焦点:打倒アマゾン、ウォルマートが挑むラストマイル配送の壁
[1/4] 7月30日、ウォルマートの経営幹部は昨年、1万4000人に上る株主の面前で、アマゾン・ドット・コムなどインターネット小売サービスに顧客を奪われないための思い切った計画を披露した。写真はカリフォルニアの同社店舗。2017年撮影(2018年 ロイター/Mike Blake)
Nandita Bose
[イーストブランズウィック(ニュージャージー州) 30日 ロイター] - ウォルマートの経営幹部は昨年、1万4000人に上る株主の面前で、アマゾン・ドット・コムなどインターネット小売サービスに顧客を奪われないための思い切った計画を披露した。
それは直営店舗スタッフが、店頭での最長9時間に及ぶ通常のシフト勤務を終えた後、インターネットで注文された商品を直接、購入客の家まで配達するというものだ。
自身の店舗が抱える膨大な従業員を活用することで、配達コストを下げようとするこの計画は、米国で115億ドル(約1.3兆円)規模にある同社ネット小売事業を拡大させるための多角的な戦略の一環だ。
それはまたネット小売における大きな課題、配送拠点から玄関先までの「ラストワンマイル(最後の1マイル)」配送に対応するためのものだった。
ウォルマートの従業員にとっては、最低11ドルと定められている時給に加え、追加的な収入を得ることができる。
「世界中のアソシエイトが、注文を受けた商品を帰宅途中で顧客に配達する、と思っていただければいい」と同社ネット小売事業を統括するマーク・ロア氏は、昨年6月の株主総会で胸を張った。「これはまさしく勝負をひっくり返す可能性がある」
だがこの試みはあえなく頓挫した。
その数カ月後、ウォルマートは2つの州で開始していた当初実験プログラムから静かに退却、1月にはこれを完全に中止していたことが、ロイターが入手した資料や20人を超える従業員への取材で判明した。
「従業員による宅配」という取り組みに失敗した背景には、玄関先に安く早く荷物を届ける熾烈な競争において、アマゾンに追いつくための画期的な方法を探っているウォルマートの苦闘を垣間見ることができる。
同社のデータによれば、実店舗の買い物客がオンラインサービスも使い始めた場合、実店舗またはネット店舗のどちらかを利用する顧客よりも2倍近く利用額が多いという。
ウォルマートはニュージャージー州で「乗用車に積めるものならどんな商品でも店舗従業員が配達できる」という発想の下で、実験プログラムを開始。しかし、退社後の時間を使わなければならないことに懐疑的な従業員の反発を買い、この試みは頓挫した。この実験に参加した従業員16人に対するロイター取材で明らかになった。
同社は現在、ジョージア州ウッドストックの1店舗のみで従業員4人が配達するという、当初と比べかなり控えめなサービスを試行している。今回は、従業員向けのガイドラインも全面的に見直し、宅配対象商品も食料品や紙皿などの関連商品に限定した。
同社の広報担当者モリー・ブレイクマン氏は、今年初めに最初の実験プログラムを終了したことを認めたが、詳細については語らなかった。商品宅配のさまざまな方法を同社はテストしていると語り、「(ジョージア州店舗での)結果に勇気づけられている」と述べた。
米国住民の9割は、ウォルマートが国内展開する4700店舗から10マイル(16キロ)圏内に居住しているが、それでも同社は効率的な宅配方法を見出すため、ここ数年で数十億ドルをネット小売事業に投じている。
直近では、昨年のクリスマス商戦の際、ウォルマートのネット売り上げは一部の投資家を落胆させた。
ネット注文の商品については、近隣のウォルマート店舗で顧客が受け取ることができる。また、日常的な宅配については、フェデックスや米国郵政公社(USPS)などの物流業者と提携している。
ウォルマートは、今年末までに米国世帯の40%以上に食料品を配達可能にするという目標を掲げている。
グローバルでは、メキシコでバイク宅配を試行しており、中国では新たな小型スーパーによる30分以内での配達を試している。日本でも注文対応の支援に新たな倉庫を開設して、ネット販売する商品を食材セットにまで拡大している。
今年初め、ウォルマートが宅配事業におけるウーバー及びリフトとの提携を解消した、とロイターが報じた。両社にとって人と荷物を一緒に運ぶことが難しかったためだ。
ウォルマートの食料品配達は引き続きポストメイツやデリブ、ドアダッシュなどの企業が引き継ぎ、先週にはアルファベット傘下ウェイモとの提携を発表している。
<懐疑的なドライバー>
中産階級向けの緑豊かな郊外住宅地、ニュージャージー州イーストブランズウィックで行われたウォルマートの「アソシエイト宅配」実験プログラムは、まず店長が従業員に対して一風変わった昇給手法を売り込むことから始まった。それは経歴審査をパスした従業員は、ウォルマート・ドットコムの宅配ドライバーを副業にできる、というものだ。
一部の従業員は、会社を利するための制度にもかかわらず、自分の車と自動車保険を使わなければならないと聞いてしり込みした、とロイターに匿名で語った。
