青い大波が押し寄せた
2018年11月6日、全米で中間選挙の投票が行われた。
残念ながら、テイラー・スウィフトの推した民主党の候補者はテネシー州の連邦上院議員に選ばれることはなかったが、それでも選挙前から、民主党の「青い波(Blue Wave)」が押し寄せるのを、いかにして共和党の「赤い壁(Red Wall)」が防衛するか、といわれていた通りの結果になった。
11月22日現在、上院こそ共和党が52議席を獲得し過半数を維持したものの、下院では民主党が、過半数である218議席を超える233議席を獲得し、2010年以来、8年ぶりに多数派に返り咲いた。
全議席が改選される下院は、それゆえその時々の社会の意向を反映したものとして位置づけられており、そこから大統領府の監督役としての機能も与えられている。
勢いを得た民主党は、新会期が始まる2019年1月以降、その調査権限を活用し、ロシア疑惑を始めとしてトランプのホワイトハウスに対峙していくものと思われる。
連邦議会以外でも民主党はその「青い波」で、州知事や州議会などの選挙でも善戦した。
同一の政党が、州知事ならびに州議会の二院で多数派を得て、州の政府運営を完全に掌握することを「トライフェクタ(trifecta)」というが、今回の選挙で民主党は、コロラド、イリノイ、コネチカット、メイン、ニューメキシコ、ニューヨーク、ネヴァダの7州で新たにトライフェクタを達成した。対して共和党はアラスカだけだった。
結果として、中間選挙を終えて、民主党のトライフェクタ州は14、共和党のトライフェクタ州は21となった。
まだ勝敗が決していない州も
ところで、これはとてもアメリカらしいことなのだが、選挙から数日経っても勝敗が決さないところが必ず出てくる。
なかでもフロリダの州知事と上院議員ならびにジョージアの州知事については、最終的にはいずれも共和党の候補者が勝利したものの、再集計の結果いかんでは法廷闘争もありえるという見方も出ていたくらいで、最後まで全米の注目を集めていた。
選挙から2週間経った11月22日現在、それでも下院で2議席、上院で1議席が未決定のままである。最終的な結果が確定するには、いましばらくかかりそうだ。
そんな中で今後のアメリカ政治を占う上でビッグニュースだったのが、長らく共和党の牙城であったアリゾナの上院選で、民主党のキルステン・シネマが勝利したことだった。
上院については、民主党は過半数を獲得できなかったものの、中西部のインディアナとミズーリで失った2議席を、ネヴァダとアリゾナの南西部2州で取り戻したことになる。見た目には中西部と南西部をスイッチしたようにみえる。だが2020年の大統領選を睨んだとき、この入れ替えの示唆は意外と大きい。
今回の中間選挙において最も注目を集めていたのは、テキサスの上院選に出馬した民主党のベト・オルークであり、その人気の高さからオバマの再来などとも言われていた。結果的には、現職で共和党のテッド・クルーズに僅差で破れてしまったが、確実にBlue Waveを引き起こした立役者の一人だ。
O’Rourkeという姓からもわかるようにアイルランド系だがエルパソ出身でスペイン語に堪能であり、その上アイビーリーグのコロンビア大学卒というオルークには、すでに2020年の大統領選への出馬を期待する声も挙がっている。
そんな青い大波の中で、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニア、ネヴァダと南西部4州で民主党が上院の議席を確保することができた。
その主たる原動力は、メキシコとの国境を接している南西部らしくヒスパニックの投票であり、トランプ政権の強硬な移民政策に対する反動が具体化された結果となった。
つまり、ヒスパニックの北進・東進に合わせて、それまで赤かった(=共和党支持)州が、徐々に青く(=民主党支持)なっていく動きが本格化してきたわけだ。
実際、ヒスパニックに限らず、アジア系やアフリカ系、ネイティブアメリカンによって南西部はすでに十分「多様性(ダイバーシティ)」を抱える社会と化しており、トランプ以後の急速に極右化した共和党にはさすがについていけないと考える人たちが出てきてもおかしくはなく、そのような共和党にさじを投げた人たちが、オルークをはじめとした民主党候補の支持にまわったのだという。
この南西部の「パープル化(=赤から青への移行)」の動きは、今後の選挙において、いよいよもってヒスパニックの動きが無視できなくなってきたことを表している。
確かにBlue Waveは押し寄せていたわけだ。