第31話 焦土
それは一瞬の出来事だった。
海岸がほんの一瞬発光したかと思えた瞬間…
辺り一面がまばゆい光に包まれる。
その場で反応できたのはたった二人
シロとコトネのみが唯一反応し、全力の防御態勢に入ったことが奇跡だった。
続いて訪れるのは爆音
同時に衝撃波が海を揺らし、海岸の砂を消し飛ばす。
戦車などのあらゆる兵器は衝撃波で吹き飛ばされる。
そこまでが彼女……黒星シロが把握できていた情報だった。
「……せ…ぱい!シ…せ……い!お…て………い!」
耳鳴りのような音が頭に響く
金属音のような音だ、耳が機能しない
目を何度か開け閉めしながら、ゆっくりと視界を慣らしていく。
聴覚も段々と戻ってきた。
全身に痺れるような感覚があるが、動けないほどでもない。
目の前には泣きそうな顔をしたハルが、私の体をゆすっている。
痛む体に無理をきかせ、私は体を起こした。
「目が覚めましたか!?意識は大丈夫ですか?」
「何分気絶してた」
「ほんの……20分ほどです」
クリアになった視界がとらえた現実
そこは先ほどまでいた場所とは異なる場所、地獄だった。
恐る恐る街の方へと振り返ると、そこには焼け野原になった街があった。
建物は軒並み崩れ落ち、無残な光景が広がり続けている。
「え………」
言葉がつまる
のどにつっかえた声が、嗚咽を上げるようにぐるぐると暴れまわる。
何が起きた?
現実を理解したくない光景が今、目の前に広がっていた。
改めて周囲を見ると、物言わぬ肉塊になった同胞や赤く染まった海
鉄くずとなった兵器に、砂浜に散らばるベノムの死骸が散乱していた。
「は……あ?」
「いいですか、よく聞いてください」
理解が追い付かずに呆ける私に、ボロボロのハルが語り掛ける。
「ベノムを引き連れた青いベノムが放った一撃で、海岸に防衛線を敷いていた皆はほとんど全滅しました」
今にも溢れそうな涙をこらえるハルは、状況を正確に伝えるべく言葉を続ける。
「先輩と、体長がかばってくれたおかげで、我隊は半分生還しています」
「はん……ぶん?」
「半分です、半分は生き残りました。そして、ギリギリ今は戦えている状況です」
そういったハルは、ポーチからムーンストーンの首飾りを取り出す。
ソレはどこか見覚えがある飾り付けだった。
ありえる、彼ならありえてしまう。
「壊滅状態の我々に時間をくれた人がいます」
「まって」
違う
「その人から預かった品物です」
「……お願い」
命を捨てて欲しいなんて、違う
「彼の勇気ある誘導のおかげで、我々は今も戦えています」
「まだ仲直りしてないから…ッ」
ウソであってほしい
私の勘違いだと言って欲しい
そんなつもりの言葉じゃなかった
私が間違っていたから
どうか
「報告します!!!」
縋りつくようにハルを止めようとする私を振り切って、ハルははっきりと声を出す。
「浜辺ユウは、ベノムの誘導役を志願し、10分もの時間を我々に提供した結果、彼はベノムに捕食され戦死しました」
爆発音が響く
街はいまだに戦闘が続いており、数々のドローンが宙を舞い、火柱がいたるところで上がっている。
その光景がやけに、目から離れない
「うッおぇっあ…げぇっ……」
せりあがる吐しゃ物を砂浜にぶちまける
頭がガンガンと揺れて、無力感で全身の力が抜けていった。
胃の中が空っぽになるくらい、全部を吐き出す。
違う
私は…
謝ってない
命を賭けることの怖さを理解しようとせずに
臆病者とののしった自分が……謝れていない
彼の心配が、私はできずに失った。
理解しようとしなかったから、心配する権利なんてなかったから
掴もうと、大切にしまおうとしなかったから
彼と言う名の命の羽を私は手放した。
私が弱いから
守り切れなかった。
私が傲慢だから
守り切れなかった。
絶望と後悔が、胸を締め付けてくる。
痛い、胸が痛い、心が…痛い
そんな私に、ハルは涙をこぼしながら言う
「辛いかもしれません、でも聞いてください。彼が稼いだ10分のおかげ今私たちは戦えています。隊長は5分前に意識を取り戻し、ベノムと戦っていますが青いベノムのせいで勝てそうにありません」
「ふぐっ…うあ゛……」
「だから、彼の功績を無駄にしないように、私たちのために死んでください」
真っ白になるほど強く握られた手は、砂を掴んで赤い痕を残して
「私の全部を捨てます。だから、あなたがいれば勝てていたと……私たちに言い訳させてもらえませんか?」
私は、ベノムマギア
人々を守り、敵を屠る者
つながれた命のバトンは決して、絶やすことは許されない。
「もちろん」
ブーツの紐を結び、装備の確認を済ませて視線を上げる。
「黒星シロ、行きます」
踏み込みは全力
目指すは青きベノム…
周囲にはハルのドローンが何千もの数展開されている。
その誘導に導かれ、全力の一撃を、最速で、叩き込みに行く。
全力で蹴られた砂浜は爆ぜる
砂ぼこりが周囲に舞うと、景色は一瞬で赤い焦土に包まれた街に変わっていた。
振り抜く斧は、今までで一番の力がこもったものだった。
導かれた先の景色
今にも殺されそうな隊長の瞳が、私の姿を映していた。
全力で戦っている痕跡が、周囲に見受けられる。
皆必死に争っている。
彼の稼いだ時間が、今こうして一人でも多くの命を救うチャンスを生んでいる。
「遅れて申し訳ありません、至急戦闘にさんかします」
こぼす言葉とともに振り抜く斧が、青いベノムに突き刺さる。
細身の人型のようなおぞましい形ベノムは頭部に当たる部分に露出したコアがあるようで、私はソコに全力の一撃を叩き込んだ。
『ギギギ?』
無傷
承知の上だ。
コイツは魔女数人がかりが相手でも倒しきれなかった化け物と同類のはずだ。
初めから倒せるなんて思っていない。
「だめだ!こいつ私たちの力を…!」
コアがギラりと輝く
(力?無効系?)
