造られた星の輝き 6


「これで再生数三十万越えとはなぁ。OK、だいたい分かった。後は現地で調べよう。確認だけど、向こうさんにアポは取れてるの?」

『ドラコニアの広報担当者、カッペと名乗る動画撮影編集の青年が大々的に護衛を募集していましたので、恐らくは大丈夫です。特殊募集要項の“白髪であること”もアンチさんには問題ありません』

「あ、そうなのね……広報担当居るとか、白髪である必要があるとか、本当はただの学芸会かなんかなんじゃないの?」


 アンチは鼻で笑って首を振る。が、内心はかなり警戒心を強めた。

 そういう団体ほど、暴走しやすく、過激になりやすいということを知っていたためである。ドラコニアもまたそうだろうという予測をアンチは立てた。

 熱意と同調圧力により、間違いに気付いても立ち止まらない危険思想の団体の多くは「自分たちだけが世界の正しさを知っている」という感覚に酔うものだからだ。そしてそれを外部から否定された時、手段を択ばなくなる。



 アンチは大穴、フォール・ブルーをまじまじと見た後、ヴァーチューの操縦桿を大きく切りつつ、近場の人工島へ降り立つための手続きをシートゥルに依頼する。


 フォール・ブルーを遠巻きに見つめるために設置されたかのような人工島、A-1エーワンは約一平方キロメートルの小さな島で、大穴を監視できるように多くの物見台が設置されていた。

 フォール・ブルーに近いにもかかわらず、治安はかなり良いとされている。銀河連邦の軍が駐屯し、フォーブルーの警察支部が置かれていることがその理由とされているが、本当に治安が良いならば大穴に不穏な噂は立たないはずだ。警戒するに越したことはない。

 なお、A-1はフォール・ブルーへの観光ツアーのための定期便が出る唯一の人工島でもある。


 そんなA-1に降りようとヴァーチューの着陸制御を行いながら、ふと気づいたことにアンチが声を荒げた。


「ってか、フォーマルハウトの竜人ドラニュート名乗ってるだけの騙りでしょ!? なんでそんなのがバズってんの!?」


 なんだか悔しいような、妙な歯痒さにアンチの眉間にしわが寄る。

 口では文句を言いつつ、A-1の発着場での誘導員の振る誘導棒の指示に合わせて、車輪を出して難なく着陸し、ゆっくりと駐車可能場所まで進む。

 そうしてアンチは、綺麗に整列した大小さまざまなエアファイターの隙間に、ヴァーチューを停車させる。


『もうじきコクピットハッチを開きます。もちろんですが、フォーマルハウトの竜人ドラゴニュートに関しては言及しない方が良いでしょう』

「へーい。本物は辛いなぁー」


 アンチは口をとがらせながら応え、ヴァーチューのテウルギア制御端末ヘッドギアを外した。

 そして代わりに、いつもは羽織らないパーカー付きの上着を羽織り、白い髪の毛を隠す様にパーカーを深くかぶる。

 ゆっくりと開いたハッチの隙間から、プールを思わせる独特な塩素のような香りが入ってくる。どうやら、この星の潮風は潮の香ではなく塩素らしき物の香らしい。

 空に浮かんでいる人工島とは思えないほど、人工島に揺れは無い。だが、何かをかき混ぜるかのような轟音が常時響いており、僅かに波の音が聞こえる。


「デカいプールを思い出すな」


 率直な感想を述べながら伸びをしたアンチに、シートゥルの声が、そのテウルギアを通じて脳内に響く。


『目的の大穴観光便が出るまで少し時間があります』

「偵察時間、多めに取ったからね」


 独特の臭いに鼻をすすり、アンチは発着場の出口へ移動し始めた。

 そんなアンチの視線の先、発着場の出口に誰かが居るのが目に留まる。


「ん? こっちを見てる?」


 発着場の出口の外からこちらを凝視する少女が居る。

 少女はツバのあるキャップを被り、右目には眼帯をしている。その服装は黒を基調として、ダブルのボタンのジャケットにチェック柄のスカート、全体的に独特のデザインをしており、スカートは心做こころなしか短い。

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