3 婚約指輪を捨てよう
前世の記憶を思い出し、王城で気絶した私。
すぐに家に帰ったわけだが、一日が過ぎ考えたことがある。
悪役令嬢に転生したとはいえ、まだ死ぬとは確定したわけではない、と。
こうして、私には前世の記憶があるわけだし、乙女ゲームのシナリオもちゃんと覚えてる。
それに悪役令嬢系の小説にあった、悪役令嬢の主人公がバッドエンドを回避するってやつ。
それをすればいいじゃない?
まぁ、私はあの王子と婚約をしてしまったわけだけど。
でもゲーム通りにならないように動くことはできるでしょ?
うまくいけば、ゲームが開始する学園入学までには婚約破棄ができるんじゃない?
私は拳を作り、ぎゅっと握る。
うん。
きっと、追放も死も回避できる。
だって、私はどうなるかシナリオを知っているもの。
昨日の絶望感から一転、ルンルン気分の私はベッドから起き上がり、窓を開ける。
ああ、なんていい天気。
まるで私の転生を祝福してくれているかのように太陽は輝いていた。
前世は最悪の終わり方だったけれど、今回の人生はそうじゃない!
すると、部屋の扉が勢いよく開いた。
入ってきたのは侍女のイザベラ。
彼女はいつになく焦った顔を浮かべていた。
「おはよう、イザベラ。そんなに急いでどうしたの?」
「お嬢様、おはようございます…………と言ってももうお昼に近いのですが。まぁ、それはどうでもよくて、大変です。お嬢様」
「何が大変なの?」
「第2王子のライアン殿下がいらっしゃいました」
「へぇ………そうなの」
と返事をして、外を眺める。
今日は本当にいい天気なのだから、散歩でもしようかな。
「お嬢様! 『へぇ…………そうなの』ではございません! 殿下がいらっしゃっているんですよ! さぁ、早くお支度を」
「えぇ――――――」
だるいぃ。
とか思いながらも、イザベラに促され、結局支度する私。
そして、王子がいる応接間へ向かった。
部屋に入ると、ソファに座っていたのはあの美少年王子様。
私は彼に挨拶をし、頭を下げた。
「遅れて申し訳ありません、殿下」
「うん、気にしないで。それよりも体調は大丈夫?」
「はい。この通り一眠りして、元気に戻りました。先日は申し訳ございませんでした」
「うん、そのことも気にしなくていいよ」
そう言われ、私は向かいのソファに座る。
それから、私と王子で他愛ないをし始めた。
本当に内容に中身がなくて、正直つまらなかった。
そんな会話の中でだが、ライアンは私を好いていないことは分かった。
………………ふむ。
一か八かで、婚約破棄の話を出してみようか。
もしかしたら、OKもらえるかもしれない。
私は恐る恐るライアンに言ってみる。
「あの殿下にお願いがあるのですが」
「お願い?」
「はい。その私との婚約を破棄していただけませんか」
私がそう言うと、笑顔だった彼の表情は真顔に変わっていく。
「へぇ…………」
「失礼も承知なのですが…………」
すると、ライアンは立ち上がり、窓の方へ向かう。
「君から婚約がしたいと言ってきた。僕はただそれを受けただけ。なのに、今は破棄をしてほしい? 婚約して1年も経っていないというのに? 他に思いの人でもできた?」
「…………いいえ。そのような方はいません」
「そうかい。まぁ、別に君に思いの人ができたから、いけないってわけではないよ。正直、僕は君に対して一切好意を抱いていない」
「なら…………」
「だが、僕は君との婚約を破棄しない。絶対にしない」
「しかし、殿下は私のことは好きではないと…………」
「そうさ。僕は君のことなんて好きじゃない。全然好きじゃない。でも、僕に近寄ってくる令嬢がうんざりでね」
ライアンは私の前に立つと、顔をぐっと近づけてくる。
こちらに向ける瞳は人形かのように冷たかった。
「君は僕の令嬢除けになってもらう。ラザフォード家は王族とのラインができるわけだし、僕らにとってはいいことばかりだろう?」
彼は私の両手を取ると、左手の薬指に付けられた指輪に触れた。
「だから、この指輪を大切にしてね」
★★★★★★★★
それから、私は婚約破棄ができないかいろいろ試した。
例えば、私を婚約者にするのが耐えられなくなるように、お下品な令嬢を演じたり、前世の記憶を思い出す前のように王子にしつこく付きまとったり。
とにかく、王子が嫌がることをいっぱいした。
婚約破棄のために。
だが、全て効果はなかった。
いつもライアンは同じ笑みを浮かべていた。
まるでいつも笑顔の仮面をつけているみたいに。
だからといって、私も諦めなかった。
だって、前世みたいに醜い死に方はしたくないもの。
ちゃんと生きていたいもの。
どの世界でもみんな、死ぬのは嫌でしょう?
それから、婚約破棄の計画を見直し、ライアンが私のことを好きになってもらえるよう努力した。
可憐で気品のある令嬢になるため、勉学、ダンス、剣術…………さまざなことに挑戦した。
しかし、ライアンは一度もこっちに振り向いてくれることはなかった。
ただ、私に冷たい仮面のような笑みを浮かべるだけ。
それ以上は何もなかった。
そんな日々が1年続きそうになったある日。
夜になり、暗くなった自分の部屋に、私は1人窓際で自分の手を眺めていた。
左手の薬指にはめられた指輪。
それはそれはシンプルな婚約指輪。
「これがなくなれば、婚約もなかったことになるのかな?」
この婚約指輪は婚約の証。
それがなくなれば、婚約はどうなる?
『婚約指輪なくなっちゃったので、殿下と私の婚約はなかったことになりますね』
そんな単純な話があるとは思えないけれど、やってみる価値はある。
私は決意し、部屋を出る。
そして、夜の庭へ向かうと、私は指にはめていた指輪を取り、それを池に向かって投げ捨てた。
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