廃刊雑誌『週刊女性クラシック』未掲載エピソード
以下のエピソードは、かつて新英社から出版されていた雑誌、『週刊女性クラシック』上にて掲載される予定だったものの、発刊直前になって削除されたものである。同誌はファッションや芸能人のゴシップ、時に恐怖体験や超常現象などを取り扱ういわゆる大衆向けの雑誌であり、女性というタイトルがついていながらも男性読者をそれなりに獲得しており、雑誌の勢いがまだまだ伸び盛りだった1995年から刊行を開始した。当初は毎週刊行される人気雑誌であったものの、近年の紙雑誌媒体の下火による売り上げ低迷により、2014年7月から月刊誌となり、その一年後の2015年8月号を最後に刊行を終えた。
そんな同雑誌上では、読者から寄せられたエピソードを幅広く紹介するコーナーが巻末に設けられており、ご近所トラブルに関する話や子育てに関する話、男性のホビーに関する話など、読者にとって非常に身近に感じられる内容の話が掲載されていた。以下のエピソードは、2013年4月第2週刊行分に掲載されるはずだったエピソードの一つである。下書きの段階では間違いなく本誌上に記載されていたものの、完成版ではどういうわけか本誌に記載されることなく、削除されていたという。
――――――――――
『手紙』(30代主婦より)
今日買い物を終えて家に帰ってきたら、よくわからない手紙がポストに入っていました。はがき一枚だけの、ごく一般的な手紙です。
今時はがきで送られてくる手紙に重要なものなんてないと思っていた私は、内容を見ずに適当にポストから取り出して、そのまま家の中に持っていきました。皆さんも分かっていただけると思うのですが、今って大事なやり取りはもう全部メールなどでしてしまうでしょう?わざわざ手紙で送ったりはしないでしょう?公共料金の通知書くらいなら手紙で来たりもしますが、それだって毎月見ているわけですからパッと見ただけでそれだって分かるわけです。だから、私が手に取った手紙は決して重要なものではない、なにかの広告かなにかなんだろうと思っていたわけです。
それで、買ったものをキッチンにおいてひとまずくつろごうかとリビングのイスに腰を下ろした時、私はようやくその手紙に目を向けました。すると、かなり違和感のある手紙だったのです。差出人の名前が書かれていないんですよね。表にも裏にも、どこにも。でもその一方で、差出人住所はばっちり書かれているのです。ここでは詳細まで書くとよくないかもしれませんので少し伏せますけれど、「三重県津市●区●●町●-●-●」とはっきり書かれているんです。東京に住んでいる私には全く覚えのない住所ですし、そこに行ったことがあるわけでも知り合いがいるわけでもありません。本当に何のつながりもない住所です。
一番不可解だったのが、この手紙には切手が貼られていないという事です。これって、この手紙は郵便屋さんが持ってきたのではなく、誰かが私の家のポストに直接投かんしたってことですよね??そう考えるとなんだか気持ちが悪くて仕方がなかったというか、私は今二人の子供を育てている主婦をしているので、もしも子どもに何かあったらと思わずにはいられなかったです…。
あと、肝心のはがき裏の本文部分には「三重県津市●区●●町●-●-●で待っています」とだけ書かれていて、その文字の無骨さもあってそれはもう怖くてたまりませんでした…。
体を震わせながら落ち着かない思いを抱いていた私でしたが、それからしばらくして夫が帰って来てくれて、私はそれを全部夫に相談しました。すると夫は、こういうのはいたずらに違いないから、気にするだけよくないよと言ってくれ、何かあったらすぐに自分が警察に行くから大丈夫と言ってくれました。私が怖い思いを抱いていたのは本当ですが、やっぱり誰かのいたずらなんじゃないかと心のどこかで思ってはいたので、夫が私と同じ考えを示してくれたことで、少し安心することが出来たんです。実際それから特に変わったこともなく、これまで通りの生活を私たちは送ることができています。夫に相談して本当に良かったと思っています。
私がこの話を通じて皆様に何が言いたいかと言いますと、なにか心配な事があったら身の回りの人に相談した方が良いという事です!一人で抱え込んでいたらきっと考えが偏ってしまって、よくない方向にばかり進んでしまう事と思います。私はこの手紙を受け取って、その事がよくわかりました。もしかしたらこの手紙は、私にそういう思いを抱かせるために届いてくれたのかもしれません。
また、もしもこれをご覧になっている方でたった今同じ経験をされている方がいらっしゃいましたら、それはただのいたずらに違いないのでどうかご安心ください。
――――——————
以上がそのエピソードの内容である。住所部分は●●で伏せられてはいるものの、おそらく私の追っている例の住所であることは間違いないと思われる。
なお、エピソードの削除理由に関しては当然公式に発表などされてはいないものの、ジャーナリストの島田健斗氏が自身の著書である『週刊女性クラシックの闇』の中でこう説明している。以下、出典を記載の元で該当部分の内容を転記する。
――――
『週刊女性クラシック』にて削除されたエピソードの事を知っている人はあまりいない事と思う。これは別に編集部がやらかしたというわけではないのだが、掲載直前になって少々問題が起こったとのこと。
あの雑誌に掲載するエピソードに選ばれたら、編集部から投稿者に景品として商品券がプレゼントされることになっていた。その際当然メールか電話で両者はやりとりをするわけだが、ある日突然に投稿女性との連絡が取れなくなってしまったというのだ。
それだけなら、返事を忘れているのかそれとも飽きてしまったのかと、理由はいろいろと考えようもあるのだが、ちょうどその時報道されていたメディア記事を編集部が確認したところ、その女性と家族がまとめて失踪してしまったらしい。編集部は商品券を贈るために女性の名前と住所を控えていたから、本人で間違いないことを確信したそうだ。
これをこのまま掲載するのはなんだか縁起が悪そうだ、当時の編集部はそう考えたんだろう。結局発刊直前でエピソードは編集部が適当に考えた別のものにさしかえられることになった。もちろん、景品の商品券は編集部の懐の中。これがのちの週刊女性クラシック脱税事件に伴う廃刊騒動につながっていくわけだ。
――――
【出典】
島田健斗『週刊女性クラシックの闇』新英社,2017,p32
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます