物価上昇で実質金利低下、「現金が王様」から変化の可能性

物価上昇で実質金利低下、「現金が王様」から変化の可能性
10月25日、物価上昇の動きが顕在化し、実質金利の低下による株価押し上げ効果が期待されている。写真は昨年11月に都内で撮影(2013年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[東京 25日 ロイター] - コアコアCPI(消費者物価指数)がマイナス圏を脱するなど、物価上昇の動きが顕在化し、実質金利の低下による株価押し上げ効果が期待されている。
実需が乏しいため設備投資促進などの効果は薄いとの見方もあるが、「キャッシュ・イズ・キング」の環境に変化が生じれば、国内の投資行動が大きく変わる可能性がある。東京市場では再び株安・円高が進んだが、短期筋の売りが主体とみられており、リスク回避ムードはそれほど高まっていない。
<消費や投資の動き出しに期待>
実質金利は名目金利からインフレ率を引いた金利だ。物価変動の影響を除いた金利であり、長期的な投資行動を左右する。デフレ下では名目金利より実質金利が高くなるため、投資を控える動きが強まりやすい。
一方、インフレになれば、名目金利より実質金利が低くなるため、株式などリスク資産で保有資金を運用するインセンティブが大きくなる。
どの物価上昇率と名目金利を採用するかよって数値がかなり異なるため、実質金利の絶対的な水準は測りにくい。ただ、9月のコアコアCPIがゼロまで浮上するなど、足元のインフレ率が徐々に上昇している一方で、24日に10年長期国債利回り(長期金利)が0.6%を割り込むなど名目金利は低下。足元の実質金利は低下傾向にあるとみられている。
実質金利が低下もしくはマイナスになれば、現金を持っていれば有利だった『キャッシュ・イズ・キング』の環境に変化が生じる。「デフレ下では先延ばしが有利だった消費や投資について、家計や企業が始めるということが期待される」(T&Dアセットマネジメントのチーフエコノミスト、神谷尚志氏)という。
一方、「国内に需要が乏しく、投資しても低いリターンしか期待できないなかでは設備投資を促すのは難しい」(シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏)との指摘もあり、実体経済への効果は見方が分かれる。
少子高齢化や日本企業の国際競争力低下など日本が抱える問題を、実質金利低下が直接解決してくれるわけではない。
<貯蓄から投資への切り札に>
実体経済面よりも、効果が期待されるのは、マーケットに対してだ。実質金利の低下は、株や不動産などリスク資産への投資を促す。「個人金融資産の1500兆円のうち、わずかでも動けば、そのインパクトは大きい。実質金利の低下は貯蓄から投資に流れが変わる切り札になるかもしれない」と、ある国内銀行の市場担当役員は期待を寄せる。
大和証券・シニアクオンツアナリストの鈴木政博氏によると、実質金利が低下する局面は、1995年8月から96年10月、98年10月から00年5月、03年3月から04年4月まで3回あった。「IT相場のときもそうだったが、実質金利が低下する金融相場のときは、成長期待の大きい銘柄の魅力がさらに高まるという相場になりやすい」と指摘する。同局面では高PBR株や、高ROE株がアウトパフォームする傾向があるという。
一方、実質金利がゼロかマイナス領域に入れば、国債の魅力も低下するが、現時点では、銀行など国内機関投資家の国債偏重姿勢に変化は出ていない。「バズーカ緩和時の10年債0.4%水準では、国債を保有しているだけで得られるロールダウン効果もほとんどないため投げが出たが、現在の0.6%水準であれば何とか大丈夫」(外資系投信)という。
日本の実質金利が低下する一方で、米国の実質金利が変わらなければ、日米実質金利差は拡大し、ドル高・円安要因になる。ただ、米国でも10年米国債利回り(長期金利)が一時、2.5%を切るなど、実質金利は低下傾向にあり、日米差は縮小しつつある。
JPモルガン・チェース銀行・債券為替調査部長、佐々木融氏は、現在はドル/円と日米実質金利差の相関関係は崩れていると指摘する。「今はドル自体が弱い。米2年債利回りの低下で全体的にドル安傾向が続いている。また、株価が不安定でリスクオフの円ショート巻き戻しが出ている」とし、ドル/円の上値はしばらく重いとの見方を示している。

伊賀 大記 編集:田巻 一彦

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