第28話 渋谷ステーション到着


「ミ、ミーンミンミンミンミン」

「おいダッシュよ」

「ミーンミンミンミンミンミン」

「私だ。ヨーコだ」

「……ミー」

「いつまでやっているんだ!」



 ウツセミの術を見破るとは。やるじゃないか幼女。

 まぁ位置を教えたのは俺なんだけど。

 

■エリア、明治神宮南池付近■


 俺は逃げた。逃げまくった。

 そして誰もいない隙を見計らってスルスルと木によじ登り、プレイヤー表記が見えないよう葉っぱごしに隠していた。

 意外にこれが効果があったようで、奴らは地上を探し回っていた。TRゲームはなんでもリアル過ぎるが、木に登ったり塀をよじ登ったり出来るという感覚にはまだ慣れていないやつも多いんだろうな。想定以上の壁などは越えられない。

 それが非、フルダイブ型の限界点だ。

 しかし、高みの見物を決め込んでいたが、次々にPK狩りが行われていた。

 なんなら同士討ちまでしてるPKもいた。

 統率された集団でもPK狩り専門は別格だわ。

 いつまでもセミをやっているとエリザベスを差し向けられそうなので諦めて降りることにした。


「よっこいせっと。ふう、死ぬかと思った」

「しかし貴様、何をやらかしたんだ? すごい数のプレイヤーが集まってきていたぞ」

「ちょいと情報操作? いや、印象操作ってやつか? そんなことよりクエストは無事クリアできたのか?」

「ああ。それよりも話は後だ。まずはここから離れるぞ」


■エリア、都道413号■


 明治神宮の門ではなく隙間から抜け出た俺たちは、無事PVPエリアを抜け出ることに成功した。


「ここまでくりゃ平気だろう。静かになったな」

「他ゲームでも有名なPKプレイヤーネームがパクリマをやっているとは思わなかった」

「知り合いがいたのか?」

「知り合いじゃない。PK狩りを専門あるいは仕事としてやってる奴らだ。PKで嫌な思いをしたやつからカネをもらってPKをしつこく追って狩る奴らだよ」

「それで仕事してんの!? 頭いいっつーかなんつーか。ちょっと恰好良いな」

「そうだな。通常なら対称にするのはハラスメントに近い初心者狩りなどをするPK狙い。今日は容赦なかったようだが……開始二日目にしてあの強さ。相当プレイヤースキルが高い証拠だ」

「そーいや変な二人組がいたな。そのうち一人ひとりが持ってた武器、いい感じそうな大剣だった」

「もうマジックウェポンを持ってるやつがいたのか」

「マジックウェポン?」

「それについては後日教えてやる。渋谷はもう目と鼻の先だ。さっさと行って休憩するぞ」


■エリア、渋谷ステーション■


 俺たちはついに渋谷駅に着いた。

 だが……「渋谷駅って、こんな感じだったか?」

「大幅に作り変えられている。電気がない世界で商売が盛んに行われる場所として。先に行く場所があるからついて来い」

「お、おう」


 こっちは完全にお上りさんだよ。

 どれどれ……露店もできるのか、プレイヤーが何人か商品を並べてる。公式以外でも売買はできるのか? それとも公式を通してるのかな。

 あ、鍛冶場みてーのがある! あっちは風呂!? 食い物やに、おお、おお! 


「ここ、間違いなく町だぞ、幼女!」

「幼女じゃないヨーコだ! 親父ギャグなんて言ってないで早く行くよ」

「親父ギャグ? ああ、間違いなく町だ、で……やべぇ、忘れてくれ死にたくなった」

「ここは生産をメインにしているキャラが多い。時間帯によっては三万人を越えるプレイヤーがここに集まる」

「三万……って多いのか少ないのか分からねー」

「多すぎだ。そして人が集まるところには素材が不足する。ダッシュはまだ素材を売ってないんだろう?」

「ああ。にしてもジロジロ見られるな」

「初期装備なのに変な仮面をつけてるからだろう」

「いや、俺じゃなく幼女の方を見てないか?」


 幼女と変な仮面野郎のコンビ。

 はたから見たら気になるか。

 だが、一目などまったく気にせず変な建物に入っていく幼女。

 なんだここ? 酒場? 渋谷って結構怪しい店があるんだな。

 俺まだ未成年だから酒なんて飲めないんだけど。

 店内に入るとNPCらしきやつが何人かと、プレイヤーも数名いる。

 

