コンテンツにスキップ

「ミステル」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
Stukn (会話 | 投稿記録)
タグ: モバイル編集 モバイルウェブ編集
 
(30人の利用者による、間の41版が非表示)
1行目: 1行目:
{{出典の明記|date=2021年5月}}
<!-- infobox以外を編集する際はboxの下までスクロールしてください。 -->
<!-- infobox以外を編集する際はboxの下までスクロールしてください。 -->
{{ Infobox 航空機
{{ Infobox 航空機
| 名称= ミステル
| 名称= ミステル
| 画像=
| 画像= File:MISTEL 1.jpg
| キャプション=
| キャプション= ミステル1 (Ju88 A-4 + Bf109 F-4、模型)
| 用途= 爆撃機
| 用途= [[爆撃機]]
| 分類=
| 分類=
| 設計者=
| 設計者=
| 製造者=
| 製造者=
| 運用者= [[ナチス・ドイツ]]
| 運用者= {{DEU1935}}([[ドイツ空軍 (国防軍)|ドイツ空軍]]
| 初飛行年月日=
| 初飛行年月日=
| 生産数= 約250機
| 生産数= 約250機
15行目: 16行目:
| 退役年月日= [[1945年]]
| 退役年月日= [[1945年]]
| 運用状況= 退役
| 運用状況= 退役
| ユニットコスト= }}
| ユニットコスト=
}}
'''ミステル'''({{lang-de|Mistel}}、[[ヤドリギ]]の意)とは、[[第二次世界大戦]]中に[[ナチス・ドイツ]]が開発した特殊な[[爆撃]]システムである。有人の小型機と特殊な改造を受けた無人大型機が連結され、目標付近まで飛行した後に、無人機を分離・突入させるという計画だった。


'''ミステル'''(ドイツ語:Mistel、[[ヤドリギ]]の意)とは、[[第二次世界大戦]]中に[[ナチス・ドイツ]]が開発した特殊な[[爆撃]]システムである。有人の小型機と特殊な改造を受けた無人大型機が連結され、目標付近まで飛行したに、無人機を分離・突入させるという計画だった。大戦末期に実戦投入されたが、ドイツ軍の相次ぐ敗退により攻撃の機会に恵まれず、大きな成果をげることはできなかった。
大戦後に実戦投入されたが、[[ドイツ国防|ドイツ軍]]の相次ぐ敗退により攻撃の機会に恵まれず、大きな成果をげることはできなかった。


== 設計 ==
== 設計 ==
[[File:Junkers Ju 88 Mistel.jpg|thumb|250px|left|ミステルの一例 (ミステル3C)<br />[[Ju 88 (航空機)|Ju88 G-10]]と[[フォッケウルフ Fw190|Fw190 F-8]]の組み合わせ]]
ミステルは、目標物に突入する無人機と、その付近まで誘導する有人機とが結合した形態をとっている。それぞれ航空機には既存の機体を流用し、有人機には[[戦闘機]]などの軽快な機体が、無人機には双発[[爆撃機]]などの大型機が選ばれた。組み合わせとしては [[Bf 109]] - [[Ju 88]] や、 [[Fw 190]] - Ju 88 といった一線で活躍するプロペラ機同士の他、[[メッサーシュミットMe262|Me 262]] - [[Ju 287]] 等の新型ジェット機の使用も検討された。
ミステルは、目標物に突入する無人機と、その付近まで誘導する有人機とが結合した形態をとっている。この考案者は、[[ユンカース]]のテストパイロットであったジークフリード・ホルツバウア(Siegfried Holzbaur)であった<ref>{{Cite book|和書|title=万有ガイド・シリーズ 4 航空機 第二次大戦 Ⅰ |publisher= |page =172 |isbn= }}</ref>。


それぞれ航空機には既存の機体を流用し、有人機には[[戦闘機]]などの軽快な機体が、無人機には双発[[爆撃機]]などの大型機が選ばれた。組み合わせとしては [[メッサーシュミット Bf109|Bf 109]] - [[Ju 88 (航空機)|Ju 88]]や、[[フォッケウルフ Fw190|Fw 190]] - Ju 88 といった一線で活躍するレシプロ機同士の他、[[メッサーシュミット Me262|Me 262]] - [[Ju 287 (航空機)|Ju 287]] 等の新型[[ジェット機]]の使用も検討された。
この内作戦で使用されたのは Bf 109Ju 88 の組み合わせで、Ju 88 は1.8トンの弾頭を搭載するように改設計された。[[成形炸薬弾]]を使用した場合厚さ7メートルの装甲板を貫通可能で、特に艦船への攻撃に有効であると考えられた。

