第39話「原因は我にあり」


「あの、本当に何を頼んでもいいんですか?」


「もちろんさ、千雪ちゃんはこういう店は初めてかな?」


「こうちゃんさ……私が連れて来れると思ったの?」


 あの後、事件は無事解決した。例のムッツリ担任や元担任らも玉虫色の解決を望んでおり全面的に俺の話を受け入れ千雪ちゃんの平和な学校生活は守られた。そして今はリオンに頼んで予約していた寿司屋に三人で来ていた。


「何かの祝いとか、あと、あの男と家族で来たりとか……しなかったのか?」


 あの男とはもちろん皐雪の元夫で千雪ちゃんの実の父親だ。やはり平和な時は家族三人で仲良くとか有ったのだろうと興味本位で聞いていた。


「できないよ、あの人どこまでも口だけだったし……私の貯金も取られたし」


「ええ、ほんと酷かった。鋼志郎さん、せっかくのお寿司が台無しになるので、あの人の話、止めてもらっていいですか」


 だが皐雪は恨み節で千雪ちゃんに至っては不倶戴天の敵のように言い切った。最悪な男とは知っていたがここまでとは……本当のクズだったらしい。こんなに良い女と可愛い娘を冷遇とか理解できない。


「……悪い二人とも、なら今夜は遠慮しないで好きな物を頼んでくれ」


「えっと、じゃあマグロ……とか?」


「ちゆ、ウニ好きでしょ、頼んじゃっていいのよ?」


 そう言いながら皐雪も時価という値札を見て引いているのが分かった。値段なんて気にしないで好きなだけ食べて欲しいが、やはり最初は回転寿司の方が良かったのか? なんて思ったが今さら仕方ない。


「店主、とりあえずテキトーなの握ってくれませんか? それと彼女たちの食べたい物は別に後からでお願いします」


「へい、かしこまりました、お嬢さん方、どうぞ気軽に頼んで下さい」


「は、はい……」


「こうちゃん、そのぉ……」


「気にするな行きつけじゃないが、ここら辺の中では一番の人気店だ」


 リオンに店選びを任せて正解だった面倒な店主じゃないのは助かる。よく女子供やら若い客を甘く見て横柄な態度を取る職人も多い業界だがこの店はサービスは行き届いている新しいタイプの寿司屋だ。


「恐れ入ります、お客さん実は今朝、アカムツの良いのが入りまして、よろしければ握りましょうか?」


「アカムツ……ああ、ノドグロですか? では折角なので妻と娘の分も合わせて三つ頼みます」


 営業も上手いようだ。だが、ここは乗っておこう二人のためなら金は幾らでも使う。必要なら店ごと買えばいいだけだ。そしてサラッと家族アピールも忘れない。


「あ、ニュースで聞いたこと有るやつ?」


「私も聞いたこと有ります」


「では、三つお作りしますね」


 何より店主が丁寧な最大の理由は今日の19時まで店は俺達の貸し切りだからだ。わざわざ二つ隣の市まで来て正解だった。途中のドライブも千雪ちゃんは喜んでいたし一家団欒としては完璧じゃないだろうか。




「ふぅ、お腹いっぱい……」


「満足満足だよ、こうちゃん」


 最初は緊張していた二人だが途中から店主や女将さんとも会話を楽しんでいて良かった。これでまた一歩、俺の家族計画が進んだ。寝取り男の話題を出した時は焦ったが今後はクズの話題には注意しよう。


「ありがとうございました!!」


「また来ます、それでは」


 そのまま店主と女将さんに店の前まで見送られ車に戻るとリオンが待機していたから土産の寿司を三つ渡す。


「一つ多いのでは?」


「お前の分だ、決まってんだろ?」


「私は適当に済ませる予定でしたが……ではありがたく、残りは冬美さんや甲斐夫妻にですね?」


「ああ、今も岩古を監視してもらってるからな、これくらい当然だ」


 そのままリオンの運転する車で遠回りしつつ村の外の世界を二人に見せる。今度は服とかバッグとか普通の女の子欲しがる物とか二人にはプレゼントしたい。さんざん苦労していたんだ。これくらい贅沢しても罰は当たらないだろ。


「鋼志郎さん……私、その今日、金ヶ崎さんをぶったのは……」


「別に無理して言わなくていいよ」


「いえ、その……聞いて欲しいんです」


 そう言われたら頷くしかない。皐雪もコクリと頷いて千雪ちゃんはゆっくりと口を開いて今日の話を始めた。


「最初はいつものように、からんで来て無視してたんです」


 いつものようにだと? やっぱり、あの女は叩き潰すべきだったかと思っていたが皐雪が手を握って来て口を挟めなかった。続きを聞けという意味だと気付き俺は口をつぐんだ。


「でも、あいつ……鋼志郎さんと母さんを変態カップル扱いしたんです!!」


「「えっ?」」


「神葬祭が有ったから私、知ってます!! 二人が一生懸命お爺ちゃんのために式を頑張ってたのを!! そんな二人が夜な夜な下の町のホテルに入り浸っているわけ無いのに……夜中にコンビニに行った時に見たとか嘘言ったんです!!」


「「あっ……」」


 実は十日祭の明けた翌日から皐雪とは毎晩ホテルに行っていた。もちろん冬美さんには断っていたしリオンも知っていた。理由は俺達の声がうるさいから外でやれと言われた結果だった。


「しかもヤリまくり夫婦とか……二人は、そういう関係なのは知ってます……でも、それが許せなくて……だから、つい……怒鳴って叩きました」


「そ、そうか……」


「う~ん……」(どうしよ、こうちゃん?)


 しかも原因は俺だ。以前、皐雪の喪服姿にムラムラしてし、その後、結局我慢できず車に連れ込んだ後に毎晩そういうプレイをしていたのだ。もはや冒涜とかいうレベルではない。おじさん本当にすいません。


「ま、まあ…今後はそういう噂を聞いても流して行こう、な?」


「はい!! あんなのに騙されるなんて私もまだまだですね!!」


「そ、そうよ、千雪は賢いんだから、ね?」


 そうして俺達は誓った。今度から町中は止めて市外のバレないお城のようなホテルにしようと……ちなみに妊活を辞める気は無い!!

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