払っているからであって、これがリーズナブルなのかはまったくの別問題だ。
ATM網はバブル期に急速に整備されてきた、従来型の「重たい」システムである。当時はATM網を整備することで大量の顧客をさばき、引き出し手数料を獲得することがひとつのビジネスモデルとして機能していた。だが、スマホを使った極めて安価な決済手段が普及している今、大規模なATM網と大量の現金を取り扱うことは銀行にとって割に合わなくなっている。
メガバンクが本格的にATM網の削減に乗り出したということは、わたしたちの生活習慣が変わることを意味している。好むと好まざるとに関わらず、現金決済は急速に萎んでいく可能性が高い。