この内作戦で使用されたのは Bf109Ju88の組み合わせで、Ju88 は1.8トンの[[弾頭]]を搭載するように改設計された。[[成形炸薬弾]]を使用した場合厚さ7メートルの装甲板を貫通可能で、特に艦船への攻撃に有効であると考えられた。
{{-}}


== 実戦 ==
== 実戦 ==
[[File:Mistel-4s.jpg|thumb|250px|right|練習機型のミステルS3A<br />[[Ju 88 (航空機)|Ju88 A-4]]と[[フォッケウルフ Fw190|Fw190 A-8]]の組み合わせ<br />(いずれも有人機)]]
[[1944年]][[6月6日]]、[[連合国 (第二次世界大戦)|連合軍]]は[[ノルマンディー上陸作戦]]によりヨーロッパ大陸での反攻を開始したが、これを迎え撃ったのがミステルの最初の実戦となった。この作戦で[[操縦士]]は敵艦船への攻撃に成功したと報告したが、連合軍側に損失の記録はなく、[[マルベリー港|マルベリー人工港]]の一部として自沈し廃艦になっていたフランスの旧式戦艦[[クールベ (戦艦)|クールベ]]を活動中の艦船と誤認して攻撃したのではないかと考えられている。ミステルによる攻撃は引き続き行われ、6月21日には至近弾によりイギリスの[[フリゲート]]ニスを損傷させることに成功した。さらに、[[スカパ・フロー]]での作戦も計画されたが、[[制空権]]が確保できない為に中止されている。
1944年6月6日、[[連合国 (第二次世界大戦)|連合軍]]は[[ノルマンディー上陸作戦]]により[[ヨーロッパ大陸]]での本格的な反攻を開始したが、これを迎え撃ったのがミステルの最初の実戦となった。この作戦で[[パイロット (航空)|操縦士]]は敵艦船への攻撃に成功したと報告したが、連合軍側に損失の記録はなく、{{仮リンク|マルベリー港|label=マルベリー人工港|en|Mulberry harbour}}の一部として自沈し廃艦になっていた[[フランス海軍]]の旧式[[戦艦]]「[[クールベ戦艦|クールベ]]を活動中の艦船と誤認して攻撃したのではないかと考えられている。ミステルによる攻撃は引き続き行われ、6月21日には至近弾により[[イギリス海軍]]の[[フリゲート]]ニスを損傷させることに成功した。さらに、[[スカパ・フロー]]での作戦も計画され約60機がデンマークの飛行場に集合し<ref>{{Cite book|和書|title=万有ガイド・シリーズ 4 航空機 第二次大戦 Ⅰ |series= |publisher= |page=173 |year= |isbn= }}</ref>。だが、悪天候と[[制空権]]が確保できない為に中止されている。


ミステルは[[ソ連]]との戦いにも用いられた。当初は[[モスクワ]]や[[ニジニ・ノヴゴロド|ゴーリキー]]の発電施設を攻撃する[[アイゼンハマー作戦]]に用いる予定であったが、戦局の悪化により計画は中止に追いやられ、代わりに、橋梁を破壊してソ連軍の進撃を食い止めることになった。ドイツの敗北が決定的となる中、[[1945年]][[4月12日]]からミステルを使用した攻撃が開始されたが、ソ連側の損害は軽微なもので、足止めの効果はほとんど無かった。
ミステルは[[ソビエト連邦|ソ連]]との戦いにも用いられた。当初は[[モスクワ]]や[[ニジニ・ノヴゴロド|ゴーリキー]]の[[発電所|発電施設]]を攻撃する[[:en:Operation Eisenhammer|鉄槌作戦]]に用いる予定であったが、戦局の悪化により計画は中止に追いやられ、代わりに、[[橋|橋梁]]を破壊してソ連軍の進撃を食い止めることになった。[[ベルリンの戦い|ドイツの敗北]]が決定的となる中、1945年4月12日からミステルを使用した攻撃が開始されたが、ソ連側の損害は軽微なもので、足止めの効果はほとんど無かった。


終戦までに製造されたミステルは、各種合わせて250機程度だった。
終戦までに製造されたミステルは、各種合わせて250機程度だった。

==バリエーション==
いずれの記述も左側が空中発射される無人機(子機)、右側が有人機(親機)。
;ミステル1
:[[Ju 88 (航空機)|ユンカース Ju88 A-4]] / [[メッサーシュミット Bf109|メッサーシュミット Bf109 F-4]]

;ミステルS1
:ミステル1の練習機型で、Ju88 A-4も通常の有人型が使用されている。

;ミステル2
:[[Ju 88 (航空機)|ユンカース Ju88 G-1]] / [[フォッケウルフ Fw190|フォッケウルフ Fw190 A-8/F-8]]

