『エースコンバット7』における「空」と「物語」を演出するためのインタラクティブサウンドデザイン:CEDEC2019

音は脳内で補完しよう

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2019年9月4日~6日まで開催されたCEDEC 2019。今回、ビデオゲームにおけるサウンドやエフェクトに革命を起こした水口哲也氏による基調講演が実施されていたが、その中ではある時代までゲームサウンドは冷遇されてきたという話があった。それを踏まえると現在、このようにしてサウンドのみを話題として扱う講演が成立し、人気を集めていることは、一つのささやかな感動体験といえるだろう。

「『空』と『物語』を演出するためのインタラクティブサウンドデザイン」と題された講演では、『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』の音楽がどのようにしてリアリティとゲーム的な快感を取捨選択したかということを主題として、サウンドディレクターの渡辺量氏とテクニカルサウンドデザイナーの中西哲一氏によってVRモードを中心に解説が行われた。150人ほどで制作したトータルで5時間を超える本作のサウンドトラックは、CD6枚組ほどになるかもしれないというこぼれ話から始まった講演は、お互いのツッコミが入りつつの終始なごやかなムードで行われた。

VRゲームにおいて、音楽は必須の要素ではない。

冒頭で、渡辺氏はVRゲームにおいて、音楽は必須の要素ではないと前置きを述べた。本作の開発初期はリアルな没入感を重視するため、多くのVRゲームと同じように楽曲はつけていなかったそうだ。しかしBGMを抜くとシナリオの演出が弱くなってしまい、エースコンバットではなくフライトシミュレーションゲームに過ぎなくなってしまうため、楽曲の力を借りることになったという。それでも、空襲シーンや離陸シーンではあえて音楽を使わないことで、その場にいる体験や迫り来る危機感を演出した。

とはいえ、ドラマチックな場面にふさわしい音を当てはめても、狙ったところを必ず見てくれるとは限らないのがVR。もちろんプレイヤーが注視するだろう視線を狙って作ってはいるが、そうでない場所を見られている場合も当然ありえる。そのため、細かい破片の衝突に至るまで、画面に生じるはずの全種類の音を仕込んでおく必要がある。「音が鳴るはず」と感じたのに「音が鳴らない」ということはあってはならないため、ディテールをきちんと作ることが重要だ。

また、基本的にコクピットの外部の音は籠もらせているが、正直に籠もらせるだけでなく、ゲームを盛り上げるために必要な音はややブーストさせている。特に近距離のイベントは大きく調整しているとのこと。一方でコクピット内側ではアラート音を生々しく響かせるなど、外側と対比させて作っている。機体同士がすれ違ったときの軋みなども効果的だったため、たくさん仕込んだそうだ。もちろんキャンペーンモードとはミックス自体を変えており、アラートや無線の低音域を増やしている。

ダイエジェティックサウンドとノンダイエジェネティックサウンド

VRモードの音付けでは、特にダイエジェティックサウンドとノンダイエジェネティックサウンドの使い分けを意識したという。ダイエジェティックサウンドとは、そのゲーム内のラジオの音など実際にキャラクターたちが聞くことのできる音を指し、一方でノンダイエジェティックサウンドとはBGMなどのプレイヤーに対してメタ的に再生されるサウンドのことを意味する。

本作でのダイエジェティックサウンドの使用例としては、エアショーモードで空母の放送スピーカーからBGMとなるロックが流すものがある。これはシチュエーション的に違和感がないと判断したからこそできた挑戦だそうだ。対して、ドラマチックな演出として盛り上げたい時のBGMはノンダイエジェティックに再生をしている。


当初はダイエジェティックな演出にこだわるあまり、コクピットのスピーカーからBGMをカーステレオのように流すアイデアもあったというが、採用されていたらかなりシュールな体験となっていただろう。雲の中では、ノンダイエジェティックなBGMをダイエジェネティックに籠もらせることで、閉塞感や雲を抜けたときの開放感を演出した。

没入させることが目的でないメニュー画面などのシステム的なシーンについても、ヘッドホンに直接BGMを出力している。とはいえ、彼らは手を抜くことを知らない。メニュー画面では階層ごとに、縦方向に変化するインタラクティブな音楽を仕込んでいるのだ。シンプルなステート変化によって制作の手間をかけずに、プレイヤーがメニュー画面のどの階層にいるかが直感的にわかる仕組みを構築している。

本動画は講演に用いられたものではなく、筆者が独自に収録したものだ。

一方で、キャンペーンモードではプレイ時間に左右されず、重要な場面で最高のテーマフレーズが流れるように、水平展開のインタラクティブな変化が行われている。BGMにたくさんの移行タイミングを仕込むことで、どんなタイミングでも楽曲のサビにジャンプできるように調整を行った。

開発中、この演出方法を知って味を占めた企画サイドはいろいろなシーンで利用したがったようだが、非常に手間のかかる作業であるため使用する場面は選んでほしかったという話があり、会場は笑いに包まれた。演奏家の方にもひたすらループ等を収録させたりと、奇妙な体験を強いることになったそうだ。

効果音についても本作では様々な調整が施されている。例えば機体同士のすれ違い音については、一番良い音の瞬間がプレイヤーのそばでなるように予測して流しているとのこと。相対速度、衝突物の違いなど様々な状況に対して多くのパターンの中から効果音選んでいるので、違和感はかなり小さいそうだ。この仕組みは『エースコンバット3』から中西氏が導入したそうだが、先日特許が切れたので、各社自由に使ってほしいと付け加えた。

ほとんどはエンジン音に消えてしまったものの、環境音にもこだわりにこだわったという。10種類ほどの音を挙動によって変化させて流しているため、操作感にも影響を与えているのではないかと自信を持っていた。実際のところ言われてみるまであまり意識をしていなかったが、高度によって変化する風音は直感的な情報として役立っていたように思う。

爆発音の距離による遅延についても触れた。音の伝播速度は当初、物理法則通りの340m/sとしていたが、混戦の中での撃墜の爽快感が全く得られなかったため、爽快感を得ることができつつも空間の広さが感じられる1.5秒ほどの遅延に調整した。講演では実際にテストの動画が流されたが、340m/sの仕様だと眠ってしまいそうになるほどの反応速度だった。

プレイヤーが望む「それっぽい音」を目指した

ドップラーサウンドについても、現実とは異なるがプレイヤーが望む「それっぽい音」を目指したという。そもそも相対速度がマッハ6に達する世界では、実際にはドップラー効果などは生まれないため、ゲーム体験として想像ができる2オクターブ程度に抑えたそうだ。

本作は敵機の真後ろでロックオンすることが上手いプレイ。良い位置にいるときは敵機の燃焼音を目立たせるなどの工夫も行った。

また、会話の音声が無線だからこそ、近距離で爆発が起きているときなどはあえて無線の音声を上げることで聞き取りやすくした。これは常に有効な手段ではなく、本作の掛け合いが無線を使用しておらず、直接しゃべるものだったとしたら違和感が生まれてしまっていただろう。

「音楽は必須の要素ではない」という発言から始まった本講演だが、最後まで聞いて、これほどまでに様々な工夫を施し、その音の効力に自信があるからこそ言えるセリフなのだと実感させられた。過去、音楽はゲームの添え物として冷遇されていた時代があったかもしれないが、今ではゲームデザインを支えるための一つの柱として、重要な役目を担っているのだ。

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