焦点:24年ぶり円安、金利差拡大が主導 投資家の為替ヘッジ外しも要因か
坂口茉莉子
[東京 1日 ロイター] - 1日の東京外為市場でドルが一時139円69銭まで上昇、約24年ぶりの高値を付けた。欧米との金利差拡大が原動力だが、国内投資家の為替ヘッジ外しも一因との指摘も出ている。貿易赤字などファンダメンタルズの円安要因も続いており、一段の円安進行を予想する声も多くなっている。
<欧米との金利差拡大>
足元のドル/円は日米2年債金利差との連動性が高い。米国の10年債利回りは3.2%台と、6月14日に付けた3.498%には届いていないが、2年債利回りは一時3.5%台と15年ぶりの高水準となっており、日米金利差も拡大中だ。
中央銀行の政策見通しを敏感に反映しやすい中期債利回りを一段と上昇させたのが、8月26日の米カンザスシティー連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会合)でのパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演だ。
議長は、成長鈍化などの「痛み」を伴ったとしても、インフレが抑制されるまで「当面」金融引き締めが必要という見解を示し、来年の利下げへの思惑を強くけん制した。
ステート・ストリート銀行の東京支店・共同支店長、若林徳広氏は「インフレ抑制を最優先課題に掲げ、ハト派の米当局者がタカ派へと変わっていくという見方が強まる一方で、日銀は金融緩和維持の姿勢を示しており、日米の金利差拡大が長く続くと市場は確信した」とみる。
8日の欧州中央銀行(ECB)理事会でも0.75%の大幅利上げ観測が強まっている。8月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)速報値は過去最高を更新。ECB当局者からタカ派発言が相次ぐ中、ユーロ買い/円売りが急速に進んだことも、ドル/円を押し上げている。
<オープン外債に振り向け>
市場では「年金勢が外債投資の為替ヘッジを外し、オープン外債へと振り向ける動きが出ている」(外銀)との声が聞かれる。日米金利差の拡大に伴う為替ヘッジコストの上昇でヘッジ付き外債の総利回りが低下しているためだ。
大和証券のシニア為替ストラテジスト 多田出健太氏によると、足元のヘッジコストは3.3%程度で、ヘッジ付き米10年債利回りはマイナス0.1%と、マイナスに転じているほか、ヘッジ付き米30年債利回りはゼロになっているという。
為替ヘッジ付き外債は為替変動リスクを抑えられるが、為替ヘッジコストが高すぎると十分な利益が得られなくなる。為替ヘッジを付けないオープン外債は、為替リスクはあるものの、円安が進めば為替差益も得ることができる。
外債投資で為替ヘッジを付ける際には、外貨売り・円買いを行うため、外債購入のための外貨買い・円売りは相殺され、為替相場への影響は中立になる。しかし、オープン外債に投資する場合は、外債購入のための外貨買い・円売りだけが出るため、円安要因になる。
ニッセイ基礎研究所の金融研究部金融調査室長、福本勇樹氏は、国内投資家の米債買いは、長期的には米金利の低下につながり、円安の歯止めになるとみるが、短期的には「スポット取引を中心に円安要因となる」と指摘する。
<ファンダメンタルズの円安要因も継続>
日本の貿易収支も赤字が継続中だ。7月まで12カ月連続の赤字で、7月は1兆4368億円と比較可能な1979年以降で最大の赤字幅となった。足元で原油価格はピークアウトしているものの、LNG(液化天然ガス)などは依然として高く、日本の貿易赤字は継続するとの予想が多い。
ドルが140円を上抜けると1998年8月31日以来。同月には147円台の高値をつけており、そこまでは「真空地帯」とも言える。
SBI証券の外国為替室部長、上田眞理人氏は、相対的に米国経済が底堅いことや欧米と日本の金利差の観点から円安圧力が強まりやすいとした上で、ドルが140円を突破すれば「143円が視野に入ってくる」とみる。
一方、22日には日銀金融政策決定会合が開催される。現行の金融緩和政策が維持されるとの予想が大勢だが、国内でも物価上昇が続く中、「出口戦略に向けた議論が開始されるのではないかという市場の期待が強まりやすい」(国内証券)とされ、円高要因になる可能性も指摘されている。
(坂口茉莉子 編集:伊賀大記)
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