;ミステルS2
:ミステル2の練習機型で、Ju88 G-1も通常の有人型が使用されている。

;ミステル3A
:[[Ju 88 (航空機)|ユンカース Ju88 A-4]] / [[フォッケウルフ Fw190|フォッケウルフ Fw190 A-8]]

;ミステルS3A
:ミステル3Aの練習機型。

;ミステル3B
:[[Ju 88 (航空機)|ユンカース Ju88 H-4]] / [[フォッケウルフ Fw190|フォッケウルフ Fw190 A-8]]

;ミステル3C
:[[Ju 88 (航空機)|ユンカース Ju88 G-10]] / [[フォッケウルフ Fw190|フォッケウルフ Fw190 F-8]]

;ミステル4
:[[Ju 287 (航空機)|ユンカース Ju287]] / [[メッサーシュミット Me262]]

;ミステル5
:[[アラド E.377]] / [[ハインケルHe162|ハインケル He162]]

;その他、ペーパープランのみで呼称不明の組み合わせ
:*[[Ju 88 (航空機)|ユンカース Ju88 G-7]] / [[フォッケウルフ Ta152]]
:*[[フォッケウルフ Ta154]] / [[フォッケウルフ Fw190|フォッケウルフ Fw190 A-8/F-8]]
:*[[アラド E.377]] / [[アラドAr234|アラド Ar234C]]
:*[[V1飛行爆弾]] / [[アラドAr234|アラド Ar234C]]
:*[[メッサーシュミット Me262]] / [[メッサーシュミット Me262]]
:*[[メッサーシュミット Me262]] / [[ハインケルHe162|ハインケル He162]]
<gallery widths="180px" heights="150px">
File:HE 162 mit Bombe pic1.JPG|アラド E.377 + He162 (模型)
File:Messerschmitt Me 262 MISTEL pic2.JPG|Me262 + Me262 (模型)
File:Arado Ar 234 Blitz mit V1 pic1.JPG|V1 + Ar234C (模型)
</gallery>

;その他、有人機同士の組み合わせ
:*[[アラド E.381]] / [[アラドAr234|アラド Ar234C]] - 有人の小型航空機 アラド E.381 を親機のAr234Cから発射するプロジェクト。
:*[[DM1_(航空機)|リピッシュ DM1]] / [[Si 204 (航空機)|ジーベル Si204]] - [[リピッシュ P.13a]]開発用のグライダー実験機DM1を親機のジーベル Si204に搭載したもの。
:*[[DFS 228 (航空機)|DFS 228]] / [[Do 217 (航空機)|ドルニエ Do217]] - DFS 228の実験用グライダー機をDo217に搭載したもの。
:*[[DFS 346]] / [[Do 217 (航空機)|ドルニエ Do217]]
:*[[Me 328 (航空機)|メッサーシュミット Me 328]] / [[Do 217 (航空機)|ドルニエ Do217]] - Me 328の実験用グライダー機をDo217に搭載したもの。
<gallery widths="180px" heights="150px">
File:Arado-234 V21 pic2.JPG|E.381 + Ar234C (模型)
</gallery>

== 脚注 ==
{{reflist}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[誘導爆弾]]
* [[誘導爆弾]]
* [[桜花 (航空機)]] - 有人誘導の[[特攻兵器]]であるが、「航空機から航空機を切り離し突入させる」という概念は類似している。
* [[V1飛行爆弾|V1飛行爆弾(V-1)]] - [[V1飛行爆弾#V1(Fi-103)の派生型|有人型試作機を作成し試験飛行も行われ]]、[[特別攻撃隊#ドイツ軍|桜花と類似した運用計画]]があったが実戦投入は無かった。
* [[ズヴェノー (航空機)|ズヴェノー・プロジェクト]] - 1930年代にソ連で開発された[[パラサイト・ファイター|親子飛行機]]プロジェクト。ズヴェノーSPBは1941年に実戦投入された。

==外部リンク==
{{commonscat|Mistel Project}}
*http://www.luft46.com/
*http://www.fiddlersgreen.net/models/aircraft/Mistel-Bomber.html
*http://www.warbirds.jp/data/do/htm/mistel.htm

{{ドイツ国防軍の航空機}}
{{ドイツ国防軍の航空機}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:みすてる}}
{{DEFAULTSORT:みすてる}}
[[Category:ドイツの航空機]]
[[Category:ドイツ国防軍軍用機]]
[[Category:ナチス・ドイツ]]
[[Category:空中発射式航空機]]
[[Category:ドイツの無人航空機]]