従業員の参加を募るため、会社側は無料でテレビやアップルの「iPad(アイパッド)」を提供。最終的に150人以上のアソシエイトのうち約50人が参加したが、多くが配達員の経験はなかったという。
ウォルマートはこれについてコメントを拒否している。
ロイターが取材した同社従業員16人のうち14人は、報酬が悪かったためにこのプログラムから離脱したと語った。また16人全員が、事故や商品紛失時の責任の所在について、懸念を口にした。
イーストブランズウィックの店舗では、荷物1個当たり2ドルをアソシエイトに払っていた。半径10マイル以内の通常配達ルートに、3─5件の配達先があったという。また、走行距離1マイル当たり54セントのガソリン費補助があり、これは昨年の全国基準の53.5セントを超えていた。また時間外勤務手当も追加されたという。
しかし、同プログラムに参加した従業員によれば、シフトが終ったあとも、配達商品が集まるのを店舗で待つため、通常少なくとも30分は無駄にしたが、その時間に対する補償はなかったという。
週40時間の労働を終えた後、商品配達に1時間以上かかった場合でも、ウォルマートは1時間を超える時間外手当を出さなかったという。ウォルマートはこの主張に対して、40時間を超えた分については従業員に時間外手当を払ったと反論している。
プログラムに参加した16人全員が、5個の荷物を配達するために、通常2時間以上はかかったと言う。この配達に10マイル運転した場合、荷物当たりの報酬とガソリン代の補助を合わせて、時間外手当以外に15ドル40セント稼ぐことになる。
競合するアマゾンではどうだろうか。一般人に宅配を委託する「アマゾン・フレックス」のウェブサイトによれば、同社は外部委託ドライバーに配達1時間あたり18─25ドルの報酬を払っており、燃料費はドライバーの自己負担だ。アマゾンはコメントしなかった。
ウォルマートのある従業員は、通常の給与より100ドル多く稼げたのは1回だけで、週末に10口以上の配達をこなしたときだったと言う。「労力に見合う報酬ではなかった。最終的には、距離換算での燃料費補助も出なくなってしまった」とこの従業員は匿名で語った。
取材した16人のウォルマート従業員のうち12人は、プログラムが中止される直前の配達については、ガソリン代補助の支払いがなかったと話す。ウォルマートは、コメントしなかった。
事故や荷物紛失のリスクや賠償責任そして保険について、ウォルマートがその責任を負うのかどうかが明確ではなかったという。
現在、ウォルマート内部で「アソシエイト宅配2.0」と呼ばれる試みが、ジョージア州ウッドストックで配送ドライバーとして雇用された4人の従業員によって進められている。
買い物需要を喚起するため、50ドル以上の購入であれば初回配達料金は無料。ウォルマートのスマートフォン用アプリによれば、その後の注文については、最低30ドルの購入に対して7.99─9.95ドルの料金で宅配サービスが提供される。
現在、男性3人、女性1人で構成される「アソシエイト宅配2.0」の業務は個別に行われており、自分の車に商品を積んで、10マイル以内の購入客に配達している。
このうちの1人、モーリス・トーマスさんは、ウォルマートの新たな試みの典型例だ。配送ドライバーと店員の二役をこなすトーマス氏の役割は、この試みを復活させるために新たに創り出されたものだ。
トーマスさんは3年前、荷降ろし係として採用された。現在は自分自身の車を使って、ガソリン代や保険も自己負担で、毎日6─7個の荷物を購入者の家に配達している。
「スケジュールが決まっており、トラックからの荷降ろし業務よりもはるかにいい」と28歳のトーマスさんは言う。
トーマスさんによれば、ウォルマートから時給12ドル50セントに加え、1マイルあたり54.5セントの燃料費補助を受けているという。2018年の燃料費補助の全国基準と同じ額だ。彼が配達のため1時間以内に10マイル運転するならば、1時間あたりの稼ぎは18ドル30セントになる。
トーマスさんによれば、燃料費の支払い後で、2週間ごとに約130─140ドルが手元に残るのが普通だという。
ウォルマートは、ジョージア州でのプログラムに参加している従業員に対し、自分の自動車保険を使わなければならない、と採用時に伝えている。ただし、従業員の個人保険でカバーできない費用が生じた場合には会社が負担する、と広報担当のブレイクマン氏は語った。
ロイターが閲覧した社内文書によれば、ウォルマートでは配送担当者について特別に新たな業務規定を定めている。そのガイドラインには、「注文を混同しない」や、配達する商品のなかに残す「『サンキュー』カードを確実に準備しておく」といった項目がある。
「アソシエイトを活用する最善の方法を試し、学んでいるところだ」同社広報担当のグレッグ・ヒット氏は話す。「試行プログラムを実施するだけの理由はある」
(翻訳:エァクレーレン)
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」