そんな思考が頭によぎり、すぐに距離を取る。
すると眼前に青いベノムが現れ、私は簡単に吹き飛ばされた。
強い
伸ばした触手からポンプのように体を押し流して、目の前に現れたのだろう。
ただ先ほどの光による影響は感じられず、ただ強敵であるだけだ。
その強敵であること自体が厄介極まりないわけだが…
「シロ、お前効いてないのか!?」
「そいつ私たちの力無効化してきてウザいんですけど!」
「ん、大丈夫…みたい」
どうやら私には効果がないようだ。
それなら好都合、ユウを殺してくれたお礼をたんまりとする予定だったのだ。
握る力は強い方が礼のし甲斐がある。
「あなたは、殺す。たとえ命に代えても」
決意の表明を口にしたところで、私は青いベノムを睨みつけた。
一万回戦ったら一万回負けるだろう相手
しかし、負ける選択肢はない
どれだけ無様に死のうが必ず引き分けに持っていく
浮け、もっと、限界まで浮きあがれ
髪の毛が灰色に染まり、心拍が早鐘を打つ
握る拳に力が入り、握られた斧は周囲の景色を鈍い光沢として反射していた。
刹那
衝突
瞬時に変えた大剣でベノムの一撃を受け、つばぜり合いが始まった。
ギリギリと音を立てて武器が悲鳴を上げるが、それを気にする暇もなく全力で力を込めた
「くぅっ…」
押される
段々と押し込まれていく
力が強すぎる、握る手が痛みを訴えてくるほど重い一撃
単純な力比べも全く勝てない
速度も、硬さも、瞬発力も、なにもかもが勝てていない。
ソレをこの一撃で私は悟った。
意気揚々と飛び出してこれか?
クソクソクソッ!
私の感情は荒れに荒れている、怒りも、絶望も、今まで生きた中で一番溢れているのに
現実は残酷に力量差で私を責め立ててくる。
この一撃を逸らしたとして、次をどうやって捌けばいい
どうすればこいつに勝てる?
「シロ!!私たちがいる!!!行け!!!!」
瞬間世界が広がっていく
私は何の迷いもなく、ベノムの一撃を横に逃がした。
当然おぞましい速度で私に攻撃をするベノムだが、その一撃は大きな盾によって上に逃がされた。
「よくやったリン!まずは削るぞ!!!」
一閃
振り抜かれた一撃は無防備な胴体めがけて振るわれた。
しかし、その一撃は直撃を免れる。
なんとベノムが膨らむように爆ぜ、ちょうど攻撃が通るはずだった部位は空洞になっていたのだ。
「知恵の働くベノムだな!!!」
隊長の愚痴はベノムの攻撃に掻き消える。
無数の棘が周囲から出現し、地面に当たった触手は赤熱しまた爆ぜる。
巨大な火柱が吹きあがり、大地を揺らした。
空中に逃げる私の眼前には、ポンプのような移動で現れたベノムが鋭いナイフの形をした触手を構えていた。
とっさに武器でガードを試みるが、とてつもない衝撃と共に私は大地にたたきつけられる。それでもインパクトの瞬間、砲撃をベノムに打ち込んだ。
効いた様子はない
地面にたたきつけられた私は、肺の空気が抜け、ジンジンと体が痛む
だが反撃はした、少しでも反撃は間に合っている。
ならば勝てない未来がないわけではない
しかし、私がやられたせいで、リン先輩もすさまじい速度で瓦礫まで弾かれ、フォローに回った隊長も肩を貫かれていた。
連携は必須
一人でもかければ勝てない
隊長は即座に触手を掴み、針を抜く
その判断は正しかったようで、抜かれた針からさらなる針が飛び出した。
「三人連携してこれか…」
「チートだよこの強さ」
青いベノムとの戦いが今、火蓋を切ろうとしている。
__________________
あとがき
さてさて激しくなってまいりました
まだまだ続くよ激戦…ッ!まだまだ来るよピンチに絶望!
彼女たちに明日の未来はあるのか?
ユウはどうなっちまったんだ?
そんな疑問を引っ提げて、作者は今後も
読者の心臓に負荷をかけてまいります。
保護者顔の読者の皆様は胃薬の購入をおすすめします。
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