コラム:EU、共同債利回り上昇で問われる統合への本気度

コラム:EU、共同債利回り上昇で問われる統合への本気度
5月9日、欧州連合(EU)共同債は懐疑的な見方から信認が悪化し、金利も上昇している。ブリュッセルのEC本部で3月撮影(2023年 ロイター/Johanna Geron)
Rebecca Christie
[ブリュッセル 9日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州連合(EU)共同債は懐疑的な見方から信認が悪化し、金利も上昇している。債券利回りはEU加盟27カ国全体で上がっているが、共同債の利回りは今ではフランス国債を上回っている。共同債の利回りをフランス国債と同等程度にするために、EUは投資家の認識を変え、ある程度は歳入増加の確約を実行に移す必要がある。
当初の予想に比べてEUの借入コストは数百億ユーロ増えそうだ。EUの資金調達コストは2021年には0.14%だったが、22年後半には2.6%に上昇し、さらに上がると予想されている。共同債は4月末時点の発行残高が3810億ユーロだが、今後も増える見通しで、コストは一段とかさむ。
これは全般的な金利上昇という避けがたい動きが一因になっている。しかしたとえそうだとしても、9日時点で共同債は2年物の利回りが3.02%と同年限のフランス国債(2.79%)、スペイン国債(2.94%)を上回っている。5年債の利回りも共同債は2.87%でフランス国債の2.63%より高い。共同債の格付けはフィッチとムーディーズが「AAA」、S&Pが「AAプラス」。一方フランス国債はムーディーズが「Aa2」、フィッチが「AAマイナス」、S&Pが「AA」で、いずれも共同債より低い。それでもEUの利回りの方が高いのは金融市場がEUを1つの独立した国家とはみなしていないためだ。
共同債は国債ではなく超国家的機関の債券として取引され、国債のインデックスやポートフォリオから除外されている。もしこの分類に入れば、資産運用会社はフランス国債を手放して共同債を買い、ほぼ同じ格付けのソブリン債で割り増しされた利回りを手にする可能性が高まる。今のところ、こうしたことが起きることはなさそうだ。
そのためEUの欧州委員会は苦しい立場に立たされている。共同債に国債としての扱いを求める実際的な取り組みは、欧州中央銀行(ECB)の後押しを受けているにもかかわらず、実を結んでいない。ECBは昨年、共同債を金融政策上で最上位の担保と位置づけた。バーデン・ビュルテンベルク州立銀行(LBBW)のチーフエコノミスト、モリッツ・クリーマー氏のような市場関係者は、ユーロ圏は団結に向けた政治的意思をはっきりと示していないと指摘する。懐疑派は、コロナ復興のための借り入れ計画が本質的にその場しのぎである点や、2010─15年の欧州債務危機の際に共通通貨制度が破綻しかけたことを重視している。
そのため管理の行き届いた債券が潤沢に出回っているにもかかわらず、市場参加者は共同債について将来的な流動性の不足を織り込むという事態になっている。米国債や日本国債など他の準備通貨建ての安全資産にはこうした供給減は予想されていない。加えて、EUはデジタル税や炭素税など、まだ実現していない新たな収入源で元利を支払うと約束し、自ら苦境を招いた。
これはまずいことだ。財政面でみると、EUの予算は既存の手段によって債務コストの上昇を管理できる見込み。しかし政治指導者が共同債に安心感を抱き、ユーロを準備通貨として発展させるために、欧州委は約束した新たな収入を実現するように加盟国を説得しなければならない。そうでなければ、共同債は未完成の「銀行同盟」と同じような末路をたどり、ユーロ圏諸国は統合に対して本気ではないとまた思わせることになるだろう。
●背景となるニュース
*EUの借入コストは2021年には0.14%だったが、22年後半には2.6%へと大幅に上昇した。EUは昨年までは保有するファンドで十分な金利収入を確保し、債券の運用収益が調達コストを上回り、借入金利の上昇を穴埋めしていた。しかし23年は運用収益が調達コストを下回り、新たな管理コストが生まれると予想されている。
*EUは2020年に新型コロナウイルス危機を受けた復興計画「ネクスト・ジェネレーションEU」や関連する失業対策の資金を確保するために市場で約9000億ユーロを借り入れると発表し、債券市場で主要なプレーヤーとなった。
*ネクスト・ジェネレーションEUのためのネットベースでの新規借り入れは2026年に終わる予定。しかしEUは以降も既存ポートフォリオを運用し、市場で大きな存在感を保ち続ける。ウクライナ支援などのための借り入れも継続する。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab