第5章「誇りとは時に邪魔になるもの」

第41話「動き出す者達」


「では次は霊祭、百日祭でいいんですよね?」


「はい、それでは失礼いたします」


 そう言って神職の者達は次は霊祭の時に祝詞を上げに来ると言って帰った。納骨も終え必要な儀式も全て終わった。これで大介おじさんを送る儀式は一段落だ。


「終わったわね……」


「はい、お疲れ様でした冬美さん」


 珍しく着物から洋装に着替えてグッタリしている義母に声をかける。肩の荷が下りた感じで本当に疲れているのが分かった。


「いいえ私よりも貴方でしょ? 私や皐雪だけだったら間違いなく上手くいかなかった……あの人をこんなに立派に弔えなかったわ」


「そうだよ、こうちゃんのおかげだよ」


 実際そこまで遠野家は追い詰められていた。しかし村の事を放置していた俺も甘かった。あの情報屋の片割れに詳細不明だが急いだ方が良いと言われたのに事業を優先し放置したのは今でも悔いている。


「ま、これからは宣言通り義理の息子ですので頼って下さい、お義母さん?」


「ええ、やはり頼りになるのは昔馴染み……私が愚かだった、あんな男を皐雪の相手に選んでしまうなんて、鋼志郎くん、それに皐雪ごめんなさい」


 そう言って冬美さんは俺達に深々と土下座していた。


「 母さんは悪くない私がバカだったから……あんなクズに引っかかって、こうちゃんを裏切った、でも全部ふっ切ったから、ね?」


「そう、それに過去なんて不要、大事なのは今であり未来ですので……ま、皐雪には責任取ってしっかり孕んでもらいますので大丈夫です」


「ええ、良かったわ……二人とも遠野家をお願いね……」


 こんな形で俺は村に戻って二ヶ月弱なんとか状況は落ち着きつつある一方で面倒な報告も上がっていた。




「零音ほんとか?」


「ああ、岩古の動きが活発化し出した」


 五十日祭の翌日、俺は岩古家を見張りや細かい揉め事を処理してもらっていた甲斐夫妻と下の町の拠点の一つで情報交換をしていた。零音には建設現場の監視を奥さんの真莉愛さんには町での岩古の動きを探ってもらっていた。


「それにコウさん、彼らは大きな支援者を一つ失ってる」


「例の会長と……あのガキの働きとか言ってた件?」


「ええ、情報屋くん達のお陰、そっちは他に彼もね」


「彼って……まさか、秋山氏?」


 俺が言うと二人は頷いた。今も村で建設現場を護衛してくれている秋山警備保障そこの関係者だ。前にリオンを連れ千堂グループに顔を出した時にも会ったが相変わらずな様子だったのを思い出す。


「ああ、彼だが……最後に会ったのはやはり俺達と共闘した時?」


「いや、ここに来る数ヶ月前だ、リオンは初めて会ったがビビってたよ」


「ま、あの子は色んな意味でジョーカーだからね」


 彼が動いているとなると今回の件も含めて貸しが大変になりそうで後が怖い。年下てか情報屋のガキ共と大差無い年齢だが厄介この上ない青年だ。そんな世間話をしながら俺達は本題に入った。


「現在、村のスマホの普及率は30パーセント弱だ」


「一ヶ月でこれくらいか……」


 零音の言う通り食いつきは悪い。だが予想していた事態だ。岩古村はとにかく変化を嫌い外界と隔絶され時間が止まったような村だ。そして村内部での様々な不満や問題を伝統やら権威付けられた誇りで黙らせているのが岩古家だ。


「でも村長が味方に付いてくれたのよね?」


「だけど表立っては動けない、面倒なのが付いてる」


 テツおじさんは味方にはなってくれて影では助けてくれているが滝沢夢という監視役が付いている。夫婦では有るが正直なところ二人の関係は複雑だと息子であり俺の親友の鉄雄は言っていた。


「子はかすがいとならなかったのね?」


「まあ、そうですね……あ、そうだ二人に聞きたいんだが年頃の娘って、いきなり父親が出来たらどう思うんだろ?」


「う~ん、コウさん……家は子供三人いるけど一番大きいのが中二だけど男の子だし千雪さんの参考にならないわよ?」


 参考になるかと思い年下の先輩夫婦に聞いてみたかったが当ては外れたようだ。


「そうかぁ……零音は何か有るか?」


「千雪ちゃんくらい可愛いなら周りが放っておかないし男親は大変だと忠告するよ」


「だよなぁ……あんな可愛くて少しクールなんだよな」


 皐雪と違って少し陰が有ってミステリアスで一人の女性としても十分に魅力的だ。これは将来が楽しみだと俺も期待してしまう。


「新米パパはいきなり高校生の娘ができて大変ですね、ではお仕事の話しましょ?」


「悪い、ついな……じゃあ次の作戦は指示書のパターン3の『誇り踏みにじります』作戦で行こうと思う」


 岩古を支えているのは伝統によって作られた因習と掟そして誇りによって支えられている権威と権力だ。俺は今、スマホという異文化を投入し伝統にヒビを入れた。


「だから今度は誇りによって作られている権力そして権威を失墜させると?」


「そうだ零音、誇りを自ら手放せば権威は落ち、更に伝統も軽んじられるという寸法だ……二人は計画が第二段階へ移行した事を各所へ伝えて欲しい、何か異議は?」


「「異議なし」」


 こうして方針が決まり俺達は動き出した。




「それで鋼志郎さん、具体的にどうするんですか?」


「千雪ちゃんは誇り……英語にするとプライドって具体的に何だと思う?」


 俺が言うと少し考えた後に千雪ちゃんは答えた。


「……えっと自信とか名誉……でしょうか?」


「うん、正解だ。千雪ちゃんは賢いな~」


 そう言って頭を撫でると彼女はくすぐったそうな顔をした後に何かに気付いたようにハッとして首をブンブンと振り慌てていた……可愛い。


「あ、あの鋼志郎さん……お願いが有るんですけど、いいですか?」

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