[[cs:Mistel]]
[[de:Mistelschlepp]]
[[en:Mistel]]
[[it:Mistel]]
[[pl:Mistel]]
[[pt:Mistel]]

2024年8月27日 (火) 16:20時点における最新版

ミステル

ミステル1 (Ju88 A-4 + Bf109 F-4、模型)

ミステル1 (Ju88 A-4 + Bf109 F-4、模型)

ミステルドイツ語: Mistelヤドリギの意)とは、第二次世界大戦中にナチス・ドイツが開発した特殊な爆撃システムである。有人の小型機と特殊な改造を受けた無人大型機が連結され、目標付近まで飛行した後に、無人機を分離・突入させるという計画だった。

大戦後半に実戦投入されたが、ドイツ軍の相次ぐ敗退により攻撃の機会に恵まれず、大きな成果を挙げることはできなかった。

設計

[編集]
ミステルの一例 (ミステル3C)
Ju88 G-10Fw190 F-8の組み合わせ

ミステルは、目標物に突入する無人機と、その付近まで誘導する有人機とが結合した形態をとっている。この考案者は、ユンカースのテストパイロットであったジークフリード・ホルツバウア(Siegfried Holzbaur)であった[1]

それぞれ航空機には既存の機体を流用し、有人機には戦闘機などの軽快な機体が、無人機には双発爆撃機などの大型機が選ばれた。組み合わせとしては Bf 109 - Ju 88や、Fw 190 - Ju 88 といった一線で活躍するレシプロ機同士の他、Me 262 - Ju 287 等の新型ジェット機の使用も検討された。

この内作戦で使用されたのは Bf109 と Ju88の組み合わせで、Ju88 は1.8トンの弾頭を搭載するように改設計された。成形炸薬弾を使用した場合厚さ7メートルの装甲板を貫通可能で、特に艦船への攻撃に有効であると考えられた。

実戦

[編集]
練習機型のミステルS3A
Ju88 A-4Fw190 A-8の組み合わせ
(いずれも有人機)

1944年6月6日、連合軍ノルマンディー上陸作戦によりヨーロッパ大陸での本格的な反攻を開始したが、これを迎え撃ったのがミステルの最初の実戦となった。この作戦で操縦士は敵艦船への攻撃に成功したと報告したが、連合軍側に損失の記録はなく、マルベリー人工港英語版の一部として自沈し廃艦になっていたフランス海軍の旧式戦艦クールベ」を活動中の艦船と誤認して攻撃したのではないかと考えられている。ミステルによる攻撃は引き続き行われ、6月21日には至近弾によりイギリス海軍フリゲート「ニス」を損傷させることに成功した。さらに、スカパ・フローでの作戦も計画され約60機がデンマークの飛行場に集合した[2]。だが、悪天候と制空権が確保できない為に中止されている。

ミステルはソ連との戦いにも用いられた。当初はモスクワゴーリキー発電施設を攻撃する鉄槌作戦に用いる予定であったが、戦局の悪化により計画は中止に追いやられ、代わりに、橋梁を破壊してソ連軍の進撃を食い止めることになった。ドイツの敗北が決定的となる中、1945年4月12日からミステルを使用した攻撃が開始されたが、ソ連側の損害は軽微なもので、足止めの効果はほとんど無かった。

終戦までに製造されたミステルは、各種合わせて250機程度だった。

バリエーション

[編集]

いずれの記述も左側が空中発射される無人機(子機)、右側が有人機(親機)。

ミステル1
ユンカース Ju88 A-4 / メッサーシュミット Bf109 F-4
ミステルS1
ミステル1の練習機型で、Ju88 A-4も通常の有人型が使用されている。
ミステル2
ユンカース Ju88 G-1 / フォッケウルフ Fw190 A-8/F-8
ミステルS2
ミステル2の練習機型で、Ju88 G-1も通常の有人型が使用されている。
ミステル3A
ユンカース Ju88 A-4 / フォッケウルフ Fw190 A-8
ミステルS3A
ミステル3Aの練習機型。
ミステル3B
ユンカース Ju88 H-4 / フォッケウルフ Fw190 A-8
ミステル3C
ユンカース Ju88 G-10 / フォッケウルフ Fw190 F-8
ミステル4
ユンカース Ju287 / メッサーシュミット Me262
ミステル5
アラド E.377 / ハインケル He162
その他、ペーパープランのみで呼称不明の組み合わせ
その他、有人機同士の組み合わせ

脚注

[編集]
  1. ^ 『万有ガイド・シリーズ 4 航空機 第二次大戦 Ⅰ』、172頁。 
  2. ^ 『万有ガイド・シリーズ 4 航空機 第二次大戦 Ⅰ』、173頁。 

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]