コラム:企業分割理論で考えるスコットランド独立問題
Rob Cox
[ニューヨーク 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 規模拡大によって非効率化した企業を分割するのは良いことであるというのが、ウォール街の通念だ。分割によって企業運営はより容易になり、透明性が高まって、多くの関係者にとって事業価値は増す。
スコットランドの独立を賭けた歴史的住民投票を前に、同じ論理が国にも当てはまるかどうかを考えてみる価値はある。
スコットランドでは18日、英国からの独立の是非を問う住民投票が実施される。スペインのカタルーニャ地方でも11月に同様の投票が計画されているが、こちらは法的拘束力を持たない。いずれの投票でも独立賛成派が勝利するようなら、他の欧州諸国もいずれ、より小さな政治単位へと分裂して行く可能性がある。
少なくとも先進国世界において、手本となるような前例は乏しい。しかしコーポレートファイナンスの歴史を見ると、いくらか有用な洞察が得られるかもしれない。無論、世界のどこであれ、ウォール街の論理に自らの将来を託せと有権者に奨励するような政治家がいるとは想像し難い。しかし分割の背後にある哲学的根拠には、企業と国とで多くの類似性が存在する。
企業の世界においては、分割は何はさておき株主を利するという前提が論理の出発点となる。利点とは例えば、経営陣が最適の事項に集中できるようになったり、顧客や市場のニーズに対する組織の対応能力が向上するといったことだ。こうした利点は、企業が往々にして期待する規模のメリットをしのぐ可能性がある。
米巨大石油会社コノコフィリップスは製油部門と開発・生産部門に2分割した後、より多様な事業を抱えるライバル企業に比べて株価が堅調に推移した。米フォーチュン・ブランズは複合企業から3つの事業会社に分割し、株価が急騰した。
トムソン・ロイターのデータによると、こうした企業分割は過去5年間だけで1000件近くに上る。スピンオフ後の企業の多くは、より大きなライバル企業による買収の標的になってしまった。しかしこれらの企業は全般的に、比較優位な分野に集中し、株主に対する経営陣の説明責任を高め、経営陣により有効な成功インセンティブを与えることにより、自社の価値を証明している。
現在、米最高裁判所から見れば企業は人に相当するかもしれないが、断じて国ではない。国は企業と異なる義務を負っており、構成員の定義はもっと広い。しかし運営の手法となると、類似点がある。
米大統領選に出馬した米ベイン・キャピタルのミット・ロムニー氏から、カリフォルニア州知事選に出馬したヒューレット・パッカード(HP)のメグ・ホイットマン最高経営責任者(CEO)に至るまで、政界に打って出ようとした共和党員の企業リーダーらの宣伝文句が正にこれだった。
企業の本部であれ中央政府であれ、官僚主義という道具に浸ると、いつの間にか奉仕の相手である国民あるいは顧客との距離が隔たってしまう傾向がある。企業の文脈で考えるなら、「物言う株主」はわがままな経営者に規律を課すことによって、革命家の役割を果たし得る。パーシング・スクエアのビル・アックマン氏がフォーチュン・ブランズの株主に加わり、平和裏に企業分割をもたらしたのを思い起こそう。
政府には株主ではなく有権者と納税者がいる。これらステークホルダーが政府機関のサービスにどの程度愛想を尽かすかが、分割、あるいは独立を支持する度合いを左右するだろう。スコットランドとカタルーニャの独立にはこの他にも長きにわたる歴史的・文化的背景があり、これは経済上の理由をしのいでいるのかもしれない。
しかしスコットランドとカタルーニャが独立を遂げ、繁栄する独立国家を築けることを証明して見せたなら、他の先進国でも分離の皮算用をする機運が高まるだろう。いずれにせよ米国の分離主義者らはそう見ている。彼らの中の一群は数年前に「モントピリア宣言」を発表。この文書にはワシントンの中央政府に対する不平と、彼らの自決権が盛り込まれている。
バーモント州の州都モントピリアの名を取ったこの宣言は、連邦政府は「大き過ぎ、中央集権的に過ぎ、非民主的に過ぎ、不公正に過ぎ、権限が大き過ぎ、介入し過ぎ、個々の市民の要求への対応が鈍過ぎる」と主張する。物言う株主、ダン・ローブ氏の書簡を読んでいるようではないか。
宣言に署名したカークパトリック・セール氏は、国家を企業になぞらえるのは適切だと言う。いずれも究極の目標はより良く運営され、説明責任を果たせる組織の構築にあるからだ。彼によれば、理想の国家は人口約500万人、つまりスコットランドほどで、面積は彼の住むサウスカロライナ州程度だという。
分離主義を掲げるシンクタンク、ミドルベリー・インスティチュートを経営するセール氏は「国家であれ企業であれ、規模は小さい方が迅速な変化が可能になる。人口3億1500万人の国家(米国)が、必要な変化にいかにお粗末な対応をしているかに目を向けるだけで一目瞭然だ」と語った。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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