「133番」

「はい。地下へどうぞ」


 酒場の主人っぽいNPCに番号を伝えると奥に通された。

 そこから地下への階段を下っていくと……おお! 酒樽のコルクをひねって隠し通路登場!? いいね、こういうの好きだわ。

 さらに地下へ通じる階段を幼女に続いて降りると、部屋がいくつもあった。

 133番と書かれた部屋を開け、ついて来いと促される。

 まるで秘密のアジトみたいだな。

 しかしなぜだろうか。とても嫌な予感がする。


「ヨーコ。やっと来た」

「なんか聞き覚えのある声……」

「ねぇダッシュ君。私を無視して先へ進んじゃうなんて冷たすぎない?」

「……あれ、お腹痛くなってきたな。ログアウトしていいですか?」

「ちょっと待ちなさいよ!」


 その部屋にいたのは、リリだった。

 椅子に座りテーブルに酒を数種類並べて飲んでいたようだ。

 そこにはベッドもある。

 これがベースポイント? 

 リリのやつは絶対怒ってるかと思ったが、表情はそうでもなさそうだ。

 ここに案内されたってことは最初からこの幼女とリリは知り合いで、俺をここへ誘導するのが目的だったってことだろ。


「幼女はリリと知り合いだったのかよ」

「幼女じゃない、ヨーコだ。こやつとは腐れ縁でな。貴様に知り合ったのは偶然だが」

「メッセージで聞いてたけどびっくりしちゃった。まさかダッシュ君はヨーコみたいなタイプが好みだったなんて」


 はい? 何を言っているんだこいつは。

 好みってなんだ。中身はきっとおじさんだろう? 


「話が読めないんだけど」

「リリ。ダッシュをからかうのはよせ。これでも助けられたばかりで礼をしないといけないんだ」


 そのとおりだ。今はギャグをとばしている場合じゃない。

 俺はどっちも信用していないし、割とリリにはひどい目に合わされている気もする。


「その前に二人の関係性とか聞いてもいいか? 幼女って本当に幼女なの?」

「くっ。あっはっはっは。ヨーコが幼女っていうのはそうね、間違ってないよ。彼女は篠崎サーカス団の団長。有名なサーカス団だから聞いたことある?」

「篠崎……ああ、聞いたことはある。見たことは無いけど。小さいピエロのマークが……ってまさかあのピエロの人!?」


 篠崎サーカス団は日本全国を回っている有名なサーカス団だ。

 小さいピエロのマークが目印で、実際に小さなピエロの恰好をした奴が、見事なサーカス芸を披露することで有名。

 そのサーカス団の団長がこの幼女だっていうのか? 

 

「小さいは余計だ。まったく、リリも簡単にばらしてしまって。それならお返しだ。このリリはな。六条寺の社長で廃神で配信のリリ。性格がひねくれてて悪だくみが大好きな女だ」

「団長ひっどーい! こんないい女、そうはいないわよ?」


 廃神で配信のリリってのは前に聞いたが、六条寺の社長がそうなの? 

 日本長者番付にも名前が上がるハイパー金持ちだろ。そんなのうかつに教えていいのかよ。

 いや、俺がベラベラしゃべるやつじゃないってことくらいは信用されてるんだろうけど。いや待て。社長ならテンプルヴァイス開発した企業だよな。俺の個人情報なんて完全筒抜け。なにかできるはずもない、か。

 

「先に言っておくけど勘違いしないでね。開発は会社がやってるから私はほとんどノータッチ。だから情報も攻略サイト程度にしか知らないわよ。でも、私が攻略して宣伝するのは社長として当然。だって自分の会社のゲームなんですもの。たくさんアピールしないと」


 なるほど、広報を社長自らやるってわけか。

 どうりで詳しいわけだ。

 幼女の方はサーカス団団長ならプレイヤースキルも高いんだろう。何かしらの道具を使うために選んだ職業がラールフット族、か。

 リリは廃神を名乗るほどのガチゲームプレイヤーだ。

 こんなかで普通なの、俺だけじゃね?  


