第34話
「マリーザは療養するために、結局辞めてしまったと聞きましたけど……」
「宴の日、退職を伝えるために王宮に来ていた。お世話になったからと、忙しそうにしている調理場を少し手伝って帰ったそうだ」
その日は何人もの使用人がバタバタ動いて仕事をしていたため、レーナはマリーザの姿に気がついていなかった。
たしかに彼女が器やグラスに触れていても誰も変だと思わない。
「ですが……なぜ毒を」
「カネをもらって指示されたらしい。取り調べた結果、口を割った」
実行犯はマリーザだが、さらに裏で誰かが糸を引いていたと知り、レーナは自然と苦悶に満ちた顔になった。
彼女はそのせいで体調を崩していたのではないだろうか。本当はやりたくなくて、悩んでいたのかもしれない。
「俺のグラスに毒を仕込ませたのは、王弟のフョードルだ」
「……フョードル殿下はオスカー殿下の叔父に当たるお方ではありませんか」
「そうだな。血の繋がった叔父だ。だが、自分が王座に就くためには俺が邪魔だったらしい」
フョードルにそんな野望があったことに驚いたレーナは、両手で口を覆いながらブルブルと震えた。
まさか自分の甥を殺めようとするなんて、と。
「マリーザは王族の殺人未遂、フョードルは殺人教唆の罪で、王様が裁きを下される」
「もう心配いらないのですか?」
「ああ」
オスカーがゆるい笑みを浮かべるのを見て、レーナはホッと胸をなでおろした。
これで再び、王宮内に平和が戻ってくる。
「そうだ、レーナに見せたいものがある」
そう言ってオスカーは立ち上がり、部屋に据え付けられているクローゼットの扉を開けた。
「これを君に」
なにがあるのか気になってあとをついていったレーナに、オスカーは豪奢な宝石や装飾が施されたドレスを掲げて見せた。
レーナにとって、上流貴族……いや、王族が公式の場で身に付けるようなドレスを間近で目にするのはもちろん初めてだ。
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