第16話 もう一つの外診

 俺たちは、メイメルから食事をごちそうになった後、薬屋に帰還することにした。

 メイメルから見送りを受けて、母屋を出るなり、

 

「おお、先生。良いところに。お土産だぜ」


 先ほど別れた剣士が声をかけてきた。

 

 そして、大きな袋を渡してくる。中には、

 

「魔石と毒爪のセットだね」


 ベノムウルフからはぎ取った戦利品が、丁寧に詰められていた。毒の爪などは、周りを傷つけないように保護の布で巻き付けられている。


「ありがとう! 手間をかけてしまったね」


 そういうと、剣士は苦笑した。


「怪我をしなかったんだから、このくらいの手間は問題ないさ。生きたコイツらと向き合う事のほうが何倍も大変なんだから。本隊のほうでも、毒を食らったやつがいたしさ。――ああ、興奮して診に行こうとしなくて大丈夫だ先生。もう解毒剤は飲ませたから」


 剣士が俺の両肩をがっちりホールドしながら言ってくる。


「そうかい? でも、何かあったら言ってくれよ」


「心配してくれてありがとうよ、先生。……いやはや、こんな厄介なものを持つ奴、二度と相手をしたくねえや」


 ははは、と笑いながら、剣士は俺たちが先ほどまでいた家のほうに目をやる。

 

「牧場主さんのほうはどうだった?」


「メイメルさんは、今すごい元気だよ。君たちに料理をふるまうために動き回っているし」

 

「そりゃあ良かった! 流石は先生だ。治療でそんなに回復したのも嬉しいし、牧場主さんのメシはうめえから、ギルドの連中も喜ぶし、もろもろ伝えてくるわ。色々ありがとうよ、先生!」


 そういって、剣士は仲間たちのいる方へ走っていった。


 戦いの後であるだろうが、元気そうで何よりだ、と思いながら、俺は背後を見る。一人、元気のない者がいるからだ。

 

「リリス。さっきから表情が暗いが、どうかしたかい?」

 


 カムイに問われたリリスは、思わず自分の表情を確かめた。

 

「そ、そんなに暗かった?」


「うん。微妙に、だけどね」


「よく見ているのね……」


 そういうとカムイはニコっと笑った。


「そりゃあ薬師だから。人の顔色をよく見る癖があるからね! 患者であれば猶更だ。それで……実際のところ、気分は沈んでいるように見えるけど」


 茶化すことなく聞いてきているから、純粋に心配で聞いているのだろう、とリリスは思った。ごまかす意味もないだろう。だから、


「ちょっと思うところがあるだけよ。やっぱり、毒を持ってる獣は、厄介者として扱われるのね、と……」


 思っていたことを口にした。すると、カムイは首を傾げ、


「ちょっと違うよ、リリス。毒を持っているものが厄介者なのではなく、毒を持っていて、なおかつ害意があるから厄介とされているだけだ」


 なんてことないようにそう言った。

 

「カムイは、そう思うのね」


「うん。なにせ薬だって、用量を守らなければ人を害する毒の一種だ。だから、俺なんか厄介者の塊みたいなものだと言える」


 ははは、と笑ったあとで、カムイは真面目な顔でこちらをじっと見つめ、


「君は……自分の身体が毒を持っているのを、好ましく思ってないんだね」


 そんなことを言ってきた。

 ――――――――

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