日本ではあまり知られていないが、ここ数年日本を専門的に扱うメディアの数がフランスで増えている。
もともとあった月刊誌Zoom Japonにくわえ、日仏両言語で両国の文化事象をとりあげるRevue Kokoや、より時事に特化したJapon Infosなどがあげられるが、注目すべきなのが従来のステレオタイプ的な西洋における日本像からの脱却をめざし、2020年春に創刊したTEMPURA(季刊・発行部数5万部)である。
女子プロレスや即身仏についてのルポルタージュや、また平野啓一郎や川上未映子など現代日本を代表する作家の短編小説やインタビューを掲載するなど、掲載されている記事も充実している。
日本と同様不況の仏メディア業界で、類似の独立系雑誌ができては数ヶ月で潰れることも多い中、このような一見とがった内容で生き残りに成功しているTEMPURA は異彩を放つ。なぜこのような雑誌が今のフランスの読者に受け入れられているのか、編集長のエミール・パシャ・バレンシア氏にインタビューし実情を探った。
雑誌「TEMPURA」編集長のエミール・パシャ・バレンシア氏
成功する保証なんてなかった
――なぜこのような雑誌を作ろうと思ったのですか?
まず前提として、フランスにおける日本への関心というのは昔から存在しているのですが、ただこちらでみんなが抱いている日本に対してのステレオタイプ的なイメージを越えようとする雑誌というのが今までなかったのです。
カルチャーに関する媒体はあるのですが、フランスで一般受けするありがちな日本のテーマ――伝統文化、マンガ、アニメ、食など――に記事の内容が偏っていました。だからフランスの読者も、もう少し日本の別の分野を扱った雑誌を読みたいのではと思ったのです。