第29話 夏満喫
「真白ちゃーん、いくよー!」
「うんっ!」
スイカが宙を舞う。私に向かって投げられたそれを、いつぞやの授業で習った手の形を真似ながらふわりと返した。運動神経が悪い私だが、案外返せるものだ。私の球は風に揺られて少し逸れ、ちょうど落下地点にいた星羅ちゃんのところに落ちていく。
「ナイス〜」
ゆるい掛け声と共にレシーブが返ってくる。私、意外と上手いかも?なんて思いながらボールを取ろうとすると、腕一本分ズレてしまってスイカ柄のボールは砂浜に転がった。一回目はどうやらマグレだったようだ。悲しい。
私達は三人しかいないので、試合をすることは難しい。ということでなんとなく円をつくってラリーを続けている。たいてい私がラリーを切ってしまうので申し訳ない気持ちもありつつ、けれども体を動かすのは楽しくて。
他の二人も濡れた体で飛んだり体の向きを変えたり、夏に相応しいキラキラとした笑顔が見える。彼女たちの眩いばかりの笑顔から揺れる大きな双丘に目がいきそうになるのをどうにか堪えた。暑さ故か、はたまた単に動いているからなのか汗ばんでいる体。伝う汗の粒すらも綺麗に思えてしまうのだからどうしようもない。
その後も私達はビーチバレーを続けていた。十回、十五回、ニ十回。どんどんラリーは積み重なっていき、三十を超えたところで、ボールは風に煽られて砂浜を転がっていった。
スイカを模した空気を入れただけのボールで良くもここまでできたものだ。そんなふうに思いながら、心地の良い疲労感に身を任せる。
流した汗が少しだけ気持ち悪くて、すぐそこにある冷たい海に足を向けた。大きめの浮き輪に捕まりながら、深い所に徐々に進んでいく。足がギリギリつかないくらいのところで、浮き輪の上に座る形になって体を預けた。
海の満ち引きによって私の体が陸側に近付いたり海側に遠ざかったりしていくのが面白い。海から見るコテージはフィクションだと言ってもおかしくないくらい綺麗であったし、砂浜に目を向ければ美少女と美女の境の美しい彼女らがいる。やはりここは天国なのであろう。
星羅ちゃんがペットボトルの飲み物を呷り、喉仏が下がるところが見える。首筋のラインすら魅力的だ。優依ちゃんはと言えば先程までボールとして活躍してくれていたスイカを海の側に持ってきて、それを浮き輪代わりにしてプカプカと浮かんでいるようだ。私の方に近付いて来てくれていることに気付いて、思わず口角が上がった。
「まーしーろーちゃんっ。気持ちよさそうだね」
「えへへ、いいでしょ」
「ふふ、なんだかバカンスって感じ」
波にゆられたり、時折手を海に突っ込んで、近くにいる優依ちゃんに水をかけたりかけられたりして遊ぶ。
そのうちやってきた星羅ちゃんに浮き輪を明け渡して、せっかくだからと海に潜ったりした。口元に残る海水がしょっぱい。けれどこれもきっと思い出のひとつになるのだろう。
一通り海で遊び尽くした後、持ってきていたおにぎりやサンドイッチなどを食べた。
普段食べているのとさほど変わらないものだと思う。しかし、夏の滲んだ青空の下、カラフルなパラソルの日陰から、眼前に広がるインディゴブルーを眺めながら口にするお昼ごはんは贅沢の極みと言って差し支えないだろう。
満腹とまでは行かないまでも、それなりにエネルギーを消費した体には染み渡る美味しさと満たされ具合だ。
ごちそうさま、をしたところで昼からの予定に思いを巡らせる。
お昼前までは比較的浅瀬で泳いでいたから、今度はちょっとだけ遠出してみようか。あるいは砂浜で遊んでみるのもいいかもしれない。二十歳のニートにはできなかったことを十七歳の体でやってみたいのだ。あれもこれもと思考の中で欲張っていれば、肩が不意に叩かれた。
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