第4章 ゾンビには向かない職業
第27話 新人刑事の名推理
天神警察署の一室で、特別捜査二課の新人刑事であるボク、
「だから、最近の行方不明者数の急増は絶対ゾンビの仕業ですって、先輩!!」
「はぁ・・・あのね、行方不明者の数なんてのは毎年毎年季節によって上下するの。今年は確かにちょっと多いとも言えるけど・・・、例年の傾向の誤差の範囲よ。って言うか、行方不明者数が増えていたとしても、その原因に『ゾンビ』なんて馬鹿な事、冗談でも言わないで!」
「ええー!?絶対ゾンビですよ、前も教えてあげたじゃないですか。世の中、ゾンビの目撃情報がいっぱいあるんですよ!」
そう言ってボクはプリントアウトした資料をテーブルの上に広げた。
先ほどからボクの話を熱心に聞いているのは、ボクの教育係の暮井先輩。三白眼の目つきは鋭く、キッチリとポニーテールにした髪型と相まってキツイ印象を受けるが、新人のボクの話をよく聞いてくれる優しい人だ。美人だし。ボクはと言うと、暮井先輩を見習ってスーツをキチっと着込んでいる。ただし先輩からは「大学一年生が初めてスーツを着たみたい」と言われた。それだけフレッシュと言う事だな!髪の毛だけはもっと短くしろと言われるが、ボクのさらさらヘアーはおばあちゃんが誉めてくれた自慢の髪なので、こればっかりは変えられない。
「ほらぁー。前も見せたでしょ?これは都市高速で発生したバイクと軽自動車の大暴走。目撃者は少ないけど、300キロは出てたとか!事故が起きなかったのが奇跡ですよね!」
「それはただの暴走族でしょ」
「あとこれ、ゾンビのメイドカフェ!」
「その店に調査と称して突撃したけど、ゾンビメイクしたメイド姿でショーをする健全なお店で、楽しく飲んで騒いで帰って来たんでしょ。翌日二日酔いになって」
「極めつけはこれですね!『ゾンビ専門の診療所』!ゾンビを治してくれるお医者さんがいるみたいですよ!」
「何度も言うけど、そんなのイタズラに決まってるじゃない!ネット上にどんだけ再生数稼ぎ狙いのふざけたゾンビ便乗ネタが転がってると思ってるの?」
「いや、これは本物ですよ!」
「なんでそう思うの?」
「刑事としての勘です!」
「アンタにそんなモンあるか!!」
先輩はいつも厳しい。これもボクに対する期待の表れなんだなぁ。
「まあ見ててくださいよ!ボクがこのゾンビ専門の診療所を調査して、世の中のゾンビ騒動を解決してみますよ!」
ボクの力強い言葉に、先輩は激励の意味を込めているであろう、大きく息を吐いた。
◆
俺の名前は
「こんにちは!警察から来ました
「違います」
俺は真顔で即答した。
センセイの「患者に早く病院に来てほしい」という方針のために、この病院の場所はホームページを作って公開している。そのせいで、興味本位や悪戯目的で来る奴らも結構いるのだ。一応、そういう奴らを遠ざけるために、ホームページはいかにも怪しい感じにして、本当にゾンビになって切羽詰まってる人しか来ないようにしているのだが、それでも来る奴は来る。そういう奴らには適当に嘘をついて二度と来ないように追い払うのも俺の仕事なわけだが・・・。
ついに警察が来たか。しかし妙にハキハキした変なヤツだな。見た感じはゾンビではないので、取り合えず誤魔化して帰ってもらおう。
「ゾンビ専門の病院じゃないんですか!?」
「違いますよー。ゾンビなんているわけないじゃないですか?」
「だってホームページでここの住所書いてましたよ!?」
「ああー、あれね。誰かに変なホームページ作られちゃて、勝手に個々の住所使われてるんですよ。最近ゾンビの都市伝説とか流行ってるらしいですね。そのイタズラの一種なんですかね。迷惑してるんですよー」
「そうなんですか!?それは災難ですね!!」
「って言うかお兄さん、本当に警察!?お兄さんもイタズラで来たんじゃないの?」
「失敬な!ボクはちゃんとした刑事ですよ!ほら、警察手帳!」
そう言うとすぐに手帳を出して見せてきた。マジで警察なのか?警察手帳が本物か偽物かなんて判別できないけど・・・。
「まあいいや、うちはゾンビとは何にも関係なので、帰ってくださーい」
そう言って帰らせようとした時・・・診療所の扉が元気よく開いた。
「ジョージさん!今日はゾンビ来ました?ゾンビ!!」
とっても明るいニニカちゃんの声に、俺はガックリと頭を項垂れた。
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