ケガをした2匹のクシクラゲが1匹に「融合」したとの研究報告、動物がニコイチになるのは初の発見
双頭のヘビやカメ、シカなどがこれまで発見されていますが、これらの2つの頭を持つ動物のほとんどは生まれてくる際の奇形であると考えられています。プラナリアなど、損傷により複数の個体に分裂する生き物がいることはよく知られていますが、逆に2匹の別個体だったクシクラゲが負傷した際に1つに合体し、2つの口や感覚器官を持ちながらも神経レベルで高度に融合した単一の個体になったことが初めて報告されました。
Rapid physiological integration of fused ctenophores - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0960982224010236
After injury, these comb jellies can fuse to | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1059481
Scientists accidentally find deep-sea 'jelly' creatures merged into 'single entity' after injury, revealing bizarre new behavior | Live Science
https://www.livescience.com/animals/scientists-accidentally-find-deep-sea-jelly-creatures-merged-into-single-entity-after-injury-revealing-bizarre-new-behavior
These Freakish Ocean Creatures Can Combine as One When Injured : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/these-freakish-ocean-creatures-can-combine-as-one-when-injured
イギリス・エクセター大学の城倉圭氏らの研究チームは2024年10月7日に、査読付き科学誌のCurrent Biologyで、現存する後生動物の中で最も早く分岐した動物のグループであるクシクラゲの一種が、2匹の個体から1匹へ急速に融合する能力を持つことが判明したと報告しました。
この研究のきっかけは偶然の発見です。研究チームによると、ある日海水タンクにいるクシクラゲの数が1匹減っており、代わりに異様に大きなクシクラゲが1匹いるのが見つかったとのこと。
論文の筆頭著者である城倉氏は「そのクシクラゲを見つけたときはとても興奮したものです。すぐに融合したクシクラゲを部屋から持ち出して、他の研究員に見せました」と振り返りました。
研究者らが異様に大きな個体を観察したところ、そのクシクラゲには後端部が2つあり、頂端器官と呼ばれる感覚器官も2つありました。
「2匹の傷ついた個体が融合したのではないか」と考えた研究チームは、実際に別々の場所から採取した20匹のクシクラゲの一部を切除してからペアにして水槽に入れたところ、10組中9組は一晩で融合しました。
融合したクシクラゲは、つつかれるなどの外部刺激に全身で反応し、神経系がつながっていることを示しました。
Poked!! pic.twitter.com/of4nzjqTAg
— Kei Jokura (@Ctenophore18) October 7, 2024
融合したクシクラゲは、最初の1時間は別々に動いていましたが、すぐに動作が同期し始めて、わずか2時間後には筋肉の収縮の95%が完全に同期していたとのこと。また、蛍光素材で着色したエビを与えたところ、消化器官も融合しており、摂取した餌を両方の胃で消化することもわかりました。
城倉氏は「融合したクシクラゲには口が2つあります。片方に餌を与えると、消化された物質が隣の消化管に運ばれます」と説明しています。
興味深いことに、2つの口から摂取した餌は最終的に両方の肛門から排出されましたが、タイミングは別々だったとのことです。
以下は、融合したクシクラゲの構造を示した図です。紫色の部分が周口管、つまり口の部分でその反対側に肛門があります。
融合したクシクラゲは1匹の個体になったように行動していますが、DNAは別々で、2つになった形態を次世代に継承させることもできないので、生物学的には単一の生き物になったわけではないとのこと。「しかし、融合個体が泳ぐ様子を見ると、本当に単一の生き物として機能しているように見えるので、そのように考えるのも無理はありません」と城倉氏は話しました。
城倉氏によると、他の種で融合が起きたという報告はないとのことで、研究者らはこのような形で融合する能力を持つ生き物の事例としてはこれが最初だと考えています。
野生のクシクラゲも融合できるのかはまだわかっていませんが、研究チームは融合能力を持つことが進化上の武器となることを指摘しています。城倉氏は「融合の利点の一つは、再生に比べて損傷からの回復がはるかに早いことです」と述べました。
融合した個体は、3週間後に予算不足で研究が中止されるまで元気だったとのこと。研究チームは今後、どうしてクシクラゲの神経系がこれほど迅速に融合できるかを解明して、再生医療や移植手術の拒絶反応を軽減する技術などに役立てたいと考えています。
城倉氏は「異個体識別メカニズムは免疫系と関連しており、神経系の融合は再生研究と密接に関係しています。この融合の根底にある分子メカニズムを解明することで、これらの重要な研究分野を前進させることができるでしょう」と述べました。
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