〔BOJウオッチャー〕景気指標悪化でも黒田日銀の強気続く、物価・賃金上昇に手応え
[東京 25日 ロイター] - 日銀が物価見通しに自信を深めている。弱めの景気指標が相次いでいるものの、足元の物価・賃金が想定通りに上昇しているためだ。黒田東彦総裁は米ジャクソンホールでの記者団とのやりとりで強気の景気認識を示したばかり。現時点ではよほどの急激な経済・金融環境の激変がなければ、現状の量的・質的緩和(QQE)を継続する構えのようにも見える。
4月の消費増税による駆け込み・反動の影響や、輸出の低迷、実質賃金の目減りや天候不順による消費の回復遅れを背景に、市場では10月にも日銀が経済・物価見通しを引き下げ、追加の金融緩和に踏み切るとの期待が再び高まり出している。
だが、日銀の見方にはそうした観測と相当のギャップがある。現時点で日銀は、消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)の上昇率は当面1%台前半で推移し、プラス幅が1.2%未満に縮む公算は小さいとみている。再びプラス幅が拡大するかどうかが大きな分岐点になるが、日銀内では2%の物価目標達成の是非を判断する正念場は、今年末以降との声が多い。
中でも黒田総裁は、景気動向に対して強気のメッセージを発信している。米ワイオミング州のジャクソンホールで開かられたシンポジウムに参加した黒田総裁は22日、記者団に対し、4─6月期の国内総生産(GDP)は落ち込んだものの、消費税の反動は多少和らいでおり、雇用や名目賃金、企業の設備投資は底堅いと指摘。「輸出はやや弱いが、内需は基調としてしっかりしている」とし、経済見通しを変える必要はないと語った。
さらに世界経済の見通しが良好なことを踏まえ、日本の輸出も段階的に持ち直すとの考えも示した。
今月8日の金融政策決定会合後の会見では「日銀の政策の一番大きな目標は物価の安定」と繰り返した。
株価についても「中長期的には企業収益の動向で左右される。株価が直接的に物価上昇期待に影響を与えるということはあまり考えられない」と指摘。物価が想定通り上昇しているのであれば、成長率の下振れや、株価の下落では追加緩和を検討しないとの姿勢を明確にしている。
日銀内でも6月の鉱工業生産で明らかになった自動車在庫の急増や、輸出の回復遅れ、実質賃金の目減りによる消費回復の遅れを踏まえ、需要回復が想定を下回り、中期的な物価上昇圧力が弱まる可能性を懸念する声はある。
政府関係者の間では、7─8月の天候不順による消費回復の低迷をめぐり、年末の消費増税判断を左右する可能性があると懸念され始めている。
ただ、日銀としては7─9月の成長率が仮に下振れ、物価上昇シナリオを修正せざるを得なくなるケースがあったとしても、判断は今年末以降になると現時点では認識しているもようだ。
一方、6月の毎月勤労統計調査確報値で、基本給にあたる所定内給与が2年3カ月ぶりに本格的な増加に転じた。こうした点を踏まえ、足元の景気について強めにみている向きもある。
仮に輸出の回復がさらに後ずれしても、人手不足を中心とした需給の引き締まりは今後も続くと日銀は想定しているとみられる。
また、景気回復の道のりに関し、いくつかのシナリオが想定される中で、どの経路をたどったとしても、需給ギャップの改善を中心に物価には上昇圧力が継続するとの見方もある。
日銀内では物価に関し、需給の引き締まりを重視する見方が多く、当面は政府や市場よりも強めの景気判断を示し続ける可能性がありそうだ。
竹本能文、伊藤純夫 編集:田巻一彦
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