「そうそうダッシュ君。私からのプレゼントはどうだった?」

「プレゼント? リリから何かもらった覚えはないんだけど」

「いっぱい人が来たでしょう?」

「……もしかしてお前」

「あら、こんな可愛い女の子にお前なんて失礼よ。あなたもそう思うわよね?」

「思わないっつーかお前が何かしたからあんなにプレイヤーが来たのか!」


 おかしいとは思った。俺が書き込んだ程度でそんなにわんさかプレイヤーが来るってのは妙だなと。

 こいつ、俺を配信のダシに使いやがったな!? 


「リリには援軍を頼んだんだが、クエストに置いて行かれた腹いせがしたいからと言われて断られてな。そこで提案をしたんだ。もし我々が死なずにここへ辿りつけたなら、ベースポイントを二つ無料で用意しろ、と」

「おくりものをした上に、さらにおくりものを寄越せなんて、団長はがめついよねー」

「自分だけ先に向かって酒を飲んでる身分のお前に言われたくはない」

「ま、約束は約束だし守るよ。ベースポイントの入手には二とおりあるのよね。クエストか課金。今回は二人分、課金したのを提供してあげる」

「なんやよー分からないが、ベースポイントが無料で手に入るってことか?」

「そういうこと。団長に感謝するといいわよ。それと私にもね。ダッシュ君はその様子だとまだ公式に触れてもいないみたいだから、このベースキーで部屋を使って今日は休んで。明日、ログインする?」

「学校が終わったらログインすると思う。夕方頃になるかな」

「そ。じゃあ集合はその頃、133番室を訪ねて。これは絶対だからね。もし破ったら……ひどい配信しちゃうかもよ?」

「お前な。俺をダシに使うなよ……」

「うっふふー。初日で50万PVを突破した私のパクリマ配信も良かったら見てね」

「俺が映ってそうで見たくもねー……」


 リリは怖いってことだけよく分かった。

 どうにか渋谷には着いたんだ。ここからは焦る必要なくパクリマの情報を集めていこう。

 いよいよ装備も新しくしねーとだし。

 所持品の確認なんかもまとめてベースポイントでやってみっか。そうだ……「PKを四人ほど倒したんだが、装備品とか何を奪えるんだ?」

「倒したの!? 四人も? どうやったの!?」

「それは聞いていないぞ。詳しく話せ」

「んー、やっぱ明日にしよーぜ」

「えー、せっかくこっちが持ってる情報で取引しようとしてたのに。君は次々に私の興味を引くんだから……まぁいいわ。はい、これベースポイントの鍵よ」

「これは公式通さなくても受け渡しできるのか。111番って書いてある。いいのか連番なのに」

「いいわよ別に。それを所持した状態で部屋に近づくと初期設定ができるの。最初の設定段階でフレンドのみは入れるから。君がフレンド申請を蹴ってたら、入れなかったんだけどねー」


 怖い笑顔を向けられた。選択肢、間違えなくてよかった……今日は疲れたし、まずはベースポイントでゆっくりすっか。

 幼女もぐったりしている。ここまで怒涛の快進撃だったもんな。

 リリは鍵を渡すと俺らへの関心より再び酒に関心が向いたようだ。

 あれこれ突っ込んでこないところを見ると、サバサバとした性格なんだろう。

 社長だからやることが多いってのもあるかもしれないが、面倒なタイプの女じゃなくてよかった。

 さて……ようやくソロ活動で好きなことができるぞ! 

 早く自分のベースポイントに向かおう。

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